画像はイメージです original image: © Liran - Fotolia.com
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来る5月8日から3日間、3年ごとに開催される国際農業技術展「Agritech Israel」がテルアビブで開催される。灌漑技術、水管理技術、乾燥地帯の農業、施設園芸、水産養殖、品種改良、農薬や肥料、オーガニック農業、などに関する先端技術を持つ企業が集まるイベントだ。スタートアップや大学発ベンチャーを集めたイノベーションパビリオンも設けられ、農業IoTや農業AI関連企業の参加も増えている。
イスラエルの南半分は砂漠であり、北側の農業に適した耕作地であってもそもそも降水が少ない環境にある。どのようにして困難な環境条件を克服し、世界規模の農業先端技術、アグリテックを発展させることができたのだろうか?
イスラエルの降水量は中央平野部で年間約300-700ミリ、砂漠気候の南部では約50ミリと限られている(日本の全国平均は1500ミリ程度)。国土の約半分は乾燥地帯であり、国土22,000平方キロメートルのうち農地は43.7万ヘクタール(2014年)と2割程度である。
▼イスラエルの南半分は砂漠
このような過酷な環境で信じがたいが、イスラエルは穀類を除き国内需要の大部分を自給している農業国だ(2014年の農業生産高は78億米ドル。うち輸出14億米ドル、 輸入20億米ドル)。
▼豊富な農産物が目を引く市場
そもそも、乾燥地帯で農業を行う試みが始まったのは、1948年の建国より前に始まったシオニスト(注1)による「キブツ」という農業共同体にさかのぼる。彼らは、荒れ果てた大地を開拓し、農業をしながら共同生活をし、皆が平等な理想郷を作ろうとした。
しかし、この地で農業をするには、水と耕作可能な土地の不足を克服する必要性があった。早い段階から先端農業がその解決の鍵を握ると考えていたシオニスト・リーダーたちは、1921年にARO(農業研究組織)である「Valcani Institute」を設立する。現在もValcaniでは、灌漑、水ソリューションなどにフォーカスした農業研究の中心組織として、ヘブライ大学、テクニオン大学、ワイツマン研究所を始めとするほとんどの大学や学術機関と共同研究を行っている。
▼最も効率性が高い大型淡水化プラント「Sorek」
イスラエルの家庭用水の40%はメイン5基の海水淡水化プラントで作られている。増える需要に対応すべく、新たにもう1基のプラント設置がイスラエル北部の都市アッコに計画されており、この割合はさらに上昇する。
このようにして作られる水の淡水化コストは1立方メートルあたり3シェケル(1シェケルは約30円)、家庭が支払う価格は同9.2シェケルである。農業で使用される水(Fresh water)には割当てが決められており、同2.2-3シェケルで利用量により段階的に上がる。
農家には、可能な限りリサイクル処理をされた生活排水(1立方メートルあたり約1シェケル)を使用することが義務付けられている。現在、生活排水の85%はリサイクルされており、イスラエルの水リサイクル率は世界で最も高い。
このようにして作られた水は、効率的に農業に利用される。それが「点滴灌漑ネタフィム」というチューブを通して効率的に水を作物に供給するシステムだ。この技術は、研究者がキブツと連携して共同研究をすることにより、現場視点で実用性が高められた。
▼点滴灌漑ネタフィムで効率的に水供給
このような努力の甲斐あって、1950年代から農業生産量は8倍に増えたにもかかわらず、水の使用量は3倍にしか増えていない。
注1)
シオニスト:ユダヤ人の民族国家をその故郷とされるパレスチナの地(今のイスラエルとパレスチナ自治区のある地域)につくることを目指した「シオニズム」運動を支える人々。
※写真提供:Yoko Yamaguchi氏(イスラエル在住)
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