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大躍進で国際的に注目される東ティモールの携帯電話事業者Telemor

大躍進で国際的に注目される東ティモールの携帯電話事業者Telemor

Telemor, mobile network operator in Timor-Leste has grown rapidly

2016.07.19

Updated by Kazuteru Tamura on July 19, 2016, 15:09 pm JST

21世紀初の独立国家でティモール・レステとも呼ばれる東ティモール民主共和国(以下、東ティモール)、2002年5月20日にインドネシアによる不法占領から解放、国際法上はポルトガルから正式に独立した。独立後は長らくTimor Telecom(以下、TT)が携帯電話事業を含む電気通信事業を独占したが、2013年にTTの独占が崩れた。一度は新規参入企業の選定から落選したViettel Timor Leste(以下、VTL)は新規参入後に躍進し、権威ある賞も受賞した。今回はそんなVTLが躍進する理由を解説する。

補欠から新規参入が決定

東ティモールでは独立前の2000年より豪州のTelstraが携帯電話事業を手掛け、独立後にTTが携帯電話事業を含む電気通信事業のライセンスを取得した。TTはTelstraから引き継いで2003年3月1日より社名と同じブランドで携帯電話サービスを開始し、それに伴いTelstraは東ティモールから撤退した。

東ティモール政府は電気通信分野で新規参入企業の迎え入れを決め、2012年4月12日より新規参入企業の募集を開始し、2012年6月3日に応募した企業を公表した。新規参入企業へのライセンス発給枠はあらかじめ2枠としたが、英領バミューダ諸島で設立してジャマイカに本社機能を置くDigicel Group傘下で大洋州における事業を管轄するフィジーのDigicel Pacific、インドネシアのGapura Caraka Kencana、インドネシア国営のTelekomunikasi Indonesia(TELKOM)傘下で国際事業を管轄するTelekomunikasi Indonesia International(以下、Telin)、ベトナム人民軍の統括を担うベトナムの政府機関である国防省が所有するViettel Group(軍隊通信グループ)傘下で国際事業を管轄するViettel Global Investment(以下、Viettel Global)の4社が応募した。

東ティモール政府は2012年6月28日にDigicel PacificとTelinに対してライセンスを交付すると発表し、Viettel Globalは落選した。Digicel PacificとTelinが応募時に提案した提供エリアなどの計画も公開されており、Digicel Pacificは4ヶ月以内にサービスの開始および人口カバー率を91%以上とすること、Telinは6ヶ月以内にサービスの開始および人口カバー率を94%以上とすることを提案したという。

しかし、Digicel Pacificはライセンスの取得を辞退し、次点のViettel Globalもライセンスの取得に必要な条件を満たしたことから、東ティモール政府は2012年7月11日にDigicel Pacificの代替としてViettel Globalにライセンスを交付すると発表した。Viettel Globalが応募時に提案した計画も明らかになり、サービス開始当初は人口カバー率を93%以上とし、3年以内に人口カバー率を95%以上とすることを提案したという。

Viettel GlobalとTelinはすぐに新規参入に向けた準備を進め、2012年中に東ティモール法人としてViettel GlobalはVTLを、TelinはTelekomunikasi Indonesia International(TL)(以下、Telin Timor-Leste)を設立した。なお、VTLはViettel Globalの完全子会社である。

Telin Timor-LesteはブランドをTELKOMCELとして2013年3月16日に携帯電話サービスを商用化し、10年以上も続いたTTの独占が終了した。VTLは最後発の携帯電話事業者となり、ブランドをTelemorとして2013年7月10日にサービスを開始した。なお、VTLの通信方式と周波数は3GがW-CDMA方式の2.1GHz帯(Band I)と900MHz帯(Band VIII)、2GがGSM方式の1.8GHz帯と900MHz帯である。

▼VTLのショールーム。脇には東ティモールとベトナムの国旗を掲揚する。
VTLのショールーム。脇には東ティモールとベトナムの国旗を掲揚する。

東ティモール独自ブランドを展開

Digicel Groupなど国際的な通信事業者は参入する国や地域でブランドを分けずに同一ブランドを展開することも多いが、Viettel Groupは世界各国で異なるブランドを展開する。東ティモールのTelemorやベトナムのViettel以外に、カンボジアではMetfone、ラオスではUnitel、ブルンジではLUMITEL、カメルーンではNexttel、モザンビークではMovitel、タンザニアではHalotel、ハイチではNatcom、ペルーではBitelとすべて異なるブランドで、新規参入が決定したミャンマー(ビルマ)でも独自ブランドを展開する見通し。

