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昨今「働き方改革」が非常に注目され、政府も企業も取り組みを進めている。働きやすい環境が整備されることは非常に良いことであるとは思うものの、自分が働いている感覚と少しずれているように感じている人も多いのではないだろうか。

内閣府の平成29年世論調査結果によると、働く目的で最もスコアの高いのは「お金を得るために働く」54.3%となっている。「生きがいを見つけるために働く」18.4%、「社会の一員として役目を果たすために働く」14.2%、「自分の才能や能力を発揮するために働く」9.0%と続く。

しかしながら、この調査データは“あなたが働く目的は何ですか。あなたの考え方に近いものをこの中から1つお答えください。”というシングルアンサー質問の回答結果で、最も大切なひとつの選択肢を選んだ結果である。

有名な「マズローの欲求5段階説」は、人間の欲求は5段階のピラミッドのように構成されていて、低階層の欲求が満たされるとより高い階層の欲求を欲するとされるという説である。

第一階層「生理的欲求」生きていくための基本的・本能的な欲求(食べたい、飲みたい、寝たいなど)
第二階層「安全欲求」危機を回避したい、安全・安心な暮らしがしたい(雨風をしのぐ家・健康など)
第三階層「社会的欲求(帰属欲求)」(集団に属する、仲間が欲しい)
第四階層「尊厳欲求(承認欲求)」(他者から認められたい、尊敬されたい)
第五階層「自己実現欲求」(自分の能力を引き出し創造的活動がしたいなど)

収入を得て、第一階層、第二階層の欲求を満たすことが最優先されるのは当然で、むしろ注目すべきは「生きがいを見つけるために働く」「自分の才能や能力を発揮するために働く」といった自己実現欲求に当たるものを選択している人が3割近くいることだろう。また、同じく別の世論調査によると、「理想的な仕事」で最もスコアの高いのは「自分にとって楽しい仕事」60.1%、次いで「収入が安定している仕事」59.7%となっている(こちらはマルチアンサー質問)。「楽しさ」が「収入」とほぼ同等という結果である。

結局、日本人が考える理想的な仕事とは、自分の才能を活かし、自分にとって楽しいことをやり、それに対して生きがいを感じることができれば良い、ということになる。

一方で、「働き方改革」では、以下のような課題の解消を挙げ対策を進めている。

・正規、非正規の不合理な待遇の差の解消
・長時間労働の解消
・単一型の日本のキャリアパスの解消

生活者は「働く」ということに「楽しさ」を求めているにも関わらず、現在進められている「働き方改革」を見ると、“働くこと=お金を稼ぐこと&辛いこと“という前提で語られていることがわかる。これでは、楽しい「ライフ」のために、辛いけど「ワーク」でお金を稼ぐという解釈になり、「ライフワークバランス」を曲解しまうことになりかねない。本来「ライフワークバランス」とは、生活の充実によって仕事がはかどり、楽しく仕事をこなすことで、私生活も潤うという循環系のことであり、生活と仕事の相乗効果を表現する言葉だ。

また、「働き方改革」で語られていることは、目に見えてわかりやすい物理的なこと、時間の話、そして効率の話に終始している。

いま国民ひとりひとりが生涯働きながら人生を謳歌していくために必要なのは、「精神的」なこと(=仕事にどうやって楽しさを見出すか)を考え、実践していくことだろう。今現在職場で活躍する現役世代に対して、企業がそのような場を作ることが必須なのだ。無論それにとどまらず、学校教育、家庭教育を通して子どもたちへの「働くこと」についての教育がより一層重要になってくるだろう。バブル崩壊後を生きてきた若者にとって「就活」は人生で最初に直面する大問題である。大学に入学したときから「就活」を頭の片隅に置きながら“嫌だな嫌だな”と遠ざけたい気持ちで大学生活を過ごしている学生も多い。難題を乗り越えなんとか就職したとしても「働く」ということにネガティブな状態から「楽しむ」に転換することはパワーと時間を必要とする。大企業に就職できればそれで試合終了、という感覚の学生も多い。

子どもたちに“大人って楽しそう”“早く大人になりたい”と思ってもらえるような社会にならなければ、一億総活躍社会を迎えることはできない。

緒方直美(おがた・なおみ)

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特集:採用と活躍の技術

社員の行動データを収集・分析し、業務効率化・業績向上、人事に生かす手法として注目されているピーブルアナリティクス(People Analytics)に代表される人事関連技術(Human Resource Technology)は人工知能関連のアルゴリズムが導入され始めることで本当に効果があるのかどうかが試され始めた。一方で“働き方改革”による労働生産性向上は国を挙げての喫緊の課題として設定されている。この特集では全ての人たちに満足のいく労働環境はどのように実現できるか、そのために人事関連技術はどこまで貢献できるのかを考えていく。データサイエンティスト/ピープルアナリストの大成弘子(おおなり・ひろこ)とアナリストの緒方直美(おがた・なおみ)を主たる執筆者として展開。

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