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東ティモール

インドネシアからの輸入品が目立つ東ティモールのスマートフォン市場

In Timor-Leste, most of smartphones are imported from Indonesia

2016.09.27

Updated by Kazuteru Tamura on September 27, 2016, 17:58 pm JST

東ティモール民主共和国(以下、東ティモール)は2016年5月時点で国際連合により後発開発途上国に指定されており、貧困に苦しむ人々が多い。そんな東ティモールでは依然として安価なベーシックフォンの利用者が多いが、スマートフォンの低廉化でベーシックフォンとの価格差は縮小し、安価なスマートフォンの流通量が増えたことでスマートフォン利用者も増加した。そんな東ティモールを訪問してスマートフォン市場を探った。

インドネシアからの輸入品で溢れる

東ティモールの首都・ディリの街中を歩くとスマートフォンを販売する個人経営の商店をよく目にした。商店に並べられたスマートフォンは新品から中古品まで様々だが、多くはインドネシア企業のブランドだ。(インドネシアと東ティモールの関係は前回を参照)

インドネシアも訪問した経験がある筆者は一目でインドネシアからの輸入品と分かったが、念のため店員に調達先を尋ねると、やはりそう答えた。数多くあるインドネシアブランドの中でADVAN、EVERCOSS、Mitoなどインドネシアでも知名度が高いブランドが目立ち、インドネシアで流通量が多いブランドが東ティモールでもよく流通することが見て取れた。

インドネシアブランドのスマートフォンが多い中で、当然ながらグローバルブランドも売られるが、グローバルブランドもインドネシアからの輸入品が多い。パッケージにはインドネシア語で携帯電話を意味するTelepon Selularとの記載があり、グローバルブランドでも一目でインドネシア版と分かる。

SHARPがインドネシアで発売したSHARP AQUOS CRYSTAL(SH825Wi)も東ティモールに輸入されていた。SHARP AQUOS CRYSTALは日米でSoftBank Group傘下の携帯電話事業者各社が発売したスマートフォンとして話題となったが、日米に続いてインドネシアでも発売された。インドネシアで見たいと思っていたが、インドネシアからの輸入品で溢れる東ティモールで見ることになった。決してメジャーではないインドネシア向けのSHARP AQUOS CRYSTALも見かけるくらいにインドネシアからの輸入品が多い。

なお、インドネシア政府は国策でスマートフォンの国内製造を促進しており、インドネシアブランドはもちろんのことグローバルブランドのスマートフォンでもインドネシア国内製造が増加している。

東ティモールでは、調達先がインドネシアというだけではなく、インドネシアで製造されたスマートフォンも流通している。過去にインドネシアではBlackBerryが人気の時代があり、複数のインドネシア企業が物理的なQWERTYキーボードを搭載し、BlackBerryが提供するBBMをプリインストールしたスマートフォンを販売するが、東ティモールでもこれに該当するスマートフォンを見られた。

▼依然としてベーシックフォンが多いが、スマートフォンも増えており、いずれもインドネシアブランドが中心だ。
依然としてベーシックフォンが多いが、スマートフォンも増えており、いずれもインドネシアブランドが中心だ。

▼東ティモールで売られるスマートフォン。見えにくいが、Samsung Galaxy Note 4(左)とSHARP AQUOS CRYSTAL(右)はパッケージにTelepon Selularとの記載がある。
東ティモールで売られるスマートフォン。見えにくいが、Samsung Galaxy Note 4(左)とSHARP AQUOS CRYSTAL(右)はパッケージにTelepon Selularとの記載がある。

携帯電話事業者もスマートフォンを販売

東ティモールでは個人経営の商店以外に携帯電話事業者の販売店でもスマートフォンを販売する。東ティモールの携帯電話事業者はTimor Telecom(以下、TT)、ブランド名をTELKOMCELとするTelekomunikasi Indonesia International(TL)(以下、Telin Timor-Leste)、ブランド名をTelemorとするViettel Timor Leste(以下、VTL)の3社である。

TTを除いた2社はスマートフォンの販売に積極的で、安価なスマートフォンを販売するだけではなく、スマートフォンで割安にデータ通信を利用できるプロモーションを実施し、サッカーなど注目の試合は動画の視聴を提案するなど、スマートフォンの利用用途の拡大にも注力している。携帯電話事業者にはスマートフォン利用者を増やし、またスマートフォンの利用用途も提案し、データ通信を中心にサービス利用者の増加などによる収益拡大につなげる狙いがある。

