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加入者が減少する東ティモールのTimor Telecom、課題が山積み

加入者が減少する東ティモールのTimor Telecom、課題が山積み

Timor Telecom faces subscriber losses

2016.08.17

Updated by Kazuteru Tamura on August 17, 2016, 16:19 pm JST

21世紀初の独立国家でティモール・レステとも呼ばれる東ティモール民主共和国(以下、東ティモール)、2002年5月20日にインドネシアによる不法占領から解放、国際法上はポルトガルから正式に独立した。東ティモールの独立後に初の携帯電話事業者として誕生したTimor Telecom(以下、TT)は携帯電話サービスの加入数が減少傾向にある。今回はそんなTTの現状や課題を解説する。

東ティモール初の携帯電話事業者

東ティモールでは独立前より豪国防軍が主導して治安維持活動に従事するなど、地理的に近い豪州は様々な分野で東ティモールを支援し、携帯電話事業も例外ではなく、豪州のTelstraが2000年より東ティモールで携帯電話サービスを提供していた。

東ティモールの電気通信事業に参入するために結成されたTimor Telecomコンソーシアム(以下、TTコンソーシアム)は2002年7月に東ティモール政府より携帯電話事業を含む電気通信事業の免許を取得した。TTコンソーシアムは2002年10月17日にTTとして正式に法人化し、東ティモールの独立後に初めての携帯電話事業者が誕生した。

TTはTelstraから各種資産を引き継ぎ、2003年3月1日に首都・ディリやロスパロス、バウカウ、オエクシの4都市で事業を開始した。社名と同じブランドで携帯電話サービスを提供している。

携帯電話サービスの開始当初は2GとしてGSM方式の900MHz帯で提供し、2009年に3GとしてW-CDMA方式を導入した。W-CDMA方式は2.1GHz帯(Band I)および850MHz帯(Band V)を利用するが、ディリ以外では850MHz帯を中心に3Gの提供エリアを整備する都市も少なくない。

▼ディリにあるTTの販売店内。
ディリにあるTTの販売店内。

ポルトガル語圏の企業が支援

ポルトガルは東ティモールの旧宗主国で、ポルトガルを含めたポルトガル語圏の国や地域の企業がTTの設立や事業を支援した。TTに出資する企業と出資比率は2015年末時点でポルトガルのTPT - Telecomunicacoes Publicas de Timor(以下、TPT)が54.01%、東ティモール政府が20.59%、VDT Operator Holdings(以下、VDTOHL)が17.86%、ポルトガルのPT Participacoesが3.05%である。

筆頭株主のTPTはPT Participacoesの子会社で、PT Participacoesによる出資比率は76.14%となり、PT Participacoesは直接的および間接的にTTの株式を保有する。以前はポルトガルのPortugal Telecom(後に社名をPharolに変更)が間接的にPT Participacoesの全株式を保有していた。Portugal Telecomは間接的にTPTの株式76.14%を保有していたことになり、実質的にPortugal TelecomがTTの支援を主導したことになる。TTのロゴやコーポレートカラーはPortugal Telecomと似るが、このような背景があるためだ。なお、ロゴはTTの文字と人をイメージする。

後に、Portugal TelecomはブラジルのOiと経営統合や事業再編に向けて動き、TTも巻き込まれる。Portugal Telecomの完全子会社でPT Participacoesの全株式を間接的に保有していたPT PortugalをポルトガルのAltice Portugalを通じてルクセンブルクのAltice(後に本社機能をオランダに移転)への売却が決定した。

しかし、東ティモールやアフリカ各国の事業を傘下に持つPT Participacoesは売却資産に含まず、PT Portugalの売却前となる2015年5月下旬にOiはPT Participacoesの全株式をPT Portugalから取得した。OiはPT Participacoesの全株式を直接的に保有し、2015年末時点ではOiが間接的にTTの株式44.17%を保有する。

