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最も目立つPlaza Low Yatの入り口にはOPPOが広告を出していた。

マレーシアの携帯電話事情(3) – 中国のスマートフォンメーカーが相次いで参入

Malaysian Mobile Industry Vol. 3 – Chinese manufacturers to enter Malaysia

2015.05.11

Updated by Kazuteru Tamura on May 11, 2015, 11:20 am JST

マレーシアのスマートフォン事情といきなり言われても、あまり明確なイメージは思い浮かばないだろう。名の知れた地場ブランドはなく、また特に市場規模が大きいわけでもなく、マレーシアのスマートフォン事情が伝えられる機会は少ない。そんなマレーシアには中国のメーカー・ブランドの参入が相次いでおり、スマートフォン事情は変わりつつある。今回は変わりつつあるマレーシアのスマートフォン事情に焦点を当てて紹介する。

中国企業の参入が相次ぐ

中国メーカーと言えば、やはり早期からグローバル展開を手掛けているHuawei Technologies(華為技術)、Lenovo Mobile Communication Technology(聯想移動通信科技)、ZTE(中興)あたりが有名だろう。また、中国以外ではALCATEL ONETOUCHブランドで展開しているHuizhou TCL Mobile Communication(恵州TCL移動通信)もブランド名はよく知られているかもしれない。これらのグローバルで展開する中国メーカーはさておき、2013年後半以降から東南アジアを中心に展開地域の拡大を本格化している中国のメーカー・ブランドが増えている。これらのメーカー・ブランドは新興メーカーや新興企業などと表現されることもしばしばあり、2014年に入ってからマレーシアのスマートフォン市場にも相次いで参入している。

2014年には香港で設立されたOTEDA Industrial(欧特達実業)傘下で中国・深圳市と香港を拠点とするLEAGOO Int'l(領歌国際:以下、LEAGOO)、中国・東莞市を拠点とするGuangdon OPPO Mobile Telecommunications(広東欧珀移動通信:以下、OPPO)、同じく中国・東莞市を拠点とするGuangdong BBK Electronic Industry(広東歩歩高電子工業)傘下のvivo COMMUNICATION TECHNOLOGY(維沃通信科技:以下、vivo)、中国・北京市を拠点とするBeijing Xiaomi Technology(北京小米科技:以下、Xiaomi)、中国・深圳市を拠点とするShenzhen ZOPO Communications Equipment(深圳卓普通訊設備:以下、ZOPO)がマレーシアに参入し、2015年には中国・珠海市を拠点とするZhuhai MEIZU Technology(珠海市魅族科技:以下、MEIZU)、OPPO傘下で中国・深圳市を拠点とするShenzhen Oneplus Science & Technology(深圳市万普拉斯科技:以下、OnePlus)がマレーシアへの参入を果たした。また、台湾のメーカーであるが、BenQ(明基)も2014年にマレーシアのスマートフォン市場に参入してスマートフォンの販売を開始した。

2014年から2015年にかけて勢いづくメーカー・ブランドが相次いで参入しており、これだけでもマレーシアのスマートフォン事情は大きく変化していると言える。いずれも参入したばかりであり、決してマレーシアにおけるシェアは高くないが、それぞれ異なったマーケティングを展開し、シェアや販売台数の増加に向けて積極的に動いている。

▼LEAGOOとvivoの広告。LEAGOOはマレーシア以外の東南アジア各国で見かける機会は少ないだろう。
LEAGOOとvivoの広告。LEAGOOはマレーシア以外の東南アジア各国で見かける機会は少ないだろう。

▼ZOPOの販売ブース。複数のスマートフォンをマレーシアで販売している。
ZOPOの販売ブース。複数のスマートフォンをマレーシアで販売している。

電脳ビルの広告ジャックで知名度の向上を狙う

2014年以降に参入した中国のメーカー・ブランドはまだまだ知名度が低い。各企業ともそれは認識しており、知名度の向上を狙った動きを見せている。特にOPPOとvivoの積極的な広告展開は目立っており、マレーシアのスマートフォン市場を重視する姿勢がうかがえる。