▼VTLはMobile TVとして動画配信サービスを提供し、VTLのネットワーク利用時のみ視聴可能だ。
VTLはMobile TVとして動画配信サービスを提供し、VTLのネットワーク利用時のみ視聴可能だ。

積極的な姿勢が見られないTT

逆に、TTはスマートフォン利用者を増やすための取り組みに積極的ではないと言える。TTはベーシックフォンからスマートフォンまで販売を手掛け、ベーシックフォンは安価なTTブランドも用意するが、スマートフォンは高価なグローバルブランドがほとんどだ。旧機種も値下げせずに販売し、高価なまま店頭に並ぶ。

TTの取り扱うフィーチャーフォンも値下げされておらず、スマートフォンの低廉化が進んだ現在では、TTが販売するフィーチャーフォンよりインドネシアブランドのスマートフォンの方が安く買えることも多い。

この状況では誰もが買わないため在庫が残り、旧機種が店頭に並ぶ現状がある。後述する競合他社と比べて端末販売は魅力に欠け、それも影響して携帯電話サービスの加入数は減少傾向だ。

▼Sony Xperia Sが現役で並び、100米ドル以上のフィーチャーフォンも売られる。
Sony Xperia Sが現役で並び、100米ドル以上のフィーチャーフォンも売られる。

インドネシア色が強いTELKOMCEL

Telin Timor-Lesteはインドネシア国営のTelekomunikasi Indonesia(以下、TELKOM)傘下で、販売店をPlaza TELKOMCELとして展開しており、Plaza TELKOMCELには端末販売ブースを設ける。端末販売ブースではスマートフォン以外にベーシックフォンも売られるが、Blueberry、EVERCOSS、GVON、MATRON、Mito、Skycall、STARCELL、STEELE、POLYTRONなどインドネシア企業のブランドが大半だ。

もちろんグローバルブランドのスマートフォンも取り扱うが、メジャーなインドネシアブランドから決してメジャーとは言えないインドネシアブランドまで並ぶ状況で、インドネシアにいるのではと錯覚しそうになるほどだった。

また、機種数は非常に少ないが、TELKOMCELブランドを冠した安価なスマートフォンも用意し、SIMカードとセットで販売する。TELKOMCELブランドを冠したスマートフォンはリアカバーや化粧箱にIndonesia Designとプリントし、インドネシア色を前面に出している。

▼端末販売ブースでは様々なインドネシアブランドが見られる。
端末販売ブースでは様々なインドネシアブランドが見られる。

▼物理的なQWERTYキーボードを搭載し、BBMをプリインストールするEVERCOSS A10Qも売られる。
物理的なQWERTYキーボードを搭載し、BBMをプリインストールするEVERCOSS A10Qも売られる。

ベトナムブランドも見られるVTL

VTLはベトナム国防省が所有するViettel Group傘下で、Viettel Groupはベトナムを含む複数の国で携帯電話事業を手掛け、基本的にスマートフォンを共同調達する。したがって、VTLはViettel Groupからスマートフォンを調達するため、大半がベトナムからの輸入となる。

VTLはTelemorブランドを冠した安価なスマートフォンのラインナップが充実し、SIMカードとのセット販売も人気だ。Telemorブランドを冠したスマートフォン以外にグローバルブランドのスマートフォンも豊富で、ベトナムブランドのスマートフォンまで揃える。アクセサリ類も取り扱うが、いずれもベトナムから輸入するため、グローバルブランドのスマートフォンやアクセサリ類のパッケージにはベトナム語が見られる。インドネシアからの輸入が多い東ティモールでは異色の存在である。

▼Telemorブランドのスマートフォンは安価で、左から定価が55米ドルのTelemor T8403、45米ドルのTelemor T8301。
Telemorブランドのスマートフォンは安価で、左から定価が55米ドルのTelemor T8403、45米ドルのTelemor T8301。

▼Q-Smart Magicはベトナム企業のABTELのスマートフォンである。
Q-Smart Magicはベトナム企業のABTELのスマートフォンである。

パプアニューギニアの小売店が参入

個人経営の商店が多い東ティモールではスマートフォンを販売する小売チェーンは極めて少ないが、パプアニューギニア企業のPNG Namba Wan Trophy Limited(以下、NWTL)が参入済みだ。NWTLはパプアニューギニアでスーパーマーケット、飲食店、携帯電話事業者の正規代理店、そして携帯電話小売店など様々な事業を手掛ける。携帯電話小売店は子会社のFone Hausを通じて手掛け、東ティモールでもパプアニューギニアと同様にFone Hausとして展開する。

