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悪用も可能な研究成果「デュアルユース」とは何か?

2017.10.18

Updated by WirelessWire News編集部 on 10月 18, 2017, 07:00 am JST

アメリカの学術機関、全米アカデミーズがまとめたレポート「Dual Use Research of Concern in the Life Sciences」に不安をかきたてる指摘が書かれている。

アメリカ政府は、生物化学研究の成果が悪用されて人々の健康を危険にさらす可能性を減らすための規制を行ってきたが、期待通りの結果が得られていない。つまり、生物化学研究の成果が、バイオテロリストに悪用される恐れが十分にある状態なのだという。

2001年、同時多発テロの直後に起こった炭疽菌事件は、アメリカ陸軍感染症医学研究所に勤務していた科学者(逮捕前に自殺)がテレビ局や出版社、上院議員に炭疽菌を封入した容器を封筒に入れて郵便で送りつけ、22人が発症して5人が死亡したという事件である。

炭疽菌の発見は19世紀で、病気の原因となることが証明された史上初の細菌であり、ワクチンが初めて開発された細菌でもある。細菌学上、重要な細菌と位置付けられ、長きに渡って研究対象とされてきた。

研究の目的は生物兵器としての利用であるから、研究成果は軍事機密として秘匿されていたはずだが、陸軍の研究所の研究者が悪用するとなれば、研究室の設備を使って培養することもできるし、セキュリティ・システムについての知識があれば、持ち出すことも可能かも知れない。

研究の目的が医療だったり、純粋な科学だったりする場合には、軍事研究と違って組織的に秘密を保つ理由は、知的財産権の保全で、企業の研究所などがビジネス上の優位性を保つためだろう。そうした縛りがない場合、研究成果は広く学会誌などで発表し、人類の科学的な知識の集積に貢献し、世界のライバルの研究者たちに先駆けて発表したことで称賛されることが、研究者としての醍醐味だ。

STAP細胞騒動の時にも話題になったが、研究成果は追試できるか、つまり、他の研究者が同じ方法で実験を再現できるかどうかが重要になる。そのためには論文などで実験方法を説明することになる。

病原体の研究では、研究や技術の使い道の両面性(英語では、dual-useという)が大きな問題だと認識されている(日本学術会議の「病原体研究に関するデュアルユース問題」)。健康増進や病気治癒に使えるだけでなく、大量殺人のためにも使えてしまうという両面性だ。生命科学だけでなく、ロボットや人工知能(AI)、自動運転、新素材などの研究も、軍事技術の高度化に寄与できてしまうし、インターネットを支える技術もアメリカ国防総省の高等研究計画局(Advanced Research Projects Agency、略称ARPA、後のDARPA)の研究を起源に持っている。

アメリカでは現在、「憂慮すべきデュアルユース研究」として15の病原体と毒物の研究と7カテゴリーの研究が禁止されている(「米国におけるデュアル・ユース性が懸念される研究に関する政策動向」)が、遺伝子工学の近年の発展により、このリストでは不十分だと上記の日本学術会議のレポートは指摘している。

政府の資金を得て行われる研究については、研究そのものについても、その公表についても、リスク管理のガイドラインが存在はするものの陳腐化しており、政府資金とは無関係に行われる研究については明確なプロセスが存在しない。生命科学の研究者たちや、科学誌の編集者たちのデュアルユースに関する認識レベルも高くはないという調査があり、教育やトレーニングが必要だと日本学術会議のレポートは指摘している。その他、研究の動向をモニタリングする仕組みや、政策や規制面での国際的な協調の必要性も指摘されている。

【参照情報】
Policies Governing Dual-Use Research in the Life Sciences Are Fragmented; Most Scientists Have Little Awareness of Issues Related to Biosecurity

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