マレーシアには電脳ビルと言われる商業施設が存在している。マレーシア最大都市で首都でもあるクアラルンプールに位置するPlaza Low Yatはマレーシア最大規模の電脳ビルとして有名である。また、マレーシア第2の都市であるジョホールバルにはEXPO Danga City Mallが存在する。筆者はPlaza Low YatとEXPO Danga City Mallの両方を訪問したが、真っ先に目に飛び込んできたものは中国メーカーの広告である。特にOPPOの広告が目立っており、OPPOの企業カラーである緑一色となっていた。vivoはクリスマスシーズンにはvivoの装飾をつけたクリスマスツリーを設置し、また写真撮影スペースも用意するなど、OPPOとは異なる広告展開を見せており、存在感を示せていた。

このような電脳ビルにはスマートフォンを買い求める人々が多く訪れる。そこで広告枠を買い占めて広告ジャックすることは、スマートフォンの購入を検討する人々にブランドを周知できるため、効果的にブランドをアピールできる。このようなマーケティングは一定の効果が出ており、OPPOの場合はマレーシアのみならず、インドネシアなどでも同様の手法で知名度の向上を狙っている。

▼最も目立つPlaza Low Yatの入り口にはOPPOが広告を出していた。
最も目立つPlaza Low Yatの入り口にはOPPOが広告を出していた。

▼Plaza Low Yatの内部までOPPOの広告一色となっていた。
Plaza Low Yatの内部までOPPOの広告一色となっていた。

▼Plaza Low YatのエレベータまでOPPOの広告に染まっていた。
Plaza Low YatのエレベータまでOPPOの広告に染まっていた。

▼Plaza Low Yatのドアはvivoの広告となっていた。また、vivoがクリスマスツリーを設置していた。
Plaza Low Yatのドアはvivoの広告となっていた。また、vivoがクリスマスツリーを設置していた。

▼Plaza Low Yat前にはvivoが写真撮影のスペースを設けていた。OPPOとは異なる広告展開であるが、vivoの手法も間違いなく宣伝にはなるだろう。
Plaza Low Yat前にはvivoが写真撮影のスペースを設けていた。OPPOとは異なる広告展開であるが、vivoの手法も間違いなく宣伝にはなるだろう。

▼EXPO Danga City Mallの外観。
EXPO Danga City Mallの外観。

▼EXPO Danga City MallにはOPPOの販売店や広告が見られた。
EXPO Danga City MallにはOPPOの販売店や広告が見られた。

移動体通信事業者との提携販売も

2014年以降にマレーシアのスマートフォン市場に参入したメーカー・ブランドは販路に不安がある。そこで、一部のメーカー・ブランドは移動体通信事業者と提携している。マレーシアで携帯電話サービスを提供する移動体通信事業者はCelcom Axiata、Maxis、DiGi Telecommunications、U Mobileの4社で、いずれもスマートフォンなど端末類の販売を手掛ける。各移動体通信事業者とも米国のAppleや韓国のSamsung Electronicsなどグローバルで展開する企業のスマートフォンはもちろんのこと、参入から間もない中国のメーカー・ブランドのスマートフォンまで幅広く取り扱っている。

各移動体通信事業者が取り扱う2014年以降に参入した中国のメーカー・ブランドをピックアップすると、Celcom AxiataはOPPOとXiaomi、MaxisはOnePlusとXiaomi、DiGi TelecommunicationsはMEIZUとXiaomi、U MobileはOPPOとXiaomiのスマートフォンを販売している。この中でも特にOPPOとU Mobileの提携は強固なものとなっており、U Mobileの販売店の中にはOPPOの販売ブースが設置されている。

マレーシアでは移動体通信事業者の販売店でスマートフォンを買うケースは珍しくなく、このような市場の特性や移動体通信事業者がマレーシア全土に持つ販路を活用する狙いがある。また、移動体通信事業者はスマートフォンと通信サービスを同時に購入することで割引を適用するなど、販売を促進するための施策を行っており、新たに参入した各社にとって移動体通信事業者との提携は都合が良い。

