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エストニアの電子政府とアメリカ的なもの

Estonian e-government and American things

2018.01.23

Updated by Mayumi Tanimoto on January 23, 2018, 07:07 am JST

前回の記事では、エストニアが電子政府を強烈に進めている背景には、安全保障的な理由があるからだと書きましたが、その他にも、IT導入の文化的な側面も重要な気がしています。

第二次世界大戦中の凄惨な戦い、そして70年にわたるソ連による支配の記憶というのは、 エストニアにおいて「新しいもの=アメリカ的なもの」を歓迎する文化を形成しています。政府のウェブサイトの多くや銀行のサイトは完璧な英語で書かれていますし(これは英国を除く欧州では珍しいことです)、前の大統領はニュージャージー育ちでコロンビア大学で教育を受けた「帰国子女」です。

西側と違い東欧というのは、なんだかんだいってアメリカが好きな国が多いです。 その感情はまっすぐなものではなく、憧れとねたみが混ざった感じでもあるのですが、アメリカ的な新しさが好きな人が多いのです。それは共産時代の圧政、貧しさ、自由のなさ、暗さの裏返しです。

エストニアでゴミのように放置されたソ連時代の施設や、ハンガリーの「恐怖の館」という博物館、共産時代の名残を一切感じさせないチェコの街中を歩くと、あの時代をどれだけ嫌悪している人が多いかというのがよくわかります。

チェコやハンガリーで街を歩いたりテレビを見ていると、 西側に比べてやたらとアメリカを持ち上げるようなギャグや番組が多いのです。 イギリスやフランスよりも、はるかにアメリカ的な服が売られていたりします。

西側の方ですと、なんとなくアメリカ的なものをちょっと馬鹿にするような感覚があるのですが、東の方だとアメリカは憧れの国という感じがあります。

「IT=アメリカのもの」なので、古いものは捨ててしまって、どんどん新しくしたい、という願望があるような気がします。

若い人が話すのはアメリカ英語です。 これはスペインやイギリス、 フランスではあまりないことです。西側ではアメリカ英語は笑われるネタです。

アメリカに移民している親戚が多い、というのも関係あるかもしれません。エストニアは、第二次世界大戦直後に人口の2.5%程が西側に逃れましたが、アメリカに渡った人達も少なくありませんでした。

過去の体験があまりにもおぞましいため、 新しいもの、 アメリカ的な新世界への憧れが強いように思います。 それが ITの大胆な導入につながっているわけです。

この感覚は、実は日本の人はちょっと理解できるのではないでしょうか。 日本でも第二次世界大戦中の建物や服装などを嫌悪する人が少なくありませんし、 新しいものが好きな人が多いと感じます。

ところが、戦勝国の英国だと古い英国を懐かしむ人がとても多く、 若い人でも第二次世界大戦中の文化を好んだりりすることがあります。 戦勝国ですから、そこに罪悪感がないわけです。その一方で、新しいもの、アメリカ的なものに対しては何となく懐疑的なところがあります。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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