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IoTのインフラ「5G」が離陸目前に--MWC 2017

2017.03.14

Updated by Naohisa Iwamoto on March 14, 2017, 06:25 am JST

スペイン・バルセロナで開催された「Mobile World Congress(MWC) 2017」では、第5世代移動通信方式、いわゆる「5G」への動きが加速していることを強く体感することになりました。会場内の多くの展示ブースには「5G」の文字が踊り、2016年までのMWCの技術的な優位性を示す展示から、商用化を見据えたユースケースまで含めた総合的な提案へと中心がシフトしています。その中の大きな軸に、IoTも位置づけられています。

5Gの特徴をアピールするデモが続々

5Gでは、従来のモバイルブロードバンドをさらに高速広帯域化するだけでなく、低遅延や大量端末の収容など、新しいユースケースに向けたサービスを提供することを目指しています。

高速広帯域の通信性能としては、ピークレートで10Gbps以上が想定されています。MWCでは、実際に現在のLTEなどで使っている周波数帯よりも高い周波数帯を使って、高速性能が得られることを多くのブースでデモしていました。エリクソン、NTTドコモでは、28GHz帯を利用したライブデモで15Gbpsといったスループットが得られることを示しています。ファーウェイでは、28GHz帯と4.5GHz帯を合わせて、20Gbpsのスループットが得られるデモを行っていました。

▼NTTドコモのブースの5Gデモ。15GHz以上のスループットをライブデモで示した20170313_mwc1_001

また冷蔵庫ほどの大型の無線端末を使ったデモに加えて、今年はインテルのチップを使ったデスクトップパソコンサイズまで小型化した5G端末が、インテル、エリクソン、ノキア、SKテレコムなど多くのブースのデモで利用されていました。まだ携帯端末のサイズにはなっていませんが、モバイル端末としての可搬性を示した実験が容易に行えるようになってきたことを表しています。クアルコムはMWCで、5Gモデム「Qualcomm Snapdragon X50」が、2G/3G/4G/5Gのマルチモードをサポートすることを発表し、1つのチップで2Gから5Gまでをシームレスに利用できる環境が整いつつあることも明らかになってきました。

▼インテルのブースの5Gによる8K伝送デモ装置。右下のデスクトップパソコン状の黒い箱が5G端末20170313_mwc1_002

少し5Gからは離れますが、現行の4Gを拡張して4.5G、4.9Gといった形で高速大容量化する動きも続いています。5Gの技術を部分的に先取りしたもので、5Gへの過渡解といえるでしょう。クアルコムは1Gbpsのモデムチップを搭載したSoC「Qualcomm Snapdragon 835」と、このSoCを採用してソニーモバイルコミュニケーションズがMWC期間に発表した「Xperia XZ Premium」を展示し、ほぼ1Gbpsの通信速度が得られることをデモで示しました。ノキアは1Gbpsの4.5G、3Gbps以上の4.9Gに対応する基地局を現行の製品で構成してデモを行うなど、すでにギガビットクラスの通信が現実の視野に入ってきていることを示しました。

▼クアルコムのギガビットLTEの展示では、980Mbpsといったスループットをライブデモで示した。左下がソニーモバイルの「Xperia XZ Premium」20170313_mwc1_003

5Gでは、電波の指向性を高めるビームフォーミング技術を使うことで、電波が届きにくい高い周波数帯でも遠距離の端末との通信を可能にします。MWC 2017では、ビームフォーミングを使って通信する端末が高速で移動する状況でも、ビームを追従させるビームトラッキング技術によって通信が可能なことを示す展示が行われました。ファーウェイはアウディと共同で、バルセロナ郊外のサーキットで5Gによる移動中の自動車との高速通信をデモしました。エリクソンとSKテレコムは、韓国で実施した高速移動する自動車との通信の様子を示しました。

低遅延の性能は、広くIoTや遠隔操作、さらに自動運転自動車との通信などで重要になります。5Gでは無線区間で1ミリ秒といった低遅延の性能を要求仕様としていますが、MWC 2017ではデモで実際に数ミリ秒以下の低遅延のユースケースを多くのブースで示していました。ノキアやエリクソン、ドイツテレコム、NTTドコモなどは、低遅延の5Gにより産業機器を制御できるデモを実施。エリクソン、テレフォニカはそれぞれのブースで、スペインの自動車コースのカートをMWC会場内のシミュレーターから違和感なく遠隔操作できることを示す体験型のデモを行いました。

▼シミュレーターから5Gネットワークを経由して遠隔地のカートを遠隔操作。3つのカメラの視覚情報だけでなく、ハンドルや座席には振動もリアルタイムに伝わってくる20170313_mwc1_004

高速広帯域かつ低遅延の通信性能は、VR(仮想現実)映像のリアルタイムの伝送にも求められます。5Gが可能にする通信の新しいユースケースとして、離れた場所の全方向の映像をリアルタイムで伝送してVRゴーグルなどを使って体験するデモも、多く見られました。実際には行くことができない場所の全方向映像や音をリアルタイムで体験できるようになると、エンターテインメントから危険な場所での作業などのビジネスまで、新しいソリューションが登場しそうです。

