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上ではなく、前を向く、リーダーシップ。

これは5年ほど前に糸井重里さんが言っていたマネジメントやリーダーシップの話ですが、今回のアクシオム新旧CPOとの対談で、そのことを思い出していました。

組織やマネジメントは、しばしばハイアラーキー構造になぞらえられます。頂点にリーダーが存在して、三角形の形で作られていく、というイメージです。確かにこうした組織は責任の体系が明確ですし、安定感もあります。

しかし、責任の体系が当該組織の内部だけで決められない場合は、どうでしょうか。そもそも仕事とは他者との間で財の交換が発生することで価値を形成する作業ですし、その他者と向かい合う主体こそが「責任者」であるはずです。だとすれば、他者(ステークホルダー)が複雑化するほど、責任の体系を内部だけで決められなくなるといえます。

あるいは、安定感の高さがかえって機敏な動きを損ねてしまうということも、特に昨今の日本で仕事をする私たちは実感しているはずです。特に、安定感を重んじるあまり、誰かの判断や意志決定を待たなければ何ら動き出せないという現象は、組織から個人に至るまで、そこかしこで散見されます。

糸井さんが話していたのは、そうした三角形を、横に倒してみよう、というものです。そうすると、リーダーの居場所は、頂上ではなく最前線になる。そういう組織が、「いま風」なのではないか、という趣旨だと思います。

この「前を向くリーダーシップ」こそ、アクシオム社が目指しているものなのではないでしょうか。そしてその具体的なアクションが、彼らの立場として消費者保護を重視した「アクシオムのプライバシーガバナンス」であるように思えます。

文中再三指摘されているように、パーソナルデータを巡る状況は、混沌としています。大きな原因はテクノロジーの進化によるものですが、それを受け止める人間の側の心理的変化、それに伴うサービスの高度化、そして法制度をはじめとした社会システムのキャッチアップが、それぞれ互いに影響し合いながら、しかしバラバラに動いています。

安定や成熟といった言葉からは程遠い、変化の激しい世界ですし、それは日本のみならず、米国や欧州、あるいはそれ以外の地域も含め、世界中で拡大している傾向と言えます。おそらく共通かつ安定した唯一の事項は「何ら共通せずどこも不安定である」ということでしょう。

だとすると、たとえば法整備の進展を待っていたり、あるいは誰かが何かを教えてくれたり、ということを期待していても、ほとんど無意味です。むしろビジネスの世界では、そんな態度では負けることが約束される、とさえ言えるでしょう。生き残るためには、自分で考え、動き出さなければならない、ということです。

その時、事業者が自分のことだけを考えていては、社会から受け入れられません。そして自分の顧客のことだけを考えるだけでも、パーソナルデータの領域では不十分です。消費者の利益と権利をできる限り守ること、その姿勢を貫くことで、むしろ産業全体に対して結果的に優位な地位を占めることができる。それが、消費者、顧客、規制当局のそれぞれから厳しい視線を送られる米国市場で磨かれてきた、アクシオム社のスタイルなのでしょう。

もちろん、彼らも様々な批判にさらされているでしょう。また、日本と米国はパーソナルデータ領域においても産業構造が大きく異なります。そういった意味でも、すべてが正解というわけではありません。

だからこそ、どのような規範を掲げ、誰と協調し、対話していくのか。そうしたことを定め、動いていくことが、業界に対してどのような影響を与え、その中で自らの事業上のポジションをどのように強化していくのか──今回の対談から、そうした彼らの戦略、努力、したたかさ、そして彼らが「ナンバーワン」として生き残っていることの理由が、垣間見えたような気がします。

【テーマ13:データ流通とプライバシーガバナンス】
対談:アクシオムが目指すデータ利活用社会の実像
(1)匿名化で悩んでいるのは日本だけではない
(2)FTCの厳しい規制から見えてくる「行動規範」の必要性
(3)「不公平の解消」という新しい課題へのチャレンジ

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特集:プライバシーとパーソナルデータ

情報通信技術の発展により、生活のあらゆる場面で我々の行動を記録した「パーソナルデータ」をさまざまな事業者が自動的に取得し、蓄積する時代となっています。利用者のプライバシーの確保と、パーソナルデータの特性を生かした「利用者にメリットがある」「公益に資する」有用なアプリケーション・サービスの提供を両立するためのヒントを探ります。(本特集はWirelessWire News編集部と一般財団法人日本情報経済社会推進協会(JIPDEC)の共同企画です)