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工場 通信 イメージ

NICTなど、工場内の無線通信環境安定化に資するソフトウェア構成を提案

2017.01.18

Updated by Asako Itagaki on January 18, 2017, 10:53 am JST

国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)、オムロン株式会社などが参画する「Flexible Factory Project」は、工場IoT化に必要となる無線通信の安定化に向けた評価実験の成果を発表した。実稼働中の工場内における無線環境評価と無線通信実験を1年以上にわたり行い、工場内における無線環境の実態と要件を明らかにし、複数の無線システムを協調制御して安定化するための無線通信のソフトウェア構成の提案を行った。

さまざまな無線システムが混在する工場環境

工場へのIoT導入の主目的は、生産設備や生産状況の「見える化」であり、具体的にはネットワークにつながる無線タグやセンサーなどの機器導入となる。製造設備に関しても有線通信のための配線コストや設備配置換え時にケーブル移設コストを抑えるために、無線通信システム導入の事例が増加しており、無線システム間の干渉による通信の不安定化や設備稼働への影響といった懸念がある。

Frexible Factory Projectは、こうした課題の解決を目指す目的で立ち上げられ、NICT、オムロンの他、国際電気通信基礎技術研究所(ATR)、日本電気株式会社(NEC)、日本電気通信システム株式会社(NEC通信システム)、富士通株式会社(富士通)、富士通関西中部ネットテック株式会社(富士通KCN)、サンリツオートメイション株式会社(サンリツ)及び村田機械株式会社(村田機械)が参画している。

2015年6月以降、ユーザー企業である三菱重工工作機械の本社・栗東工場内やトヨタ自動車の堤工場及び高岡工場内にて、各社が持ち込んだ音、振動、温度、湿度、電流波形などの情報を取得するセンサーを生産設備に取り付け、複数のセンサーから取得した多様な情報を無線で送信する評価実験を実施した。

▼実験の様子(報道発表資料より)
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その結果、工場内では短期間で急速に無線設備の導入が進んでいるが、その導入は設備ごとであり、工場全体での無線設備を協調させた制御・管理が必要であるという実態が明らかになった。

▼工場内の無線通信ではシステムごとにデータサイズ、生成頻度、ノード数等がまちまちである。60GHz帯など比較的高い周波数帯はデータ量が多いシステム(画像検査装置など)への利用が期待されており、5GHz帯や2.4GHz帯は制御プログラム配信や移動機器制御などデータサイズとデータ生成頻度が中程度のシステムに、920MHz帯など比較的低い周波数帯は省電力が要求されるアプリケーション(環境センシングなど)などに利用されている。(報道発表資料より)
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また、以下のような要因から、無線通信が不安定化するリスクを確認できた。
・大型モーターから発生するノイズが無線周波数帯に及んでいる。
・工場にある大型設備による遮蔽によって無線の通信品質が悪化する。
・複数の設備が同時に動くラインでは、通信の衝突を避けるメカニズムにより、送信待ち時間が長くなり、受け手がデータを受信できるまでに時間がかかる。

無線用途に合わせて通信要件を整理

本プロジェクトの一環として、業種の異なる複数の工場からヒアリングを実施し、現在あるいは近い将来、工場、工場附帯施設、物流倉庫で用いられる無線用途を、「品質、制御、管理、表示、安全、その他」のカテゴリに分けて抽出し、無線用途別に通信要件を整理した。

▼カテゴリ別で示した無線用途における許容遅延時間。工場のアプリケーションには10ミリ秒~10秒の許容遅延が求められるアプリケーションが多く、Flexible Factory Projectではこの範囲にあるアプリケーションを最初のターゲットとして目指す。(報道発表資料より)
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整理した通信要件は、今後、製造現場に設置される複合的な無線システムの動作シミュレーション、設計、不安定化のリスク評価、ガイドライン作成などに用いることが可能となっており、「製造現場における無線ユースケースと通信要件」として2017年3月に公開を予定している。

無線の非専門家がシステム設計を行うことを想定したアーキテクチャを提案

さらに複数の無線システムを協調制御することで安定化するためのソフトウェア構成を、無線アーキテクチャとして提案した。工場の生産設備の無線化に当たり、無線の非専門家がシステム設計を行うことを想定しており、以下を特徴としている。

・920MHz帯、2.4GHz帯、5GHz帯、60GHz帯の周波数を対象としている。
・これまでの実験で明らかになった工場ごとの無線環境の違いと、実際に使われる無線用途別の通信要件を踏まえて設計されている。
・アプリケーションソフトウェア側の情報のやり取り手法を統一することにより、物理層によらず制御を可能にした。

▼無線安定化技術で用いられる情報のやり取りを実現するソフトウェア構成。アプリケーションソフトウェア側の情報のやり取り手法を統一することにより、物理層によらず制御を可能にする。(報道発表資料より)
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プロジェクトでは、生産性向上を目的に無線接続するデバイスの導入加速が見込まれる製造工場において、無線通信の利活用を促進するため、複数の無線システムを協調制御して安定化する技術の確立と標準化を目指す。

また、プロジェクト参加各社はユーザーおよび通信・機械、システムの専門家と共に、所有するセンサー、IoT、無線通信、セキュリティー、クラウド、AI等の技術と今回得た知見を活用して、製造現場におけるリアルな工場内無線通信の課題を解決するソリューションを提案していくとしている。

【報道発表資料】
工場IoT化に向け、業界の垣根を超えて無線通信技術を稼働中の大手工場で検証

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板垣 朝子(いたがき・あさこ)

WirelessWire News編集委員。独立系SIerにてシステムコンサルティングに従事した後、1995年から情報通信分野を中心にフリーで執筆活動を行う。2010年4月から2017年9月までWirelessWire News編集長。「人と組織と社会の関係を創造的に破壊し、再構築する」ヒト・モノ・コトをつなぐために、自身のメディアOrgannova (https://organnova.jp)を立ち上げる。