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電子書籍の未来を握るのはインディー系

Indie authors define the future of eBooks

2016.04.27

Updated by Mayumi Tanimoto on April 27, 2016, 10:23 am UTC

先々週になりますが欧州でも最も大きな書籍業界の展示会の一つであるLondon Book Faireに行ってまいりました。

ここ5年ほどは、書籍関係の展示会なのにもかかわらず「デジタル」「電子書籍」が最も注目を浴びている状態でしたが、今年は電子書籍関連のセミナーやイベントが激減していたのが印象的でした。

欧州では北米と同じく一時のブームが落ち着いたのか、昨年から電子書籍の売上がダウンしていることが関係あるのでしょう。

例えばイギリスの大手出版社5社の電子書籍売上は前年比0.4から7.7%減で、電子書籍出始めてから初の減となっています。アメリカの場合は大手5社の電子書籍売上が一年で8%ほどダウンしています。

ダウンの理由には、電子書籍というものがどんな感じかわかったので飽きた、Amazonやその他の書店のセールで電子書籍を買いすぎて「積ん読く状態」になっている、など様々な理由があるのでしょうが、イギリスの大手書店チェーンWaterstonesのchief executiveである James Daunt氏の指摘が興味深いです。

まず、大手書店がAmazonなどのセールを嫌って価格の独自管理を始めたために値段が上がったことです。

Author Earningsの調査をみてみると、アメリカの場合、大手出版社の電子書籍価格は平均で17%上昇しています。中小も大手も電子価格の平均価格は9ドルを越えます。これは今の為替レートだと1,000円を越えます。数年前は6ドル程度でも高いなという印象でしたが、大手がAmazonと交渉したことにより価格がアップしています。

次に、インディー系(自費出版)の電子書籍が増えて低価格帯の電子書籍を席巻している点です。出版点数は年々増えているのですが、数は増えても値段が安いので数字には反映されないというわけです。

インディー系電子書籍の販売というのは、フォーマットが多様なことや販売フラットフォームも多岐に渡るので(ほとんどはAmazonですが)正確な数字の把握が難しいわけですが、Author Earningsの予測ではアメリカの電子書籍の場合は14%程度、書籍エージェントやマーケターの予測を総合すると、イギリスの場合は10〜30%になります。

同調査では、Kindleのベストセラーになるとインディー系の割合は40%近く、成人向けフィクションでは26%になります。割合は年々伸びていますが、インディー系書籍の値段は安いため、大手出版社の電子書籍に比べると売上自体の伸びは大きくありません。インディー書籍の場合、2014年に最も売れたのは2〜3.99ドル(222〜432円)の価格帯です。

これはインディー系著者にとっては実は良いニュースで、ニッチでも読者がいる分野の本を、低価格で出して、うまくマーケティングすれば売れるということです。

例えばロンドンでは最近「大人のための木に登る方法」という本が出版されて話題になりましたが、これはまさにロングテール的な本というか、「ニッチだけど、どこかにそれを読みたい人がいる」というコンテンツです。

ソーシャルメディアで同好のお仲間を探しやすくなったり、ニッチな分野でも情報を拡散しやすくなったので、インディー系著者や出版社は、社内の承認やコスト管理などの邪魔がない分、好き放題できるので、うまくやればマネタイズがしやすくなったということです。

大手出版社にとって、売上の点で電子書籍は美味しい市場ではないので、紙の本と同程度の価格を維持しないとやっていけないわけですが、富裕層以外の実質賃金が年々下がっている上、雇用は不安定。消費者が娯楽に費やせるお金は年々減っています。

一冊1,000円の本を何冊も買うことができる人は多くはありませんから、そこを逆手に取って、大手よりも安いけども、ちょっと変わった内容のコンテンツを提供できるのであれば、素人が出したものの方が売れてしまうことだってある、ということです。

これは、電子書籍にかぎらず、イラスト、アプリ開発、ニッチなデバイスの開発なども同じです。うまくマーケティングしてお客さんさえ探せば、一人や少人数の家族だったら何とか食べていくぐらい稼ぐことができる状況というのが産まれています。

London Book Faireではそれを象徴するかのように、昨年と同じく、最も人気のあったセミナーは電子出版の自費出版ブースで、数十人収容するシアターは立ち見が出る状況で、メモやデバイスを片手に真剣に耳を傾ける人が大半でした。ブックフェアなのに、具体的なマーケティングの話やコスト管理の質問が飛び交い、「本」の話をしていないのです。紙の本を出している有名著者のセミナーはガラガラだったりしたので、ギャップがありました。

そして話しているのは自分一人で120万部の本を売った元サラリーマン、推理小説のベストセラー作家になった元会社経営者、自分の小説を12年もの間出版社に持ち込んだけども本にならず、自分で電子書籍にしてみたらベストセラーになってしまった女性。

自分一人で考えて、デザインして、マーケティングも営業も価格の取り決めもやっている。一人プリンス状態を簡単にできるようになったというのは、やはりすごいことです。

見に来ている人も話している人は、年齢も国籍も出身業界もバラバラ。なんだか面白い状況になっているなあと思いました。クリス・アンダーセンがMakersの中で語ったのは製造業の個人産業化の話でしたが、本の世界のそれが目の前にあるんです。

ゲームがコンソールからアプリに移動し、CDがストリーミングに移動したように、活字もアプリに移行します。消費者は、大半の雑誌や本を、かつてよりも安くて置き場所にも困らないアプリで消費し、本当に気に入った本のみを、限定本や豪華本として部屋に飾るようになっていきます。その移行スピードは思った以上の速さで進んでいて、止めることはできないということです。

London Book Faireでは、電子出版の自費出版ブースは場所の確保という名目で、展示場の奥の奥の目立たない所に追いやられていましたが、その変化の脅威を象徴しているかのようでした。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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