政府 イメージ

ブロックチェーンによって出現するかもしれない超国家公共サービス

Blockchain and new world order

2017.03.15

Updated by Ryo Shimizu on 3月 15, 2017, 19:33 pm JST

 AIを含む新技術が登場した場合を想定した、著作権や特許権などの知的財産権について検討する、内閣府の新たな情報財検討委員としての仕事に一区切り付きました。任期は一年なので厳密にはまだ委員としての仕事は終わっていませんが、大企業や大学の先生方が並ぶ中、吹けば飛ぶような零細企業の人間として国家的な視点でものごとを考えるいい機会を頂いたと思います。

 この、「新たな情報財検討委員会」の中心的な話題はAIとデータでした。特にAIは深層学習を前提としたAIについての話がメインで、この部分に関しては多少は理解にお役に立てたのではないかと思います。

 また、AIが出現することによって世の中にはこれまで存在しなかった新しい知的財産が生まれてくる、という前提で、何を保護すべきで何を保護すべきでないか、ということについて色々と有識者の先生方のお考えを拝聴することができ、大変有意義でした。

 さて、政府がこうしてAIおよびそれによって生み出されるデータに高い関心を示す一方、著作権を始めとする知的財産権をどこに認めるべきか、また、どこに認めるべきでないかという議論を考えていると、当然ながらインターネットの隆盛が極まった現代において、単独の国家が提供する思想や価値というのは、どうも古臭いものに見えて仕方がなくなってきました。

 国家が無価値なのではなく、インターネットを前提とした世界では、日本政府はこの惑星に無数にある様々な国家の集合体の、一地方自治体に過ぎないということです。

 特に著作権、知的財産権というのは簡単に海を超えてしまいますから、日本政府だけがなにか特殊な法律を作って運用しようとしても、国際的な情勢の如何によって無意味になってしまうのです。

 また、立法と司法が別れている三権分立にも別の問題があります。立法した人間の意図を司法が正しく解釈してくれるとは限らないということです。

 つまりよかれと思って造られた法律であっても、司法の運用次第で有効だったり、悪くすれば悪用されたりするケースも考えなくてはなりません。

 これは法律をプログラムと考えると非常に効率の悪いシステムです。
 プログラマーの意図と、実際にそれを運用する人の意図に齟齬があった場合、正しく運用されないということだからです。

 しかしメリットもあります。行政、立法側の意図に完全に沿うようにすると為政者だけが得をする仕組みがどんどん出来上がってしまいます。そうならないように司法は独立している必要があるのです。

 三権分立をコンピュータシステムのメタファで言うとなんでしょうか。
 まず、立法、これは国会です。そして選挙はユーザーインターフェースです。日本国というシステムを使うユーザは国民であり、国民はこうあって欲しいという要望を代議士を選ぶことで間接的に指示します。

 法律が通るのは国会なので、これは国会議員全員でプログラミングしているというのに等しいことです。実際の法案を作るのは官僚かもしれませんが、大筋でユーザーから新任されたプログラマー(国会議員)の意図を反映させた法案を作ることになります。

 内閣、つまり行政は実際にプログラムを実行したり書き換えたりします。もちろん書き換えには国会(立法)の許可が必要です。

 官僚機構は内閣の指示のもと、国の大方針に従ってそれぞれ動き始めます。

 では司法とはなにかというと、こうした機構が不正無くちゃんと動いているかどうかを見極めるための検査装置です。コンピュータシステムではプロファイラやデバッガという機構です。コンピュータシステムと異なり、司法はユーザーそのものも監視し、不正を行うユーザがいないかどうかを見張ります。

 というのも、国民はユーザであると同時にシステムの一部でもあるからです。
 日本国というのは政府だけがあっても、国会だけがあっても日本国という国家として機能しません。

 国民がいて、初めて成立するものなのです。

 次に、国家とはそもそもなんなのかということを考えると、大勢の人々がある基準の合意事項を守るという仕組みです。

 たとえば人を殺さないとか、人のものを盗まないとか、子供は学校には必ず行かせる、などの合意事項を決めて、国民はみんなでそのように暮らしましょうということを決めたものです。かつては宗教と区別が付きづらかったのですが、今は我が国では確固とした政教分離が実現されています。

 さて、しかしこれは近くに住む人達のためのルールです。具体的には日本列島に住む人々の合意事項に過ぎません。

 国が違えばルールも変わります。アメリカ合衆国では、州法が非常に強い力を持っているので、弁護士資格も週ごとに取り直す必要があります。

 消費税の税率さえ州によって違います。これがアメリカ合衆国という単一の国家に、無数の価値観や都市が栄えている理由でしょう。

 カリフォルニア州だけで日本の本州がすっぽり収まるような巨大国家は、完全に単一のルールだけでは運用できないのです。

 日本にも条例がありますが、条例よりも法律のほうがやはり圧倒的に強力です。

 ビットコインが登場した時、そのあまりに荒唐無稽にも思えるアイデアに頭がクラクラしました。しかし実際には、ビットコインは大きな力を持ち始めています。現実の力です。

 ETFに採用されるされないで乱高下したりと未だに不安定な通貨ですが、ビットコインが垣間見せてしまった未来像というのは、世界が一つの価値基準で結ばれる未来です。

 ビットコインの基本的なアイデアは、「計算資源の前に全てのノードは平等である」という考えかたです。

 このアイデアを希釈するとブロックチェーンになります。
 ブロックチェーンのアイデアは極めてシンプルで、台帳の原本を大勢の人が同時に持つことにして、どの原本が正しいか、改ざんされていないかという証明のために計算資源を使いましょうという考えかたです。

