ワインは経営者の教養である・・・と言ったら言いすぎかもしれませんが、経営者の趣味の行きつくところのひとつはワインとゴルフという説があります。
どちらもお金がかかって、しかも知識と経験が必要だというところが共通しているかもしれません。
ちなみに筆者はゴルフはからっきしで、まだ一度もホールにでたことがありません。
あまりに経験が不足しているので、打ちっぱなしに通う程度です。
そして不思議な事に最近は女性がゴルフをやっているケースが多くて、年齢に関係なく、ゴルフをする女性の知り合いが少なくありません。
と言っても、筆者はゴルフをしないことになってるので、一緒にホールを回ったことなど一度もないのですが。
ワインはゴルフに比べると比較的簡単です。
練習する必要がないからです。
ソムリエやソムリエールを目指すなら、もちろん練習は必要ですが、基本的にはワインはお金を払って飲めばそれで終わりです。
よくマンガに出てくるような利き酒のようなことは、日常生活ではやりません。それは曲芸であって、目玉焼きを作る人が常にタマゴの手品ができなければならないわけではないのと同様、ワインの場合は、単にワインを楽しめればそれでいいのです。
さて、ところがワインを好きな若者はほとんど居ません。
筆者はこれを「我慢飲料」のひとつと位置づけているのですが、学生のうちは、まずビールを飲んでその苦さにウエーッとなります。
次に、ビールの苦さが苦にならなくなると、その独特の苦味が快感に変わってきます。
同じような飲み物に、コーヒーとワインがあります。
コーヒーも、そもそも苦いわけです。なんで苦いものに砂糖を入れて甘くして飲まないとならないんだという感じですが、これがだんだん、ブラックの苦味や酸味がクセになってきます。
ワインも同様ですが、少し事情が違います。
ワインは、未だに広く理解されてはおらず、特に学生が行くような大衆居酒屋なんかで出てるワインは、保存状態が悪かったり、防腐剤が大量に入っていたりしてワインの風味、ワインの良さというのがほとんどスポイルされています。
だから学生はワインが嫌いです。僕も学生の頃は嫌いでした。
特に、二十歳になって堂々と酒が飲めるようになってから、居酒屋に言って、マンガの中の大人が「うん、これは素晴らしい」などと絶賛している赤ワインというやつを試してみたりすると、「なんじゃこりゃ、とても飲めたもんじゃないぞ」と衝撃を受けるわけです。
ワインの初心者が飲むべき赤ワインは、居酒屋にはありません。
それなりのお店に行って、それなりの価格を払わなければなりません。
そしてワインの魅力の真髄は、やはり赤にあります。
だから、「スパークリングや白ワインは好きだけど、赤ワインは苦手」というのは、ワインを知っているとは到底言いがたいわけです。
ワインを楽しむには、まずどのワインが美味しくて、どのワインがそうでないか、という知見が必要なのと、次に高級なワインはどのように楽しむべきか、という教養が必要になります。さらに、料理とマリアージュさせるにはどの料理とどのワインを合わせるべきか。これには膨大な組み合わせがあり、ベストの組み合わせを見つけるのは至難の業です。
そして、どの地方のワインはどの年が当たり年なのかという知識も必要になります。
そしてワインは星の数ほどあります。
定番と言われるフランスのワインにしても、ボルドーとブルゴーニュだけで相当数に上りますし、そもそも高価なので手当たり次第に全部飲むというわけにはいきません。
フランスを中心とした両翼、スペインとイタリアにも相当数のワインがあり、中にはボルドーの5大シャトーを凌ぐ素晴らしい魅力を持ったワインもあります。東京にいると、世界中の旨い酒が輸入されてるという錯覚に陥りますが、筆者の知る限り最高の白ワインは未だ輸入されていません。あちこちの業者を当たったのですが生産量が少なく売ってもらえないそうです。
ワインが経営者の教養である理由は、お金がかかる趣味であるのと同時に、味覚と嗅覚を研ぎ澄ませないとなかなか楽しむことが出来ないからでしょう。
そして味覚も嗅覚も残念ながら年齢とともに衰えてきてしまうので、年をとればとるほどどの酒でもどうでも良くなるという性質もあります。
