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人型ロボットはメディアになるか

Nadine, What are you thinking now?

2016.04.08

Updated by Masakazu Takasu on April 8, 2016, 16:30 pm JST

シンガポールのNanyang Technology Univercity(NTU)で受付をしたことで話題になった、ヒューマノイドロボットのナディーンを見学してきた。

ナディーンは、人間そっくりのロボットを作ろうとするプロジェクトで、バーチャルヒューマンについての多くの研究に関わっている、スイス出身のナディア・タルマン教授がすすめている。

ナディーンの外見はかなりリアルだ。待ち合わせで無人のラボという、僕にとっては初めての空間でナディーンを見たとき、思わず挨拶してしまった。

▼研究室に佇むナディーン。
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▼周囲を今見ると床にマーカーなどが置いてあるが、訪問当初は人間と間違えて思わず挨拶してしまった。
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無人の空間にたたずむナディーンは、横に本物の人間が立ったり、自分がナディーンと話しはじめようとすると、急に人間からロボットになる。マイクを握ってアクセントに気をつけて英語を話さなければならないし、ロボットカメラから自分が視界に入っているかをちょっと気にし続けなければならない。ナディーンの声は、口ではなく部屋のスピーカーから発せられる。

「発展途上であること」はとても伝わってくる。

人間そっくりのヒューマノイドロボットというと、どうしても外観のリアルさに注目が集まるが、外見は日本のココロという人形などを手がけている会社が作っていて、ナディーンの研究主体はそこではない。

ナディーンを研究しているNTUの機関はメディアイノベーション、つまり新しいメディアをつくる部署だ。ナディア教授はそこでバーチャルヒューマン、新しい人間を作ろうとしている。

▼外見は日本のココロという会社がつくっている。手も間違えるほどリアル。
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「人間そっくりのロボット」という研究だと、やはり大阪大学/ATRの石黒浩先生が世界でも有名だ。僕も石黒先生のジェミノイドはいろいろなところ、たとえば高島屋でショーウィンドウのなかにいる女性型ジェミノイドや、日本科学未来館などで見たことがある。

石黒先生のジェミノイドは、先生そっくりの外見を持ち、アタマの中身や性格なども極力近づけようとしている。コピーロボットと形容されることもある。ナディア教授のロボットは、外見は教授の若い頃を依り代として作られたが、人格はナディア教授とは違う、特に依り代のないロボット人格を人工知能で作ろうとしている。

石黒先生とジェミノイドは限りなく近づこうとしているが、ナディア教授とナディーンは別人だ。ナディーンは人間らしくなろうと研究をしているのだけど、ナディア教授や現実に存在する誰かになろうとしているわけではない。

平行して行っているプロジェクトとして、画面の中だけのバーチャルキャラクターに人格を与えるプロジェクトも行われている。そちらのプロジェクトの人工知能はナディーンと同様のものだが、姿形はまったく違う。

▼画面の中だけのバーチャルキャラクター。センサとマイクで人間を認識し、受け答えをする
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もちろん、人格や知性だけで人間が表現されるわけではない。「人とは何か」というのはまだ解き明かされていないテーマで、姿形や肉体もまちがいなく人間を構成する一部である。ナディーンの今のプロジェクトは、今は動かない腕をロボットハンドにして、手が使えることを目指している。

「手が使えると、ジェスチャーなどの感情表現ができるし、たとえばチェスなどのボードゲームを一緒にプレイすることで、より関係を深めていくことができるでしょう?」と、ナディア教授は手の効果によって語る。

少なくとも短期では「人間より安くて人間のかわりがつとまる人間型ロボット」は遠いせいもあり、研究スポンサーの獲得や社会で使ってみる応用実験では苦労していると聞いた。

「人そっくり(簡単には気づかれないぐらい)のロボット」というのは、いつ実現するかわからないテーマではあるが、さまざまな映画やSF小説でテーマになるぐらい魅力的なテーマだ。ソフトバンクのPepperをさまざまな場所で見かけるようになったり、人間型ロボットに触れる機会は、だんだんと増えていくだろう。

もっとさまざまな場所で、さまざまな視点から研究する人たちが増えるのを楽しみにしている。

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イベント告知:
5月3日に、この連載で触れてきたようなアジアのメイカーズ事情やイノベーションについて話す、「メイカーズのエコシステム」の出版記念イベントを、秋葉原のアーツ千代田3331にて行います。
出演:高須正和 伊予柑 井内育生 田中章愛 MIRO 青木俊介 大塚雅和 山形浩生 
江渡浩一郎 八谷和彦 tomad きゅんくん DJきなこ餅アイス
プログラム詳細・チケット ⇒ http://ptix.co/1VOSsgY

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高須 正和(たかす・まさかず)

無駄に元気な、チームラボMake部の発起人。チームラボニコニコ学会βニコニコ技術部DMM.Makeなどで活動をしています。日本のDIYカルチャーを海外に伝える『ニコ技輸出プロジェクト』を行っています。日本と世界のMakerムーブメントをつなげることに関心があり、メイカーズのエコシステムという書籍に活動がまとまっています。ほか連載など:http://ch.nicovideo.jp/tks/blomaga/ar701264

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