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日本のITエンジニアの賃金とガバナンスの関係

Japanese IT industry's salary and governance

2017.12.22

Updated by Mayumi Tanimoto on December 22, 2017, 07:10 am JST

前回の記事では、日本のITエンジニアの報酬が安いのはシニオリティペイ(年功序列賃金)が原因の一つとご紹介しました。

さて、今回はこの件に関してもうちょっと解説を加えます。

北米と欧州のIT業界は職能型賃金ですので、要するに、どんな技能で何をやるといくら、という相場が決まっています。

ですから正社員と非正規社員の垣根というのは低いんですね。違いは長期雇用か、短期雇用か、福利厚生があるかないかです。

報酬は雇用の安定がないという前提があるため、割増賃金の払われる非正規の方が遥かに高いので、正社員から非正規に切り替えたりするのもよくあります。景気が悪くなるとその反対です。ですから、非正規だと言っても悲壮感はありません。顧客の管理職よりも報酬が高かったりしますので。

ロンドンの場合、今はリーマンショック直後よりも景気が良いので非正規になる人が増えてます。報酬も年に10%以上上がってるところもありますね。AIとかビッグデータ、ブロックチェーン、自然言語解析あたりが専門の人は売り手市場です。

ところが日本の場合は、そういう風に業界全体で報酬を共有して、市場レートを厳密に適用しているわけではありません。在籍年数とかあまりアウトプットには関係ない要素も関係してしまいますね。

それに、職能別採用の前提になるジョブディスクリプション(職務説明書:JD)も整備されていなかったりします。あっても北米や欧州の基準では内容がいい加減過ぎです。ですから、職能型採用にするなら、JDを一から整備する必要があるんです。これがないので、SEという意味不明な職業があって、付加価値の高い技術者に何でもやらせていたりします。

JDは、エンジニアだけではなく全社員に必要なんですけど、販売管理部なんてやることも仕事の分担ももっと曖昧だったりしますよね。

さらに、JDを整備するなら各職種、各スキルごとの時間単位のコストも数値で表すことができなければなりません。 なぜならこれでコストを試算し、雇用の報酬を決める前提になるからです。

しかし、そんな真面目なことをやっているのは工場の生産ラインぐらいの話で、ホワイトカラーに関してはかなり曖昧ですよね。だから、ITより工場のラインで働いたほうがマシだ、とか言われたりするんですけど。定時で終わりますし。(働かせすぎると事故がおきて労災事案になりますから、製造業のほうがこの辺はマトモだったりします)

これは単にエンジニアに高い報酬を払うという話ではなく、もう企業のガバナンスの問題なんですよね。

これまでかなり曖昧な根拠で報酬を計算してきた日本企業にとっては、これは大変な作業になるはずです。

それこそエンジニアの 9割とか8割が 外資系や他の国に移動してしまうという状況になればやらざる得ないと思うのですが、今の状況で雇用の安定を捨てて他に移る人が増えるとは思えません。 労働力不足になって、インドやマレーシアから技術者が入ってくれば変わるかもしれませんが、彼らはもう、今の時点で取り合いで、良い人はアメリカやカナダに行ってしまうので、これも考えにくいですね。

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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