Fone Hausは自社ブランドとしてDigicomブランドを保有しており、東ティモールでもDigicomブランドのスマートフォンやベーシックフォンを販売し、Fone Hausと業務提携するTTの販売店では実機展示も見られた。ただ、Fone Hausの店舗数が少ないうえにTTは端末販売に積極的ではなく、東ティモールで流通するインドネシアブランドや携帯電話事業者ブランドのスマーフォンやフィーチャーフォンと比較すると割安感がなく、Digicomブランドを使う人々は見かけなかった。

当然ではあるが、Fone Hausは個人経営の商店より展示方法は洗練されており、確実に新品を購入可能で偽物をつかむ恐れもなく、個人経営の商店より安心できる。ただ、価格は高めに設定されており、安価であることが求められる東ティモールでは中古品の流通も盛んで、個人経営の商店で安価なスマートフォンを購入する人々が多い。このような背景もあり、小売チェーンは東ティモールに参入しにくい状況だ。なお、NWTLは東ティモールで携帯電話小売以外の事業も手掛ける。

▼ディリのFone HausではDigicomブランドの広告も見られた。
ディリのFone HausではDigicomブランドの広告も見られた。

インドネシアのスマートフォンが多い理由

東ティモールは一部を除いて国内産業が未発達で、多くの分野で輸入に頼るため、慢性的な貿易赤字だ。

東ティモール政府は国および地域別の輸入額を公開しており、直近では2015年第3四半期まで判明した。1四半期ごとでは変動が大きい国や地域もあり、2015年第1四半期から2015年第3四半期までの合計を参照したところ、インドネシアからの輸入が圧倒的に多い。トップ5は1位からインドネシア、シンガポール、中国、ベトナム、香港特別行政区で、インドネシアは全体の30%弱を占め、シンガポールには2倍以上の差をつけた。

また、東ティモール政府は東ティモール唯一の国際空港であるプレジデンテ・ニコラウ・ロバト国際空港(DIL)の国籍別外国人入国者数も公表しており、2015年第1四半期から2015年第3四半期までの合計はインドネシアが最多である。インドネシアは東ティモールが陸地で国境を接する唯一の国でもあり、陸路での入国も含めるとさらにインドネシアが多くなる。インドネシアとは地理的要件もあり、ヒト・モノ・カネの移動が盛んで、インドネシアからの輸入に対する依存度は高く、これはスマートフォンに限定したことではないのだ。

インドネシアから輸入されるスマートフォンのうち、インドネシアブランドはグローバルブランドより安価なものが多く、50米ドル以下で購入できる機種も少なくない。東ティモールでは安価なスマートフォンの需要が高く、インドネシアブランドが目立つ傾向となった。

インドネシア支配下時代の東ティモールは悲劇の連続であり、反インドネシア感情を持つ人々は少なくないが、あまり有名でないブランドはインドネシアブランドとして認知されていない場合も多い。また、インドネシアで流通するスマートフォンはわずかな機種を除いてSIMロックフリーで、システム言語や文字入力システムなど標準でインドネシア語を利用できるため、これは東ティモールの人々には都合がよい。

東ティモールの公用語はテトゥン語とポルトガル語だが、長期にわたるインドネシア支配下ではインドネシア語が一般的に使われたため、インドネシア語話者が多い。携帯電話事業者の販売店に展示されるスマートフォンもインドネシア語に設定されていることが多かった。
東ティモールでは携帯電話事業者ブランドのスマートフォンを除けば地場ブランドのスマートフォンは存在しない。インドネシアからの輸入品が溢れる東ティモールのスマートフォン市場は、国内産業が未発達でインドネシアからの輸入に頼る東ティモールという国そのものを表すような印象を受けた。

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田村 和輝(たむら・かずてる)

滋賀県守山市生まれ。国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報を収集し、記事を執筆する。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ。国内外のプレスカンファレンスに参加実績があり、旅行で北朝鮮を訪れた際には日本人初となる現地のスマートフォンを購入。各種SNSにて情報を発信中。