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意外にも、個人個人が自分に合った働き方を見つけることが、全体としては健全な労働力を確保する手段になる。

2018.03.26

Updated by 特集:採用と活躍の技術 on March 26, 2018, 18:53 pm JST

2003年SMAPの歌「世界に一つだけの花」が大ヒットし、東日本大震災後に金子みすずの詩「わたしと小鳥とすずと(=みんなちがって、みんないい)」に心を癒された。1990年代から大学入試ではAO入試、自己推薦入試などが多く実施されるようになり、一芸に秀でた人を評価するということが浸透している。このように、近年は「自分らしく生きること」が重要視される社会になりつつあるようだ。マーケティング分野においても、一昔前までは性別、年齢で括れば、みんなが同じものを好きで、同じものを欲しがる消費スタイルであった。昨今は興味関心事の多様化、インターネット普及による情報の流通方法のダイナミックな変化など、様々な要因によって、生活者を一括りにして考えることは難しくなりつつある。

ライフスタイルが“本当に”多様化することで、消費者をわかりやすいクラスターに分類し、大規模なマーケティングでごっそり顧客を獲得するのは難しくなりつつある。しかし「働く」ということに関してはどうだろう?「むしろ「自分らしく」という流れに逆行する動きが顕著ではないだろうか。1986年に男女雇用機会均等法が施行されて30年を超え、現在働いている人の多くはそれ以降に就職した人たちとなった。多くの企業で男女の区別なく、女性でも実力のある人は出世もでき社長に女性が就任するということも珍しくはない時代となった。その中で、多くの人が「男性も女性もフルタイムで正社員で働き続けるのがよい」という働き方を是とする価値観に固定化されようとしているように思われる。

例えば、女性において言えば、M字カーブという有名な労働力率のグラフがある。女性の労働力率は、結婚・出産期に当たる年代に一旦低下し、育児が落ち着いた時期に再び上昇するというグラフである。

政府はこのM字カーブを解消して台形(=結婚・出産で仕事を辞める人がいない状態)にすべしという方針で、企業が育休制度などを充実させるように動いている。確かに、「意欲的に働き続ける」という選択肢は非常に大切で、育休制度が確立されていることは必須である。しかしながら「みんなが働き続けなければならないわけではない」とも感じているはずだ。体力的にも精神的にも疲弊しているママもいるだろうし、ただただ働き続けることが「正」だと信じフルタイムで通勤しているだけで戦力になっていない雇用保蔵されている人も多いのではないかと思う(参考:雇用保蔵者数推移)。前者は果たしてそれが幸せなのだろうかということになるし、後者は労働力を有効に利用しておらず企業にとっては対費用効果の悪い無駄遣いであると言えるだろう。

超高齢・人口減少社会に突入している日本が、一層の労働力を必要としていることに異論はない。ただ、個人として幸せな人生を考えた時には、みんなが同じようにフルタイムで働き、結婚して、子供を産み育てようとするのは少々無理があるのではないか。むしろ個人個人が自分に合った働き方を見つけることが、結果的に長期的で健全な労働力を確保できる可能性が高いはずだと確信する。

しかし、企業にとっては、せっかく育てた人材が退職してしまうことは大きな損失だ。昨今、トヨタ自動車や富士通、コクヨなど多くの企業で「ジョブ・リターン制度」「復職制度」が採用されている。退職者がまた働きたいと思ったモチベーションの高い状態で再入社しwin-winの関係が築ける制度である。また、企業に所属することだけが「働くこと」全てでもない。退職した企業と個人として契約をするということもあるだろう。個人に様々な選択肢があり、さらにそれらに序列がなく自分に合ったものを選択することで、「自分らしく」「幸せ」に「働きながら」生きていくことができるのだと思う。

実は筆者自身が「男性も女性もフルタイムで正社員で働き続けるのがよい」という呪縛に縛り付けられていた。会社を退職した後に、今こうしてこのような記事を書く機会に恵まれたことで、呪縛から解放されたことを実感している。

緒方直美(おがた・なおみ)

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特集:採用と活躍の技術

社員の行動データを収集・分析し、業務効率化・業績向上、人事に生かす手法として注目されているピーブルアナリティクス(People Analytics)に代表される人事関連技術(Human Resource Technology)は人工知能関連のアルゴリズムが導入され始めることで本当に効果があるのかどうかが試され始めた。一方で“働き方改革”による労働生産性向上は国を挙げての喫緊の課題として設定されている。この特集では全ての人たちに満足のいく労働環境はどのように実現できるか、そのために人事関連技術はどこまで貢献できるのかを考えていく。データサイエンティスト/ピープルアナリストの大成弘子(おおなり・ひろこ)とアナリストの緒方直美(おがた・なおみ)を主たる執筆者として展開。

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