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「実効速度」の意味を問う[前編]総務省ガイドラインに沿って実態検証

2016.03.29

Updated by Yuko Nonoshita on 3月 29, 2016, 12:00 pm JST

キャリア間のユーザー獲得競争がますます激化している携帯電話市場では、これまで通信の最大速度がどれだけ出るかを競い合ってきた。一方で利用者からは、提示されているのは最大通信速度とはいえ「実際の利用速度とあまりにも違いすぎる」「ちゃんと計測しているのか?」といった疑問が噴出していた。

そうした状況に対し総務省は、「インターネットのサービス品質計測等の在り方に関する研究会」を開催し、そこで策定された実効速度の測定に関するガイドラインを2015年7月に発表した。その内容は以下の図にまとめたとおりで、対象となる52の都市で「オフィス街・繁華街メッシュ」「住宅メッシュ」から選定した300ポイントを指定時間内に計測するといったルールが細かく決められ、総務省が定めたガイドラインに基づき作成された各事業者共通の計測ソフトで計測している。

▼総務省の実効速度測定ガイドラインの概要(編集部作成)
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現在、各キャリアのサイトにはこのガイドラインに沿って計測された結果が実効速度として公開されている。

サイトでは集計結果と集計前のデータに相当する測定場所と結果のリスト、それに結果を集計した「箱ひげ図」がそれぞれ公開されている。だがその表示方法はキャリアによってばらばらだ。

ドコモは「Android」「iOS」に分けて下り・上り両方の数字を表示。auは「Android」「iOS」を合わせて下りのみの数字を表示。ソフトバンクは「Android」「iOS」を合わせて下り・上り両方の数字を表示。また、地点別の測定データについては、ドコモとauがサイト上で都市ごと・OSごとの絞込検索ができるのに対し、ソフトバンクは全件のデータを1つのPDFファイルで提供している。

▼AndroidとiOSに分け、下り・上りを表示(引用元:NTTドコモ
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▼AndroidとiOSを合算し、下りのみを表示(引用元:au
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▼AndroidとiOSを合算し、下り・上りを表示(引用元:ソフトバンク
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ガイドラインでは「事業者は自社のホームページに全ての計測地点における結果を公表する」「利用者が計測結果を容易に理解できるよう、前述の「箱ひげ図」に基づく実効速度の一定幅の値(「箱ひげ図」の「箱部分」の幅を数値で表示)及び箱ひげ図を掲載する」とのみ定められているので、3キャリアの方法はそれぞれガイドラインには沿っている。それでも表示されているものが異なるため、そのまま比較するのは難しい。

そこで、今回は総務省の測定ツールを開発しているAccuver社の協力を得て、ガイドラインと近い条件で実際に計測作業を行い、計測ではどのようなデータが得られるのかを調べてみた。

測定方法

今回の測定は大阪のオフィス街および中心地で、大阪、京橋、天王寺にて定点観測を行った。場所と時間で差が出るのかを調べるのが目的なので、12時台と14時台の2回に分けて同じ場所を測定している。

端末はNTTドコモがAQUOS ZETA(下り最大速度300Mbps/上り最大速度50Mbps)、auがXperia Z5(下り最大速度225Mbps/上り最大速度25Mbps)、ソフトバンクがXperia Z5’(下り最大速度187.5Mbp/上り最大速度37.5Mbps)という、3キャリアそれぞれが「LTE方式で最も通信速度が速い」としている機器を使用した。計測アプリは総務省が計測に推奨する測定アプリと基本仕様が同じ「XCAL Speedtest」をインストールし、測定に使うファイルサイズをガイドラインと同じ1回あたり40MBを3回、計120MBをアップロードするよう変更して使用している。

40MBというファイルサイズは、一般向けに提供される各種のスピードテストアプリに比べると2~3倍程度と大きくなっている。理由は、TCP/IPの特徴である「通信の立ち上がり時に速度が出ない(TCP slow start)」現象を避けてスループットが安定した状態にしてから測定するためだ。

なお、公式の測定では不正ができないよう、アプリの測定開始ボタンをタップすると下り(ダウンロード)と上り(アップロード)の速度が順番に30秒間隔で3回繰り返し計測され、終了すると自動で実効速度適正化委員会より委託されたAccuver社のサーバーへ計測データが送信されるようになっている。しかし、今回の計測では同じ方法を試したところ、アプリがたびたびフリーズするトラブルが生じたため、手動で3回ずつ測定する方法で対応した。

▼左からau、NTTドコモ、ソフトバンクの端末でいずれもAndroid版のLTE対応機種に同じアプリをインストールして測定した。
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アプリで測定できるのは以下のような項目である。
・下りと上りの通信速度
・ピークスループットの確認
・レイテンシ(ms)、パケットロス(%)の確認
・電波強度や電波品質について、RSRP、RSRQ、RSSI、SINRの4つで確認(※)
※Android版のみで、iOSでは上記数値が取得できないためアプリからも省かれている

上記についてはアプリの履歴からも確認できるが、今回の測定では公式の場合と同じくAccuver社のサーバーに送信された結果を元に分析を行っている。

大阪の中心地5箇所にて時間を変えて測定

計測地点は、JR大阪駅構内、JR環状線京橋駅ホーム、JR環状線天王寺駅ホームと中央改札、地下鉄御堂筋線天王寺駅の5箇所で、それぞれの結果をグラフでまとめている。他にもJR大阪駅環状線ホーム、JR京橋駅北口、JR天王寺駅中央改札付近などでも計測を行ったが、最寄りポイントと数字に大きな差が見られなかったため、グラフからははずしている。