東ティモール政府に次ぐ株主のVDTOHLは英領ヴァージン諸島で設立されており、英領バミューダ諸島で設立されたVodatel Networks Holdings(愛達利網絡控股)の完全子会社である。本社機能をマカオ特別行政区(以下、マカオ)に置き、企業活動の拠点はマカオとなる。

ブラジルとマカオはともに旧ポルトガル領でポルトガル語を公用語とし、TTにはポルトガル語圏の国や地域の企業が資本参加することが分かる。なお、マカオは中国語も公用語とする。東ティモールの公用語はポルトガル語とテトゥン語であるが、インドネシアによる不法占領下ではインドネシア語が日常的に使われたため、今日ではインドネシア語話者が多い。

PT Participacoesが傘下に持つ事業はポルトガル語圏諸国共同体(以下、CPLP)加盟国における事業が多い。東ティモールは独立直後にCPLP加盟国となり、CPLPには電気通信分野の発展を目指す組織がコンサルティングオブザーバーとして加盟するほか、マカオは加盟していないもののCPLPと交流が盛んなマカオの組織は少なくない。経済規模や人口規模などを考慮すると東ティモールは決して魅力的な市場とは言えないが、CPLP加盟国間では分野を問わず連携を強化しており、CPLP加盟国の企業がTTの支援を主導することになった。

▼ディリにあるTTの販売店。TTのロゴが目立つ。
ディリにあるTTの販売店。TTのロゴが目立つ。

▼ディリでCPLP加盟国の会合が実施されたことを案内していた。
ディリでCPLP加盟国の会合が実施されたことを案内していた。

独占崩壊後の苦境

東ティモールでは2013年3月16日にインドネシア国営企業であるTelekomunikasi Indonesia(TELKOM)傘下のTelekomunikasi Indonesia International(TL)(以下、Telin Timor-Leste)がブランド名をTELKOMCELとして携帯電話サービスを開始し、10年以上も続いたTTの独占が終了した。2013年7月10日にはベトナムの国防省が所有するViettel Group(軍隊通信グループ)傘下のViettel Timor Leste(以下、VTL)がブランド名をTelemorとして携帯電話サービスを開始し、TTは厳しい競争に直面した。

東ティモール政府は携帯電話事業者各社の加入数を公表しており、直近では2015年第3四半期末まで公表済みだ。2015年第3四半期末まで3四半期のTTの加入数は下表の通りである。

▼TTの加入者数・3G利用比率・プリペイド比率
TTの加入者数・3G利用比率・プリペイド比率

TTは加入数がゆるやかに減少していることが分かる。東ティモール国勢調査では2015年7月時点で人口が116万7,242人となり、携帯電話サービスの人口普及率は約111%に達した。ただ、デュアルSIMに対応した端末の流通が多く、1人で2枚のSIMカードを利用するケースもある。SIMカードを新規開通すると無料通話が付属するため、無料通話を目当てに新規開通を選ぶこともあるという。

そのため、携帯電話サービスの人口普及率が100%を超えたとはいえ、それは人口と加入数から算出した単純計算の数値で、東ティモールの国民すべてが携帯電話サービスに加入しているわけではない。事実、VTLは加入数を順調に伸ばし、Telin Timor-Lesteは少ない水準であるものの増加傾向で、決して飽和状態ではない中でTTのみが減らした。

▼TTのSIMカード。東ティモールで神聖視されるワニの絵柄が描かれている。
TTのSIMカード。東ティモールで神聖視されるワニの絵柄が描かれている。

加入数減少の要因は

TTが加入数を減らす理由はディリを訪問するとすぐに理解できた。ディリの中心部には携帯電話事業者各社が販売店を設置するが、TTは営業時間が短い販売店が多いのだ。TTは公式ウェブサイトで各販売店の営業時間を案内するが、その案内より明らかに開店時刻が遅く、しかも閉店時刻が早い販売店が複数あり、15時に閉店する販売店まで確認した。