 この計算資源を運用するモチベーションは、計算資源を提供してブロックチェーンの接続状態が正しいか確認するための計算時間を提供すると、かわりにビットコインが貰えるというものです。この、計算資源を提供することをPoW(Proof of Work)、作業証明と言います。

 ただし、ビットコインのもとのアルゴリズムのままでは、いくつか問題がありました。計算資源の提供にモチベーションがある一方で、作業証明のための計算が比較的簡単だったため、すぐに専用の機械を作る人が圧倒的に有利になってしまいました。

 そこでビットコインを拡張して、作業の証明ではなく、所有の証明(Proof of Stake)にするやり方などいろいろな代替案が考案されています。

 ブロックチェーンの技術は未だに発展途上ですが、言葉や国境を超えて価値を瞬時に交換できるという単純な事実だけでも凄いことです。

 また、交換する価値はおそらく貨幣に限らないのではないかと思います。
 著作物のやりとりでもいいですし、思いやりでもLikeでも、とにかくやりとりするものならなんでもいけるはずです。

 世界規模のデータベースが出現するとしましょう。そのデータベースには、公開可能な情報ならなんでも放り込むことが出来ます。

 Twitterがダウンして困ったり、任天堂Switchが予約できなくて困ったりはしません。全ての情報は公開されているからです。

 また、秘密情報を公開することで管理することもできます。

 たとえば、新しいゲームの企画を考えました。誰よりも速く考えたと証明したいけれども、ゲームが完成する前に内容を公開したくない場合、暗号化した企画書を先にブロックチェーンで公開しておいて、ゲームが完成したときに複合鍵も同時に公開します。そうすると、誰が先にそのアイデアを考え、公開したのかということがはっきり証明できます。

 筆者の感覚からすれば、ブロックチェーンが単なるフィンテックの一分野としか思われていないことはむしろ残念です。

 ブロックチェーンの持つ可能性、もっと広げるとピア・ツー・ピアの持つ可能性は非常に大きく、例えばピア・ツー・ピアの分散ストレージのアイデアは金子勇のWinnyの頃からありました。Winnyは非常に優れたツールでしたが、それゆえに著作権上問題のあるデータの流通基盤となっていました。

 Winnyとブロックチェーンは直接関係ありませんが、どちらもともにピア・ツー・ピアによる非中央集権的な管理を実現する方法です。

 今の国家体制はほぼ世界中例外なく中央集権的なものです。首長が居て、中央政府があり、その下に各行政機関が設置されるというピラミッド構造です。

 この構造のいい面もありますが、悪い面もあります。このやり方だと、あまりにも少人数であまりにもたくさんのことをしなければならないのです。

 しかし例えば、市が清掃員を雇うのではなく、自主的に公園のトイレを清掃した人に公平にお金が支払われるような仕組みが実現できたら、もっとコストエフィシィエントな公共サービスが実現できるかもしれません。

 真面目に掃除しているかどうかは、たとえばAIがチェックできるとします。
 ひとりひとりが持ち歩くスマートフォンや監視カメラが、その人がどんな生活をしているか、どれだけ社会に貢献しているかという尺度を持ち、国家とは別個の存在として、そのアプリを使っている人だけが共有でき、感じ取ることができる新しい世界規模の超国家公共サービスの出現というのも、案外ムチャクチャな話ではないかもしれません。

 Uberがある日突然、ふつうの人をタクシードライバーに変えたように、ふとしたはずみでできた新しいサービスが、ある日突然、世界政府を実現してしまうような、そんな未来に生きているのかもしれません。

 Googleは当初世界政府ができるときに必要なものを作ろうという理念を掲げていました。ところがいっこうに世界政府をつくる気配がありません。結局、Googleは中央集権的な広告業に過ぎないからです。

 そもそも株式市場に上場してる政府なんて聞いたことがありません。株主の利益と国民の利益はどこかで矛盾するので、公共サービスとしてのGoogleは、やはりある程度の限界があります。

 しかしGoogleに匹敵する規模のクラウドを構築することはほとんど誰にも不可能です。
 ではどうするか。

 かつて絶対に倒せないであろうマンモス企業と呼ばれた会社がありました。そういう会社は常に同じ方法で破られています。

 ひとつはIBMで、もうひとつはMicrosoftです。
 IBMは互換機メーカーに徹底的にビジネスを破壊され、Microsoftは無数の無名な開発者たちによってOS開発における主導権を奪われました。

 要するに、中央集権的支配のある世界があるとき、最終的には名も無き群衆が勝利する確率が高いのです。

 中央集権的なGoogleに対して、ブロックチェーンを含むピア・ツー・ピア技術は、Micorosftに対するオープンソースコミュニティに成りうる予感を感じています。

 もちろんなにをどういう順番ですればそれが実現できるのか。

 まだ筆者にも見えてませんが

WirelessWire Weekly

おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)

登録はこちら

清水 亮(しみず・りょう)

ユビキタスエンターテインメント代表取締役社長CEO。1976年新潟県長岡市うまれ。6歳の頃からプログラミングを始め、16歳で3DCGライブラリを開発、以後、リアルタイム3DCG技術者としてのキャリアを歩むが、21歳より米MicrosoftにてDirectXの仕事に携わった後、99年、ドワンゴで携帯電話事業を立上げる。'03年より独立し、現職。'05年独立行政法人IPAより天才プログラマーとして認定される。

RELATED TAG