▼DiGi Telecommunicationsの販売店ではXiaomi Mi 3が販売されていた。
DiGi Telecommunicationsの販売店ではXiaomi Mi 3が販売されていた。

▼U Mobileの販売店内にはOPPOの販売ブースが設置されていた。U Mobileの企業カラーである橙色の店内にOPPOの緑色はよく目立っていた。
U Mobileの販売店内にはOPPOの販売ブースが設置されていた。U Mobileの企業カラーである橙色の店内にOPPOの緑色はよく目立っていた。

存在感を示せない地場ブランド

マレーシアではグローバルで展開するメーカー・ブランドや、新たに進出した中国のメーカー・ブランドのスマートフォンはよく見かけるが、残念ながらマレーシアのブランドはあまり見る機会はないだろう。マレーシアのブランドとしては主にninetologyやCSLが知られるが、これらのブランドはあまり存在感を示せていない。

ninetologyブランドはNinetology Marketingが展開しており、マレーシアに加えてインドネシアにおいてもスマートフォンなどを販売している。将来的には東南アジア各国でスマートフォンを販売する計画で、マレーシアのブランドではなくASEANのブランドとして定着することを目標としている。マレーシアから東南アジア各国を目指すということで、しばしば携帯電話業界のエアアジアと例えられる。ninetologyとエアアジアは提携したことがあり、エアアジアがninetologyの特別塗装機を飛ばしていた。また、ninetologyはエアアジア系列の仮想移動体通信事業者であるTune TalkのSIMカードをセットで販売する施策を実施していた。なお、筆者がエアアジアのフライトに搭乗した際は機内にninetologyの広告が掲載されており、AN ASEAN MOBILE DEVICE TECHNOLOGY COMPANYとASEANのブランドであることを強調していた。

CSLブランドはシンガポールを拠点とするSmart Global傘下のCSL Manufacturingがマレーシアにおけるブランドとして展開していた。過去にはスマートフォンなどを投入したが、しばらくは新製品を投入しておらず、実質的に活動が停止した状態となっている。

マレーシアではWiMAX事業者であるYTL CommunicationsがYesブランドでWiMAXサービスを提供しており、1機種だけYesブランドでWiMAX対応スマートフォンを投入した。しかし、世界的にWiMAX方式のシェアが低下する流れには逆らえず、WiMAX対応スマートフォンの後継が登場することはなかった。

▼エアアジア機内にはninetology u9 Z1Tの広告が掲載されていた。ninetology u9 Z1Tはninetologyブランドとしては初のLTE対応スマートフォンである。
エアアジア機内にはninetology u9 Z1Tの広告が掲載されていた。ninetology u9 Z1Tはninetologyブランドとしては初のLTE対応スマートフォンである。

▼Yesの販売店はよく見かけたが、WiMAX対応スマートフォンの在庫はなかった。
Yesの販売店はよく見かけたが、WiMAX対応スマートフォンの在庫はなかった。

変わりつつあるマレーシアのスマートフォン事情

マレーシアでは地場ブランドがあまり存在感を示せていない一方で中国のメーカー・ブランドが押し寄せている。特に2014年以降に参入した各社が積極的に展開しており、中国などでつけた勢いそのままでマレーシアに乗り込んでいる。

マレーシアの地場ブランドが弱くなっていることは残念であるが、マレーシアのスマートフォン事情は大きく変わりつつあると言える。中国の各社は参入から間もないため、結果を出すにはもうしばらく時間を要するだろう。各社が狙い通りの展開を実現できるか、継続して注視したい市場である。

▼高架脚に掲載されたvivoの広告はよく目立っていた。
高架脚に掲載されたvivoの広告はよく目立っていた。

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田村 和輝(たむら・かずてる)

滋賀県守山市生まれ。国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報を収集し、記事を執筆する。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ。国内外のプレスカンファレンスに参加実績があり、旅行で北朝鮮を訪れた際には日本人初となる現地のスマートフォンを購入。各種SNSにて情報を発信中。