営業中の販売店を訪問してSIMカードを購入しようとするとTTのシステム障害によりSIMカードを買えない状況に遭遇した。詳しく話を聞いたところ、開通済みのSIMカードであればチャージやプランの登録は受け付けるが、システム障害により新規開通が不可でSIMカードを販売できないと説明を受けた。

TTの従業員は親切に近くのTelin Timor-Lesteの販売店でSIMカードを買えると教えてくれたが、どうしてもTTのSIMカードを購入したいと伝えると、復旧時間は不明としながら改めて来店すれば買えるかもしれないという。なんと運が悪いのだと思いながらTTの従業員と話していると、隣で手続きしていたTTの顧客がたまにあることだと教えてくれた。

結果的にTTの販売店に通い始めて4日目にSIMカードの購入および開通を完了できたが、TTへの強いこだわりがなければ、普通はTTを諦めて競合他社に行くはずだ。TTのSIMカードであればTTの電話番号宛には無料通話を利用できる場合があり、状況に応じてTTにこだわることもあると思われるが、競合他社も同様の施策を実施しているうえに、特にVTLは加入数が急増しているため、TTをやめてVTLを選択する流れは十分に考えられる。

また、TTは端末販売も酷い。2016年5月時点で国際連合が指定する後発開発途上国から脱却できていない東ティモールでは多くの人々が貧困に苦しみ、高価格なスマートフォンは手が届かないが、それでもスマートフォンへの関心は高まりつつある。

そこで、VTLとTelin Timor-Lesteは自社ブランドの低価格なスマートフォンをSIMカードとセットで販売するなどスマートフォンの普及に注力している。一方で、TTは自社ブランドの低価格なベーシックフォンは販売しているが、スマートフォンはグローバル向けの古い機種が多く、グローバルでは4年以上も前に発売された高価格な機種を値下げせずに販売しており、誰が買うのかと思うほどだ。誰もが買わないため古い機種が残っていることは言うまでもなく、TTの販売店ではスマートフォンを展示しているが、ほとんどの顧客は気に留めない。

また、VTLやTelin Timor-Lesteはデータ通信を安価に利用できるプロモーションも実施しているが、TTにそのような施策はなく、低価格なスマートフォンの需要が高まる中でTTは競争力に欠ける状況である。

TTの独占時代は多少の欠陥があろうとTT以外に選択肢はなかったが、今やそうではない。このようにTTは課題が山積みで、加入数減少は当然の結果と言える。

▼TTの販売店内には多くの端末を展示する。
TTの販売店内には多くの端末を展示する。

▼TTブランドのベーシックフォンTT Kman。
TTブランドのベーシックフォンTT Kman。

いずれ首位陥落も

以前に紹介したようにVTLは様々な戦略が成功して急成長を遂げた(参考記事)。VTLの成功はTTが加入数を失った要因のひとつではあるが、VTLの成功だけが加入数を失った要因とは言い難く、TTに大きな欠陥があると考えるべきだ。むしろ、TTの失策がVTLの急成長を多少なりともアシストしたと言えるだろう。

東ティモール政府によると2015年第3四半期末における携帯電話事業者の加入数シェアは上位からTTが47.2%、VTLが38.9%、Telin Timor-Lesteが13.9%となり、VTLはTTを脅かす存在に成長した。TTに改善がなくVTLが好調を維持すれば、TTが首位陥落する日は遠くないだろう。Telin Timor-LesteはVTLの施策を追随して加入数を徐々に増やしているが、TTこそVTLを見習う必要がありそうだ。

▼TTのワニの絵柄は街中でもよく目にした。
TTのワニの絵柄は街中でもよく目にした。

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田村 和輝(たむら・かずてる)

滋賀県守山市生まれ。国内外の移動体通信及び端末に関する最新情報を収集し、記事を執筆する。端末や電波を求めて海外にも足を運ぶ。国内外のプレスカンファレンスに参加実績があり、旅行で北朝鮮を訪れた際には日本人初となる現地のスマートフォンを購入。各種SNSにて情報を発信中。