Telemorは英単語のtelecommunicationsとmoreを組み合わせ、さらに末尾はティモールを意味するTimorやamorと同じ発音としている。なお、amorは東ティモールの公用語のひとつであるテトゥン語で愛を意味する。東ティモールの人々が愛着を持てるよう意味が込められている。

▼VTLのSIMカード。75&76は電話番号を指し、75と76から始まる8桁の電話番号がVTLに割当済みである。
VTLのSIMカード。75&76は電話番号を指し、75と76から始まる8桁の電話番号がVTLに割当済みである。

最後発から猛追

東ティモール政府は携帯電話サービスの加入数を不定期で公開してきたが、2015年第1四半期以降は四半期ごとに携帯電話事業者各社の加入数を公開しており、東ティモールにおける2015年第3四半期末時点の加入数などは表1に示した。

▼表1:2015年第3四半期末時点のキャリア別加入者数
表1

東ティモール政府によるとVTLの加入数は2015年第1四半期末時点で58万6,989件、2015年第2四半期末時点で47万730件と推移した。なお、東ティモール国勢調査によると2015年7月時点で人口は116万7242人で、携帯電話サービスの人口普及率は約111%に達した。

一方で、Viettel Groupも個別にVTLの加入数およびシェアを発表し、2014年末時点で42万3,000件、2015年第3四半期末時点で45万件、2015年末時点で54万件に達したという。シェアは2014年末時点で約45%、2015年第3四半期末時点で約47%となり、東ティモールでトップのシェアと主張する。

東ティモール政府の公開情報は携帯電話事業者各社から収集したデータとするが、Viettel Groupの公開情報とは多少の開きがある。東ティモール政府が発表した2015年第1四半期末時点におけるVTLの加入数は不自然に多く、集計方法の変更や誤りの可能性もある。しかし、VTLは最後発ながらTelin Timor-Lesteを追い越して大差をつけており、10年以上も独占事業者の地位を占めていたTTに迫っていることは紛れもない事実だ。

▼VTLはGSM方式に対応した据置型電話も販売するが、これの利用者も携帯電話サービスの加入数に含まれる。VTLの販売店では業務用で使われる。
VTLはGSM方式に対応した据置型電話も販売するが、これの利用者も携帯電話サービスの加入数に含まれる。VTLの販売店では業務用で使われる。

躍進する理由

VTLは加入数を伸ばして存在感を高めているが、これには複数の理由が挙げられる。新規参入前に提案した計画を前倒しでエリア整備を進め、2014年には人口カバー率が96%に達した。また、エリア整備を加速するだけではなく、割安かつ大容量なデータ通信を利用できるプロモーションも実施し、これはTelin Timor-Lesteも追随するほど好評を受けた。

VTLは直営店も工夫を凝らしている。TTやTelin Timor-Lesteと同様に東ティモールの13行政区画すべてに直営店を設置するが、TTですら直営店は少なく1行政区画に1店舗のみの場合もある。直営店の数は3社とも大差ないが、VTLはSIMカードの販売のみならずショールームとしてスマートフォンなどを顧客が試せるスペースを提供して他社と差別化した。また、休業日を少なく営業時間を長くすることで多くの顧客を集めた。

VTLはTelemorブランドで多数のスマートフォンやベーシックフォンを低価格で販売するが、それに少しの残高を含めたSIMカードを無料で提供し、これも加入数の増加に貢献した。発売直後のスマートフォンでも価格は最安で45米ドルからとなり、貧困層が多い東ティモールの人々がスマートフォンを購入するためのハードルを下げた。

Telemorブランドのスマートフォンは基本的にデュアルSIMとなるが、最低1枚のSIMカードはVTLを含めたViettel Groupが出資する携帯電話事業者各社(以下、Viettel Group系列)でなくてはならない。Viettel Group系列ではない携帯電話事業者のSIMカードのみで利用することは不可となっている。