ですから経営者にとってワインを嗜むというのは、「自分は味覚も嗅覚も衰えていない」ということを暗に主張している・・・と言ったら言い過ぎかもしれません。が、将来経営者を目指す人は若いうちからできるだけワインを見分ける味覚と嗅覚を鍛えておくのは悪く無い選択だと思います。酒が飲める経営者はたいていワインが好きだからです。
もうひとつ、ワインの趣味としての優れた点は、お金をいくらでも掛けることができるということです。
課金ガチャと同様で、お金をかければ掛けるほど高いワインを飲めるわけですが、一部の大富豪が大金を払う超一流ドメーヌのセカンドワインは圧倒的な安さで庶民でも楽しむことが出来ます。
経営が軌道に乗り、ある程度自由に使えるお金が増えると、次に経営者を襲うのは、「お金の使いみちがない」という問題です。家を買って、車を買って、さあどうしよう、というわけです。その中ではワインを楽しんだりゴルフに行ったりするというのは、ジェット機を買うよりは遥かに安い趣味なので人気があるのではないでしょうか。
さて、本題はここからです。
ワインを楽しむためには、まず飲むこと、背景を知ること、という2つの要素があるのですが、背景を知るというのは非常に大掛かりです。というのも、その背景というのは、まずそのワインがどのような気候を持ったどのような地質の地方で作られた葡萄から出来ていて、その葡萄を育てた人はどういう人なのか、その葡萄のDNAはどのようなものなのか、という、競走馬のようなデータが必要になるからです。これは本の上の知識ではなかなか覚えることが出来ません。
そこで、ワイン通を目指す人はワインを作るための葡萄畑に行きます。
ワインに使う葡萄は、普通に食用としては食べないようなクセの強いものもあります。そういうワインになる前の葡萄を食べてみて、また、葡萄が根を張る地面を触ったり、時には口に含んだりしてみて、この土壌からこのワインが生まれるのだということを身体に叩きこむのです。
物理的に移動するという経験は、非常に強い学習体験となります。
これ、人工知能でいえば、旅行に行ってぶどう畑を体験するというのが、学習データセットそのものになります。
例えばなにも知らないと、カリフォルニアワインのロバート・モンダヴィとオーパス・ワンは全く無関係のワインに見えます。
けれども、モンダヴィとオーパス・ワンは未知を挟んで反対側の畑にあり、モンダヴィはオーパス・ワンの共同オーナーでもあるのでこの2つのワインは実は兄弟のようなものであることが分かります。
オーパス・ワンは5万円以上しますが、モンダヴィのワインは1000円台から飲めます。
同じ作り手、同じオーナーで50倍の価格差があるわけですが、闇雲に高いほうが美味いかと言われると難しいのです。5万円のオーパス・ワンの良さを理解するためにはまず色々なワインを飲んで、相対的なワインの価値、値打ちというものを知っておく必要があります。
このあたり、オートエンコーダが教師なし学習するパターンに非常に近いわけです。とにかく闇雲に飲んで、「ゲエっ」というワインにも出会いながら、自分の中でのバランスを見つけるのです。と言っても、最近はコンビニに置いてる安いワインでもそこまで酷いのはなくなったので、よほどの安居酒屋でなければ「ゲエっ」というワインには出会わないのですが、まず沢山経験して「ワインとはこういうものだ」というのを自分なりに掴むことが大事です。これがオートエンコーダの事前学習にあたります。
次に、「これは当たりだ」「これは美味い!」と思ったら、エチケット(ラベル)を見て、作り手やメーカー、製造年、品種などを確認します。
すると、「これがカベルネ・ソーヴィニヨン種かあ」とか「これがアンリ・ジャイエか」と分かったりします。
逆だと、なかなか覚えられません。つまり、いきなり「これがブルゴーニュの神と呼ばれた、アンリ・ジャイエのワインですよ」と飲まされても、先入観が先に立って、それの良さがわからないのは自分が悪いのではないかと思いがちです。だから無理にでも「これが上等なワインなんだ」と思い込もうとします。そうするとワインというのはとてもつまらない趣味になってしまいます。
