WirelessWire News Technology to implement the future

by Category

クアルコムというとモバイル端末に搭載されるプロセッサ(SoC)やワイアレス・モデムチップの開発元というイメージが強いが、そんな同社が先週(10月下旬)オランダのNXPセミコンダクター(以下、NXP)を買収すると発表して一部で大きな注目を集めていた。スマーフォン関連事業の伸び代が小さくなったクアルコムによるIoT分野、とくに自動車用半導体分野の強化という伝え方をした報道が目立ったが、今回はこのクアルコムの動きと競合各社、とくにエヌビディア、インテルによる自動車関連の動きなどを簡単におさらいしてみる。

大規模再編が進む半導体業界全体の動き

まず、クアルコムの今回のニースに触れたNYTimes記事のなかにはここ2年間に半導体業界であった大型買収に触れた箇所がある。具体的には次の通り(日付は計画発表時点)。

・ソフトバンクによる英ARM買収(買収金額320億ドル、2016年7月)
・インテルによるアルテラ買収(同167億ドル、2015年6月)
・アバゴによるブロードコム買収(同370億ドル、2015年5月)
・NXPによるフリースケール買収(同118億ドル、2015年3月)
"Qualcomm to Acquire NXP Semiconductors for $38.5 Billion" - NYTimes

クアルコムによるNXP買収金額は約390億ドル(負債も含めると約470億ドル)で、「半導体市場で過去最大の買収」と報じているところがあったのは、上記のアバゴによるブロードコム買収を上回ることを指したもの。

自動車用半導体分野で売上首位に躍り出るクアルコム

NXP買収後のクアルコムは全体の売上高でインテル、サムスンに次ぐ業界第3位となる。調査会社IHSがまとめたランキング("Worldwide Revenue Ranking for Top 25 Semiconductor Suppliers in 2015"というリスト)によると、2015年の売上はクアルコムが約193億ドル、NXPのそれは約5.5億ドル。また、自動車向け半導体分野に限ってみると、昨年度の売上は両社合わせて約37億ドルといったところで、2位インフィニオンのそれより約10億ドルも多い。

"Qualcomm acquisition of NXP combines traditional automotive force with “new frontier” power - IHS"

なお、IHSのこのレポートには両社がそれぞれ強みとする技術分野についての具体的な指摘もある。

・NXP:SDR(Software defined radio)、NFC、サイバーセキュリティ、CMOSレイダー、プロセッサー、自動車の安全に関する機能、ほか
・クアルコム:5G、人工知能、車車間・路車間通信(V2X)ワイアレス充電

また今回の買収(合併)を決断したクアルコム、NXP双方のメリットについては、EE Times記事のなかにある下記の記述がわかりやすい。

車載分野においてリーダーシップは握っていても、NXPのCEOであるRichard Clemmer氏は、「特にADAS(先進運転支援システム)において、われわれはコンピューティング性能を上げていく必要があった」と説明する。

Qualcommにとっては、同社が車載分野に入っていく鍵を握っているのがNXPである。参入障壁が高く、長い製品サイクルを持つという自動車業界の特質を考えると、NXPが持っている、自動車メーカーやティア1サプライヤーとのコネクションは、Qualcommにとっては大きな資産となるだろう。

「クアルコムがNXPを約5兆円で買収へ」- EE Times

前者の「コンピューティング性能(向上)」に該当する点として、「NXPがディープラーニングに関する専門知識を必要としていた」という同社CEOの発言がWSJ記事で引用されているのも目を惹くところ。クアルコムでディーブラーニングというと「Zeroth」プラットフォームあたりが思い浮かぶが、NXP CEOの発言はこのあたりの技術を指してのことだろう。

それとは別に、クアルコムの歴史的変遷やここ数年の経営の浮き沈みなども網羅した下記の記事も、この買収の意味合いなどを知るうえで参考になる。

「米クアルコムが驚きの5兆円でNXPを買ったワケ」- JPress

先行するエヌビディア、「まだ未知数」との見方も

自動運転技術をはじめとするAI関連分野にここ数年とくに力を入れている印象のあるエヌビディア。Investor's Business Dailyの記事によると、自動車関連の売上はまだ全体の8%にすぎないそうだが、それでもアウディ、BMW、ホンダ、メルセデスベンツ、ボルボ、テスラなどの各社にインフォテーメントやナビゲーション、先進型ドライブ支援システム(ADAS)関連などの技術を提供しており、またテスラが先月下旬に発表していた同社製車輌への自動運転用ハードウェア搭載計画でも、エヌビディアの「NVIDIA DRIVE PX 2」の採用が発表されて注目を集めていた。

そんなエヌビディアに対するインテルからの特許ライセンス料の支払いが来年度(2018年1月末)に終了することに触れた上記の記事では、主にデータセンター向けチップと自動運転車向けチップの2つが両社の今後の主戦場になるとの見方が紹介されている。どちらもディープラーイング技術の応用先として注目を集める分野であるが、後者については「コンピュータビジョンや並行処理に関して強みをもつエヌビディアがいいタイミングでいい製品を揃えているのに対し、インテルはそうではない」という半導体アナリスト(Future Horizonsという英国の調査会社のMalcolm Penn CEO)の見方とともに、「エヌビディアの専門知識がゲーム機やPC(用グラフィックチップ)以外の分野でどう役立つかはよくわからない」「自動車向け半導体製品はコンシューマ向け電子機器とはまったく異なり、自動車メーカーがシステム統合において果たす役割はPCの場合に比べてはるかに積極的」とする別のアナリスト(Real World TechnologiesのDavid Kanterという人物)の見方も紹介されている。

「走るデータセンター」- 自動車分野進出の準備を進めるインテル

モバイル端末分野ではクアルコムを含むARM陣営にまったく歯の立たなかった印象のあるインテルも、IoTの一部として自動車分野に力を入れようとしているのは周知の通り。7月にはBMW、モビルアイ(Mobileye)との提携を発表し、3社で2021年までに完全な自動運転車の実現に必要とされるシステムを開発すると述べていた。

そのインテルの自動車向け製品部門(Automotive Solutions Division)幹部に対するインタビューがやはり10月下旬にNikkei Asian Reviewに掲載されていたが、そのなかでElliot Garbusというこの幹部が「自動運転車は簡単にいうと車輪付きのデータセンター」と発言しているのが面白い。インテルは自動車分野に関して、上記のBMW、モビルアイとの提携以外にいまのところ具体的な動きを見せていないようだが、自動運転車用の実現につながるADASの開発を説明した下記のページも見つかる。

クアルコム、エヌビディア、インテルとも、PCやモバイル端末の分野では非常に馴染みのある企業だが、その3社がそろって自動車分野に目を向けているというところに、現在の半導体業界の状況が反映されているようで興味深い。

WirelessWire Weekly

おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)

登録はこちら

坂和 敏

オンラインニュース編集者。慶應義塾大学文学部卒。大手流通企業で社会人生活をスタート、その後複数のネット系ベンチャーの創業などに関わった後、現在はオンラインニュース編集者。関心の対象は、日本の社会と産業、テクノロジーと経済・社会の変化、メディア(コンテンツ)ビジネス全般。