▼JR大阪駅構内中央通路口付近
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▼JR環状線京橋駅ホーム付近
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▼JR環状線天王寺駅ホーム中央付近
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▼JR環状線天王寺駅中央改札付近
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▼地下鉄御堂筋線天王寺駅改札付近
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測定ポイントを選んだ理由は、比較的人の流動が多く、利用者層もビジネス以外の買物客や学生が多いこと。たとえば、京橋駅はJRの環状線と東西線、地下鉄、私鉄が乗り入れる東ジャンクション的場所で、隣接するOBPエリアには大手電機メーカーやテレビ局があり、ショッピングビルや飲食店も多いなど、午後の早い時間帯にもそこそこ人が集まる場所になっている。ホームから周辺のビルの上にある基地局アンテナがよく見え、各キャリアが力を入れるエリアであることも伺える。

▼京橋のホームから見える建物
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また、1箇所の測定で使うデータ量が大きく(40MB×3回=120MB)、測定地点数を増やすと7GBの容量制限にすぐ達してしまうため、ガイドラインとは異なり、限られた場所での測定としている。測定ポイントが少ないとはいえ、公式の測定でも1箇所で測定できるのは1セット(3回測定を1セットと数える)であることから、比較的近い状況で測定が行われているのではないかと見ている。

一発勝負の測定結果をどう捉えるか

今回の測定結果を地点別に集計(3回計測の平均値)をとったのが以下の表となる。なお、総務省のガイドラインでは触れられていないが、実際にはLatency(遅延)も測定されているため、あわせて平均値を掲載した。

▼測定結果一覧
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また、1回ごとの測定結果をグラフ化してみた。

▼12時台測定(下り)
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▼14時台測定(下り)
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▼12時台測定(上り)
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▼14時台測定(上り)
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実際に測定してわかったのが、同じ時間帯に同じ場所で3回ずつ数分間での測定なのだから、毎回の計測結果はほぼ同じになると考えていたが、思った以上にバラつくということ。特に下りはバラつきの幅が広く、1回目は一番早かったキャリアが3回目では一番遅くなったり、3回のうち1回のスループットが他の半分以下になる場合もあった。現在、各キャリアは全地点の測定結果として「3回測定の平均速度」を表記しているが、利用者の体感は「早いタイミングでつながったのか遅いタイミングでつながったのか」により、相当違いがありそうだ。

ご存じのとおり、スマートフォンは接続したアンテナで同時に何人利用しているか、その時に流れているトラフィックが動画のようなストリームなのかSNSのような比較的データサイズの小さい画像とテキストなのかといったことで速度が変わるが、実際に数値を見るとこれだけ変わることがあるのかと驚かされた。測定当日はかなり寒さが厳しく、雨も降っていたのでいつもより人が少ないことも影響していたかもしれないが、そのあたりは不明だ。

また、今回の測定はタイミングのせいなのか、トラフィックが混雑しているためか、原因はわからないが、アプリがフリーズして測定できなくなることがキャリアに関係なく何回かあった。Accuver社に確認したところ公式の測定ではそうしたトラブルがなかったそうだが、今回の測定はかなり手間取った。だが、そのおかげで3回の計測でバラつきがあるとわかったともいえる。

測定作業を行った結果をあらためて見てみると、NTTドコモは場所と時間に関係なく安定して同じぐらいの実効速度が出ており、下り実効速度が他より速い傾向にあるように見える。ソフトバンクは全体的に下り実効速度は遅いが、上り実効速度は他よりも速い。auは場所によって上下とも実効速度に大きな差があり、時間によって速度の違いが大きかったのもauである。

ガイドラインに沿った測定では、通信速度がどのポイントでも大きく変わらないNTTドコモに対し、auやソフトバンクが場所によってポリシーを持って速度をコントロールしているといった傾向はうかがえるものの、地点数が少なかったこともありキャリア別に特徴を比較できるようなデータにはならなかった。

いずれにしても、利用者が本当に知りたい「使いたいときにどれだけ速度が出るか」を知るには、実際の測定結果はあまりにもタイミングに依存するということがあらためてデータで示された結果となった。そのため、ガイドラインは1500箇所を集計して速度を表記することを推奨しているのだろう。

「実効速度」という指標と測定方法がガイドラインで定義されたのは、キャリアが強調していた「最大速度」が利用者の実感とかけ離れているため、より利用者が受けられるサービスの品質を分かりやすくするためである。だが、現在の測定方法と公開方法で、本当にユーザーにとっての「品質」が伝わるか、またキャリアごとのエリア設計といった特徴が伝わるのかといったことには疑問を感じる。

キャリアのサービスを比較する場合に速さが重要な指標のひとつになるのは間違いない。だが実際のところユーザーの体感を左右するのは、ピンポイントでの最大速度より「どこでも安定してつながる」ことのほうではないだろうか。ガイドラインどおりに行った「実効速度」表示の試みが本当にユーザーにとって役立つ情報となっているのか、今後のユーザーの声も聞きながらどうなるかを見ていく必要があるだろう。

後編では、「実効速度」の意味を、総務省の定めた測定ガイドラインの内容に沿って詳しく考察する。(4/4週公開予定)

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野々下 裕子(ののした・ゆうこ)

フリーランスライター。大阪のマーケティング会社勤務を経て独立。主にデジタル業界を中心に国内外イベント取材やインタビュー記事の執筆を行うほか、本の企画編集や執筆、マーケティング業務なども手掛ける。掲載媒体に「月刊journalism」「DIME」「CNET Japan」「WIRED Japan」ほか。著書に『ロンドンオリンピックでソーシャルメディアはどう使われたのか』などがある。

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