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東京オリンピックをみすえて日本人は何をすべきか?

Looking ahead Tokyo Olympics: What Japanese should do?

2016.09.28

Updated by Mayumi Tanimoto on 9月 28, 2016, 08:41 am JST

大原様

ご無沙汰しております。マンハッタンは紅葉が美しい季節になったかと思いますが、イギリス郊外の秋は、銃声で季節を感じます。

ツイードジャケットで決めた 爺さんの集団が、戦車のような車から猟銃を抱えて降りてきて、城とかお花畑があるメルヘンな草原でウサギとかキジを撃ちまくっております。イギリスに来た当初は映画の撮影かテロかと思って、パニクっておりましたが、彼らにとってウザギは害虫のようなもので、これもハエたたきのような活動らしいです。

さて、今回で最後の往復書簡となりますが、4年後の東京オリンピックをみすえて、日本人は何をすべきでありましょうか?

「ポケモンGO」のヒットから何を学ぶか?

郷に入りては郷に従え、ということわざじゃないですが、現地の子ども向け番組のバイヤーと親しいとか、おもちゃ業界のR&Dの人とコネがあるとか、ワッフルやパスタのような異業種商品の流通に詳しいとか、そういう人材がいなければ、いきなり異文化のマーケットに「これ、日本で流行ってるんですけど〜」という理由だけで食い込むのは難しいからです。

そもそも、アメリカ人の子どもたちが何を「クール(カッコいい)」と感じるのかがわからないと、ダメですよね。日本政府側が「クールジャパン」と称して推してくるものが、大抵ハズれているのはそのためです。

これはコンテンツ輸出を目論む出版社にも言えることですが、版権は、それを売るノウハウを持ち合わせていなければ、宝のもちぐされであって、いくら自分たちで守っていても一文にもならないことになります。

これは出版業界だけではなく、テック業界も同じなので、耳の痛い話です。

インドのわけのわからないスタートアップに投資して大損害を被る、欧州で 日本のやりかたで技術者を扱って訴訟を起こされる、英語すらできない担当者が海外市場担当で、現地の暗号規制を無視して大損害。こんなネタは山のようにありますが、日本バンザイのテレビや雑誌には絶対に登場いたしません。関係者も呆れ果てていてネットに書き込む気すら起きないのです。

なぜ日本はこうなってしまうのでしょうか?

成功体験が日本人を変えてしまった

一言でいえば、バブルの成功体験が忘れられず、傲慢さを捨てられなかったからです。

例えば中韓は最初からマイナスのスタートでした。中国いまだに共産国だというイメージを持っている人も多いですし、中国系移民との衝突問題を抱えている国もあります。人権や環境問題はしばしば批判され、マイナスのイメージを背負っています。

韓国はマイナー国なので、欧州や北米は韓国なんて国を知らない人も多いですし、北朝鮮と混同している人も多いです。日本に比べたら文化もマイナーですし、韓国料理も認知度が低い。韓国発のアニメや音楽、文学も、ごく一部の K-Popをのぞいたら全然知られていません。

そういうマイナスからのスタートだからこそ、現地のお客様のことを学び、せっせと働いてきました。そこには傲慢さのカケラすらありません。

若い子は勉強熱心です。我が家の家人はイギリスの大学で教えていますが、そこそこ良い大学でも修士号の留学生は8割が中国人のこともあります。博士号に留学してくる東アジア人の大半は中国人でたまに韓国人がいます。日本人はコモドドラゴン並の珍しさです。中韓の親達は、子供達を現地の私学中高に留学さるので、子供をサポートする業者がいます。仕事も熱心ですが、勉強も熱心なのです。

第二次世界大戦後の日本人には傲慢さがありませんでした。

悪の枢軸の一派で、日本人といえばナチと同じ極悪人です。傲慢であったらものなど買ってくれません。日本のイメージはマイナスどころか世界最悪でした。だから原爆を落とされてかわいそうと同情する人などおりません。その上長い間、日本の商品は粗悪品というイメージが強かったのです。実際ひどい製品が多かった。北米や欧州の年寄りに話を聞くと、当時の日本製品の思い出を話してくれます。

日本人は逆境の中にありました。しかし、諦めずに、粗悪品の品質を改善し、何とか買っていただけるように、現地のことを学び、つたない英語で売り込みに行き、一生懸命カスタマーサビスをやってきました。その結果、日本の製品やサービスの質は世界に知られることになり、日本は豊かな国になりました。

かつての日本では、若い人やサラリーマンは、何とか外国のことを知ろうと、海外事情や国際経済に関する本を読み漁りました。90年代前半までの日本のベストセラーには、国際情勢本や経済の本が並んでいたのです。

しかし今や大人気なのは、自己啓発本に、日本は凄いとひたすら傲慢な心を満足させるような自家発電本です。

娘や息子たちの将来のために謙虚さを取り戻せ

自己啓発本が売れることからわかるように、日本の人々が重要視しているのは、国内や自分の職場での仲間内での評判であり、村の外のお客様のことではありません。そういう傲慢さ、内向きさが積み重なってしまったのが今の日本です。村の中のことしか考えないから、外部の専門家の言うことなど聞かないのです。

考えているのは、海外事業の失敗を誰に押し付けて自分は昇進するかです。

そこには素直さも、誠実さも、理念も、倫理もありません。

村の中の権力者が喜ぶから、費用対効果が不明瞭なオリンピックの宣伝に銭をかけけます。一方で、壁に糞尿を撒き散らす親の介護をする非正規雇用の独身息子のことはどうでもいいと思っています。だから介護保険自己負担を引き上げてへっちゃらなのです。今日も電車が遅延するのは、そういう息子や娘達が大勢いるからです。日本人の傲慢さが同胞を殺しているのです。

4年後の東京オリンピックの頃には、もっと多くの高齢者が要介護になっています。正社員のポストは減ります。電車に飛び込む娘や息子達を減らすには、誠実な専門家の意見をよく聞いて、日本の持っている物、コンテンツ、サービスを世界に売り出して現地の方に喜んで頂き、少しでもお金に変えることです。

クール・ジャパンとは何であるかを真剣に考えることは、権力者を喜ばせるためではなく、自分の娘や息子達の将来のためであります。金も石油もなく、人口が減っていて老人だらけの日本は、知識やコンテンツを、お金をかけない方法で売りさばいて生きていかなければなりません。

介護施設にいる父の手は、 かつてはドイツ語や英語の技術書をめくっていました。今はたくさんのチューブがつながっています。中国古典を学んだ父が、 今の日本の書店には、嫌韓嫌中本が並んでいることを知らないことはせめてもの幸いです。認知症になると良いこともあります。

私からのお手紙も最後となります。子供達のためにも、4年後のオリンピックを超えて、私達が介護されるようになる頃には、今よりもマシな日本になっていてほしいと心の底から祈りながら、筆を置きます。大原さん、いつかまた遠くないうちに、久し振りにお会いしたいですね。
 

 


本稿は、連載企画「往復書簡・クールジャパンを超えて」は、マガジン航[kɔː]とWirelessWire Newsの共同企画の最終回となります。マガジン航側では大原ケイさんが、WirelessWire News側では谷本真由美さんが執筆し、月に数回のペースで往復書簡を交わします。[編集部より]

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。