イーロン・マスク「電気自動車、宇宙飛行船、火星移住計画」をつなぐ「危機」意識

Tesla, SpaceX, and Mars conquering Mars - What links the three elements of Elon Musk.

2016.10.05

Updated by Hayashi Sakawa on 10月 5, 2016, 06:34 am JST

イーロン・マスク(Elon Musk)が先ごろ、火星移住計画(人類が住めるコロニーの建設計画)に関する構想を発表していた。マスクがそういうものを口にしていることだけは知っていたので、「ああ、本当にこんなものを出してきたんだ」といった感じでニュースを眺めていたが、あの話題に関して「テスラ(Tesla)やスペースX(Space X)とのつながり、あるいはその3つを同時並行で進める理由がよく分からない」という声を耳にした。そこで今回はこの3つの事業の基底にあるマスクの危機意識と呼ぶべきものをおさらいしてみる。

「マスクは自分の究極の野望を隠そうとはしない。その野望とは、地球(とその上で暮らす人類)を救うのに役立ちたいということだ。世界の経済が依存するエネルギーを持続可能なものへとシフトすることで、地球を救うことが可能だとマスクは考えている。ただし、頭の切れる大富豪なら誰でもそうするように、マスクは自分の賭けをヘッジすることも忘れない。火星上に人類のコロニーを建設するという目標を掲げ、その実現に向けて積極的に動くことで、前者の賭けが外れても手詰まりにならないように準備している。

これはVanityfairのサイトで見つけたマスクのプロフィールの意訳だが、テスラとソーラーシティ(テスラが合併しようとしているエネルギー関連の「兄弟会社」)、そしてスペースXと火星移住計画との関連性をうまく表現していると思う。また再生可能エネルギーへの転換も、宇宙関連の取り組みも難易度が相当高いという共通点がある。だからこそやる価値がある、賭けに勝った時のリターンも大きい。そう発想する「ギャンブラー気質」と呼べばいいようなものがマスクの中に備わっていると感じられる。

そんなマスクが、宇宙関連の取り組みにチャレンジする理由を訊かれ、「あなたは万一の時に備えてハードディスクのバックアップをとっておだろう。それと同じことを、人類の場合もしておくべきだと思わないか」と答えたという一節を含む記事、あるいは「複数の惑星間を行き来できるようにするか、さもなくば絶滅か」と誇張して答えていた対談の記事も見つかる。

ただし、マスクにとっては「危機」は文字どおり「危険とチャンス」が一体となったもの。その発言などに「いたずらに危機感を煽る」ようなところが感じられないのはそのせいとも考えられる。

ペイパル時代にすでに「火星移住」のアイデア

ある時期から「テスラの」という枕詞が必ずつくようになった感もあるマスク。ただし、wikiのページには、マスクが2001年に「火星上のオアシス("Mars Oasis”)」に関するコンセプトをまとめていたとある。また前年10月には、マスクがペイパル(Paypal)のCEOの座から追放されていたとある。イーベイへのペイパル売却が完了したのは2002年10月のこと。マスクがその売却で手にした資金(約1億6500万ドル)を使って現在につながる各事業を始めたというのは知っていたが、ペイパル時代にすでに宇宙関連の取り組みに着手していたというは今まで知らなかった。

このページには、マスクが2001年と翌年に、不要になった大陸間弾道弾発射用ロケット(refurbished ICBM)を買い付けようとロシアに足を運んでいた、という記述もある。宇宙空間に物資を打ち上げるための手段をまずは確保しようと考えたことがうかがえる。さらに、その時にロシア側から提示された「1台800万ドル」という金額は高すぎると思ったマスクが、もっと安くできる手がほかにあると考え、それが2002年6月のスペースX創業につながったという一節もある。

テスラの急場で見せたギャンブラーとしての真骨頂

2008年あたりに一度テスラが潰れかかったことがあった。マスクがその急場をどうしのいだか、などがわかる2010年の記事には「2008年暮れにテスラの手持ち資金は5万ドル以下」「1億ドル以上あったマスクの個人資産も2000万ドルに減っていた」などとある。

2000万ドルあれば、たいていの人なら一生困らずに暮らしていける。そして、マスクはそちらの選択肢を選ぶこともできた。だが、立て直しの道筋が頭の中で描けていたマスクは、残りの自分の資金をさらにつぎ込んで勝負を続けることにした。どんなに厳しく見える局面でもそれを乗り切れる見込みがある、つまり事業家としてこれだけの打ち手がまだ残っており、それをうまく重ねていければ難局を抜け出せると考え、その可能性が残っているうちは決して勝負を諦めない。そんな冷静なギャンブラーの姿も浮かんでくる。

「第一原理から思考する」ーーマスクの「客観性」

この可能性という部分に関連しそうなものとして、マスクの「客観的なものの見方(客観性)」という要素も思い浮かぶ。このものの見方は、一部で有名になったマスクの思考方法から生まれたものと考えられる。これに関して、「イーロン・マスクのすすめ」というブログで、マスクの思考方法に関する上手な説明を見つけた。以下に該当しそうな部分を引用させていただく。

第一原理(からの思考)とは物理学的に世界を眺めることです。これはもっとも本質的な事実まで突き詰めて、そこから推論をするという意味です。

第一原理というのは物理学的な視点から見た本質的な要素から思考を組み立てるということです。そこには成功者の体験という主観的なものは一切含まれません。どこまでも冷徹に客観的事実を重視します。

イーロン・マスクとモーター原理、電磁気力や電磁誘導についてより)

再生可能エネルギーへの転換も、火星への移住も、マスクは事実の積み上げをもって「可能である」と判断したのだろう。

(マスクのプロフィールを紹介したVanity Fairの動画)

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坂和 敏

オンラインニュース編集者。慶應義塾大学文学部卒。大手流通企業で社会人生活をスタート、その後複数のネット系ベンチャーの創業などに関わった後、現在はオンラインニュース編集者。関心の対象は、日本の社会と産業、テクノロジーと経済・社会の変化、メディア(コンテンツ)ビジネス全般。