つまりVTLは格安でスマートフォンを販売するが、それの購入者は必ずViettel Group系列のSIMカードを利用する必要があり、実質的に東ティモールではVTLのSIMカードを必ず利用させる仕組みを設けている。また、Telemorブランドのベーシックフォンは20米ドル未満と低価格な機種も多く、低価格ゆえに利用者は頻繁に見かけた。利用者の増加を受けてかTelemorブランドのベーシックフォンを模倣した偽物が流通し、VTLが注意喚起するに至ったこともある。

東ティモールではワニが神聖視されており、Telemorブランドのスマートフォンなどにはワニの絵柄がプリントされている。TTも直営店やSIMカードなどの絵柄にワニを採用するが、VTLは他社と被ろうが関係なくワニを利用し、東ティモールの人々の心を掴もうとしている。エリア整備の加速やプロモーションの実施などで支持を集め、また直営店や端末の戦略で成功し、好調な成果を出すことになった。

▼VTLのショールームではノートパソコンも展示および販売し、そこではVTLのUSBモデム型データ通信端末やデータ通信プランの案内も忘れていない。
VTLのショールームではノートパソコンも展示および販売し、そこではVTLのUSBモデム型データ通信端末やデータ通信プランの案内も忘れていない。

▼筆者が購入したTelemorブランドのスマートフォンTelemor T8301。
筆者が購入したTelemorブランドのスマートフォンTelemor T8301。

▼Telemor T8301の背面にはTelemorのロゴとワニの絵柄がプリントされている。
Telemor T8301の背面にはTelemorのロゴとワニの絵柄がプリントされている。

▼TelemorブランドのベーシックフォンTelemor T623。ベーシックフォンにもワニの絵柄が入る。
TelemorブランドのベーシックフォンTelemor T623。ベーシックフォンにもワニの絵柄が入る。

▼タクシーの運転手はタクシーが必要であれば連絡するよう電話番号を教えてくれることがある。VTLの電話番号はよく遭遇し、Telemorブランドのベーシックフォンも見かけた。
タクシーの運転手はタクシーが必要であれば連絡するよう電話番号を教えてくれることがある。VTLの電話番号はよく遭遇し、Telemorブランドのベーシックフォンも見かけた。

Viettel Group系列でのグローバルな共同調達でコストを下げる

Viettel Group系列は端末を共同調達しており、VTLはグローバルブランドのスマートフォンであればベトナム版を販売し、ベトナム企業のスマートフォンも取り扱う。また、Viettel Group系列各社でハードウェアは共通でブランドのみが異なるスマートフォンを販売することもあり、例えば東ティモール向けTelemor T8402とカメルーン向けNexttel N8401はブランドのみが異なる共通のスマートフォンである。

また、VTLは据置型無線LANルータとしてHalotel RL6601を取り扱うが、タンザニアのHalotelブランドのままである。据置型無線LANルータは持ち歩く製品ではないためブランドは重視せず、ブランド変更のコストも削減するためHelotelブランドで販売するが、このようなことからもViettel Group系列で端末を共同調達していることが分かる。世界各国で展開するViettel Groupの強みを生かし、調達コストの削減も実現する。

▼VTLが販売するOPPO Neo 3はベトナム版で、化粧箱にベトナム語が見られる。
VTLが販売するOPPO Neo 3はベトナム版で、化粧箱にベトナム語が見られる。

▼VTLが販売する据置型無線LANルータHalotel RL6601。
VTLが販売する据置型無線LANルータHalotel RL6601。

成長速度に世界も注目

VTLはStevie Awardsが主催する2015年国際ビジネス大賞(IBA)スティービーアワードではアジア・豪州・ニュージーランドにおける最速成長企業の部門で金賞を受賞した。また、Total Telecomが主催するワールド・コミュニケーション・アワード2015では新興市場における最優秀通信事業者に選ばれた。

補欠から繰り上げで新規参入を果たした小国の携帯電話事業者VTLは権威ある賞を受賞するまで成長し、その大躍進は国際的に高い評価を得ている。今後も注目すべき携帯電話事業者である。

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田村 和輝(たむら・かずてる)

滋賀県守山市生まれ。国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報を収集し、記事を執筆する。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ。国内外のプレスカンファレンスに参加実績があり、旅行で北朝鮮を訪れた際には日本人初となる現地のスマートフォンを購入。各種SNSにて情報を発信中。