有線ネットワークも含めた新アーキテクチャが具体化

5Gは、無線区間だけの技術では今後登場する様々なユースケースに対応できないため、有線のコアネットワークまで含めた総合的なアーキテクチャの更新が必要になっています。その根幹を支えるのが、広い意味でのネットワークのクラウド化です。MWCでは、様々なネットワークのクラウド化の展示があり、今後のネットワークの方向性を示しました。

通信事業者が提供するネットワークに使われていた専用機器を、汎用型の機器の上で動かすSDN(Software Defined Network)/NFV(Network Fuctions Virtualization)が進展していますが、さらにコアネットワークや無線アクセスネットワーク(RAN)の機能をクラウド化して分散配置するアーキテクチャも5Gでは重要視されています。その上で5Gでは、要求条件の異なる複数のサービスを1つのネットワークの上で提供できるようにするネットワークスライシングが重要な技術と考えられています。

▼ファーウェイの巨大なブースは、「5Gに向けたAll Cloudネットワーク」をテーマに掲げた20170313_mwc1_005

最大のブースを構えたファーウェイでは、「All Cloud」をテーマに上空には雲のモチーフを掲げて来場者をもてなしました。通信事業者の競争力を高めるには、スピード化とコストダウンが求められます。コアネットワークから無線区間のRANまで含めたオールクラウド化で、リソースの有効活用や新規サービスへの早期対応を可能にする考えです。5Gを待つのではなく、5Gで導入される技術を既存のネットワークに対しても適用し、早期対応とスムーズな5Gへのマイグレーションを計画します。

ノキアでもクラウドRANの技術の進展を示す展示がありました。データセンターとしてクラウドサーバー「AirFlame」を、無線基地局側のユニット「AirScale」という商用機器を使い、コアネットワークからRANまで5Gネットワークをクラウド環境で構築できることを示します。さらに、2G、3G、4Gのネットワークと5GとのマルチコネクティビティをAirScaleで実現できることを示し、5Gと4Gの間でのスムーズなハンドオーバーが可能なデモを行いました。

▼5Gで約2.6Gbpsのスループットがあるが、説明員の彼が中央の赤いボタンを押すと、右端に見えるアンテナと端末の間に遮蔽板が立ちふさがる。5Gの通信ができなくなるが、即座に4Gにハンドオーバーして約100Mbpsで通信が継続できる。ノキアのデモ20170313_mwc1_006

ネットワークスライシングは、多くのブースで5Gのネットワークの中核をなす機能として展示や紹介がありました。エリクソンでは、ネットワークスライシングにより、高速広帯域の高品質ビデオ通信サービスと、低遅延を要求するファクトリーオートメーションのサービスを、1つの5Gネットワーク上で異なるスライスで実現するデモを行いました。それぞれのスライスの状況が他のスライスに影響を及ぼさず、複数のサービスが成立することを示しました。

ネットワークスライシングの考え方を利用して、国際的な事業者間でのサービスの最適化をする新しいアーキテクチャ「Federated Network Slicing」のデモもありました。エリクソン、ドイツテレコム、SKテレコムによるデモで、ドイツテレコムのネットワークサービスの機能をSKテレコムのネットワークにスライスとして挿入するというもの。ドイツテレコムと契約した端末は、韓国のSKテレコムのネットワーク内のドイツテレコムのスライスに接続することで、ドイツ国内と同じサービスを、低遅延で受けられるというものです。輸出するドイツ車のコネクテッドカーサービスなどでの活用が考えられます。

▼エリクソンの「Federated Network Slicing」のデモ。右の画面2つが端末で、中央がFederated Network Slicing対応、右が非対応。中央画面は低遅延により左の操作画面に追従しているが、右画面は反応が遅れている20170313_mwc1_007

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MWC開幕の前日、5G NR(New Radio:新規周波数帯)について、世界を代表する22社が共同で規格化の前倒しを5Gの標準化を進めている3GPPに提案するという発表がありました。標準に準拠したインフラと端末による5G NRの商用導入が2020年までできない状況から、5G NRを利用した大規模トライアルと商用展開を2019年に実施できるように前倒しをするというものです。

その後、3月9日まで開催された3GPPの会合で、前倒しの提案は合意されました。共同提案時の22社から、40社の共同署名へと賛同する企業も増え、5Gへの取り組みは一段と加速することになります。高速大容量の通信というソリューションから進む5Gの取り組みですが、MWCの展示からも多様な形でIoT化社会の推進を支えていくことが明らかになってきています。

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岩元 直久(いわもと・なおひさ)

日経BP社でネットワーク、モバイル、デジタル関連の各種メディアの記者・編集者を経て独立。WirelessWire News編集委員を務めるとともに、フリーランスライターとして雑誌や書籍、Webサイトに幅広く執筆している。