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エチオピア、エルニーニョによる干ばつが深刻化:1,000万人以上に食糧支援が必要

2016.04.14

Updated by Hitoshi Sato on April 14, 2016, 13:42 pm JST

▼ユニセフが設置支援した給水所でタンクに水を汲む女性
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ユニセフによると、エチオピアは現在、エルニーニョ現象の影響による異常気象によってこの数十年で最悪レベルの干ばつに見舞われているとのことだ。

昔から飢餓の代名詞だったエチオピア、農業に大打撃

エチオピアは、これまでにも繰り返し洪水や干ばつに襲われてきた国で、それ自体は珍しいことではないようだが、今回の干ばつはその規模と被害の甚大さが、これまでの経験をはるかに超えているとのことだ。たしかに1980年代、エチオピアと言えば飢餓のイメージが強かった。

エチオピアの労働人口の85%が農業に従事しており、2015年には農業生産高の80%以上を支えている雨期に雨が降らなかったため、人々の生活に大きな打撃を与え、収穫がなく食糧備蓄が減る今年は非常に厳しい状況になることが予想されている。

エチオピアでの人道支援のニーズは、2015年比の3倍に膨れ上がっている。エチオピアでは緊急の食糧支援を必要とする人が、1,000万人以上いて、それは総人口の10%以上になる。また、600万人に上る子供たちが、飢餓や病気、水不足の危険に直面している。

さらにエチオピアでは、そのような状況から、栄養不良が急速に広がっている。重度の急性栄養不良の治療が必要な子供は45万人もいる。さらに220万人の子供や妊産婦が、 中度の急性栄養不良状態にあるようだ。

干ばつが原因で質の高い教育を受ける機会を失った子供や若者は210万人、また安全な水やトイレの支援が必要な人々は580万人もいる。

2011年にもアフリカ東部で食糧危機が起きたが、その時は食糧支援を必要とする人は450万人で、重度の急性栄養不良児は32万人だった。比較すると、 今回の状況の深刻さがうかがえる。

▼給水タンクに水を汲む少年と水を飲む家畜
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携帯電話普及率もまだ37%程度

エチオピアの食糧危機による子供たちの栄養不良の状況は日本にはほとんど届いてこない。日本のメディアにとっては遠いアフリカの話であり、報道の優先順位も高くない。またエチオピアからも情報発信が多くされているわけではない。

エチオピアでは携帯電話の事業者はEthio Telecomの1社しかなく、携帯電話の加入者数は3,500万程度で人口普及率では37%程度だが、アフリカのようにプリペイドSIMが主流の国では実際には1人で複数のSIMを所有していることから、もっと少ない。それでも5年前には全く普及していなかった携帯電話で人口普及率では10%にも満たなかった。アフリカの中でも普及率は非常に低い国の1つである。なお、エチオピアでは固定電話もEthio Telecomのみが提供している。固定電話の家庭への普及率は4%程度だが、そもそもアフリカでは固定電話はほとんど利用されない。

携帯電話よりも食糧の方が重要で、命に関わるという人の方が遥かに多い。現在、ヨーロッパに移民や難民としてシリア人らは、シリアですでに携帯電話やスマホを所有して、FacebookやTwitterも利用していた。そのため、ヨーロッパに行ってからもそれらを通じて、自分たちの置かれた境遇を世界に向けて情報発信したり、母国や他の地域にいる知人、友人らとコミュニケーションできる。しかしエチオピアでは、そもそも「その日に食べていく糧」すらもなく、栄養失調に苦しんでいる人が多く、またそのような状況にある人が携帯電話やスマホを通じて窮状を世界に訴えることもできない。

ユニセフでは特に栄養治療食、栄養治療用ミルクなどの栄養物資の支援を進めている。今後は重度の急性栄養不良が増加することも視野に入れ、すでに54万箱以上の栄養治療食を調達している。これは、一国への栄養治療食支援としては最大規模で、2015年の世界全体の同物資調達量の22%を占めている。また、安全な水が入手できずに、下痢性疾患や主な感染症を予防するためのワクチンや医薬品の支援、移動式保健チームの派遣、国の保健システムの強化などを支援している。またエチオピア政府と協力し、干ばつの被害が深刻な地域の給水施設の状況についてリアルタイムで情報収集し、いち早くニーズに対応するための支援や、給水車による水供給を拡大する支援を続けている。

世界にはまだまだ携帯電話やインターネットどころか、「今日これから何を食べていけばいいのかに困っている」人がまだたくさんいることを忘れてはならない。新年度になり歓送迎会やらで居酒屋では大量に食べ残しが出ているが、酔っぱらっていてもエチオピアの飢餓に苦しむ人たちがいることも思い出そう。小学校の時に給食を残すと「アフリカの子供たちのことを考えなさい」と怒られたのを思い出す。

▼すぐ口にすることができる栄養補助食を2歳の息子に食べさせる母親。
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【参照情報】
ETHIOPIA EL NINO EMERGENCY

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佐藤 仁(さとう・ひとし)

2010年12月より情報通信総合研究所にてグローバルガバナンスにおける情報通信の果たす役割や技術動向に関する調査・研究に従事している。情報通信技術の発展によって世界は大きく変わってきたが、それらはグローバルガバナンスの中でどのような位置付けにあるのか、そして国際秩序と日本社会にどのような影響を与えて、未来をどのように変えていくのかを研究している。修士(国際政治学)、修士(社会デザイン学)。近著では「情報通信アウトルック2014:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)、「情報通信アウトルック2013:ビッグデータが社会を変える」(NTT出版・共著)など。

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