AIでいえば先に飲んでから後で作り手の名前を知るのはオートエンコーダの半教師あり学習のファインチューニング、先に作り手の名前を聞いてから飲むのは事前学習なしの全教師あり学習の方法といえるでしょう。どちらも最終的な結果はおなじになりますが、オートエンコーダで事前学習したほうがファインチューニングしたときの効率は良くなります。
つまりどういうことかというと、若いうちからいろんなワインを闇雲に飲んでおく(今日なし学習のオートエンコーダ)と、後で高級なワインを飲んだとしても、すぐにワインの本質的なところを掴むことができる(ファインチューニングが効果的に機能する)ということだと言えるでしょう。
このあたり、ワインを飲まない人には全くピンとこない説明だと思いますが、ワインを嗜んだ経験があれば、お分かりいただけるのではないかと思います。
さて、味覚、嗅覚というのはそもそもが再現の難しいものです。
数値化もできないし、ハッキリと「これがこう」と言えない、曖昧模糊としたものです。
そしてワインの場合、質と価格は比例していません。
全く無関係ではないのですが、こちらが飲み手として成長しないと、高級なワインの良さが分からない、というのがこれまた難しいところです。そしてワインの価格は青天井で、ある程度以上まで行くと、質と無関係に価格が決まります。このあたりは真空から価値を生み出そうとする経営者がワインを無視できないのと関係性が深い気がします。ワインの価格を決定するのは、需要と供給のバランス、そして「格」という目に見えないものだからです。
ワインに関して、味覚と嗅覚だけでは到底覚えきれません。
AIが最も困ることの一つが、おそらくワインを嗜むという行為でしょう。
先日、日本のワインの産地として名高い、山梨県の勝沼に行ってきました。
一面のぶどう畑に、違和感のあるものが飾ってありました。
一瞬、コレがなんだかわからないわけですが、これはCDです。
よく見るとぶどう畑にはあちこちにこのようなCDがぶら下がっています。
このCDはどんな効果があるかというと、鳥よけです。
伝統的な鳥よけはこんな感じです。
鳥は光を反射するものや、目のようなものに本能的な恐怖を感じて近づかないそうで、実際、設置してしばらくの間は効果があるそうです。
しかし鳥もさるもの、しばらくすると、CDや目玉風船は危害を加えてこないことを学習する(おそらく強化学習)と、今度はこうした鳥よけには何の効果もなくなってしまうそうです。
丸いものが巨大ないきものの目に見えて鳥が怖がる、という話も普段からAIを学習させていると非常に納得感のある話です。
鳥は外敵から自分を守らなくてはならず、相手の巨大さはある程度は目の大きさに比例するからです。
また、遠くから巨大な目が見えたら、本能的には近づくのを避けるようになるのでしょう。
キラリと光るものも、たとえばより強い鳥である鷹や鷲といった肉食系の鳥の爪や牙の可能性、もしくは猟銃に狙われている可能性があるので本能的にはとりあえず避けたほうが無難ですが、そのうち偶然、曇りの日など光の反射がない状態でCDに近づいて観察されると、「なあんだ」と鳥も安心して、葡萄を食べてしまうのかもしれません。
今のAIは、もしかすると鳥と同じくらいは発達してきているかもしれません。
実際、ドローンにAIを載せて飛ばそうという実験を世界中あちこちでやっています。
そして鳥くらい規模の小さい神経回路でも、時間をかければCDや目玉風船が単なるこけおどしだと判別できる程度の知能があるということは、なかなかおもしろい事実です。ちなみに今のAIがそれを判断するのはまだ難しいのです。
今のAIは鳥よけに騙されたら騙されっぱなしになりそうです。
いかにだまされないようにするか、というのがうまく強化学習できると面白いですね。
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登録はこちら新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。