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(Photo; Slush Tokyo/ Petri Anttila)

壁を破るか? フィンランド発のスタートアップ・イベント「SLUSH」

2018.04.06

Updated by Hitoshi Arai on 4月 6, 2018, 17:49 pm JST

3月28日29日の2日間、東京ビックサイトで「SLUSH Tokyo 2018」が開催された。テーマは、"Breaking Barriers"。若手のスタートアップに向けて「壁を破れ!」というメッセージである。

SLUSHは、2008年にフィンランドで始まった若手起業家による若手起業家のためのイベントである。当時のフィンランドでは、若者の起業に対する意識は低く、その状況を打開するために企画された。

本家SLUSHに参加してファンになったMistletoe代表取締役兼CEOの孫泰蔵氏が中心となって、2015年にSLUSH ASIAのプロジェクトが動き出し、以降、毎年東京で開催されており、今年で4回目となる。今回は、6000人の参加者が集まった(主催者発表)。

グローバルな参加者を前提とするので公用語は英語であり、会場のしつらえも若者向き、あたかもロックコンサートのような雰囲気だった。

(Photo; Slush Tokyo/ Petri Anttila)

(Photo; Slush Tokyo/ Petri Anttila)

もう一つの特徴は、運営にボランティアの学生が大きな役割を担っている、という点である。実際、メインのプレゼンテーション会場(DOME)での司会は、流暢な英語を話す東大の学生だった。

(Photo; Slush Tokyo/ Petri Anttila)

(Photo; Slush Tokyo/ Petri Anttila)

壁を破るか? フィンランド発のスタートアップ・イベント「SLUSH」

英語を公用語とすることで、
・世界中から起業家や投資家を集めることができる
・運営に参加する学生も世界の起業家に接することができる
といった点がこのイベントの狙いの一つだろう。

展示、講演の8割程度が海外からの参加者だったようだ。公用語が英語の効果だろう。一方で、プログラムの中に日本のスタートアップ企業、起業家が少ないのは、少し残念であった。

イベントの特徴を2点紹介したい。

一つは、スタートアップ企業が展示しているアイランド型のブースである。

壁を破るか? フィンランド発のスタートアップ・イベント「SLUSH」

筆者が1月に参加したイベント「CyberTech テルアビブのスタートアップパビリオン」同様、スタートアップ企業は、1.5メートル四方くらいのスペースに丸テーブル一つ、と仕切りのカーテンにぶら下げたパネルだけでデモンストレーションをしていた。

この形態は本当にオススメである。日本の展示会で一般的な横並びの最小小間展示だと、2、3人の聴衆が集まれば、机の上や背面のパネルをブロックするような形となり、他の人からは見にくくなるが、このようなアイランド型だと、説明を聞いている人が居ても横から回り込めば展示が見えるし、他の人への説明も一緒に聞きやすい。

もう一つ特筆したいのが、充実したミーティングスペースである。写真のような2階建てミーティングスペースが会場中央に設けられ、多くの参加者がそこで議論していた。

壁を破るか? フィンランド発のスタートアップ・イベント「SLUSH」

これこそがスタートアップに必要なものだろう。シリコンバレーでも、様々なバックグラウンドの人が朝食や昼食のためにカフェに集まり、オープンな議論をする中で、新しいアイデアが生まれてきたはずだ。

このような「場」がイノベーションを生み出す母体となる。日本でも様々な展示会が年中開催されてはいるが、大きな展示ブースの中に企業個別の商談スペースはあっても、オープンなミートアップの場が極めて貧弱である。せいぜい、会場の隅に弁当を食べるためのテーブルがあるくらいではないだろうか。

スポンサー企業が自社の情報を片方向で発信する場としてのイベントと、参加者同士が交流するミートアップの場としてのイベント、そもそも狙いが異なるのかもしれないが、大変貴重な場をSLUSHは提供していると感じた。

講演や展示ブースの内容としては、Block ChainやSharing Economy関連が目についた。ほとんど海外の企業である。

数少ない日本のスタートアップで気になったのは、福岡県のブースの株式会社トルビスオンである。彼らは、「SkyDomainName」という概念を提唱していた。

現在の日本の法律では、300メートル上空までの空中権があるため、空中を通るには地権者の許可が必要となり、ドローンによる宅配等を実用化するためのルート開発が難しい。空中は3次元なので、立方体の頂点8つで定義できるが、各頂点の緯度、経度、高度のデータの管理を容易にするために、インターネットのIPアドレス/ドメインネームのようなコンセプトを提案している。

地主が自分のSkyドメインを持って、それをシェアリングエコノミーのような形で貸与することで、新たなビジネスにつながるのではないか、というアイデアである。ツッコミどころはあるかもしれないが、こういう柔軟な発想が必要であることには間違いない。

イスラエルイノベーション特集でも記事にしたが、イスラエルにはイノベーションを育てるエコシステムがある。それは、産/学/軍が自然に交流できる仕組みであり、国が戦略的にデザインしている。また、頻繁に開催されるイベントも、正にスタートアップ/投資家/大企業が集まり、お互いに交流できるミートアップの場となっている。

日本でも国が支援する産学共同のプロジェクトはあるが、膨大な申請書類を作成しなければならず、またその審査に耐えられる大企業や大学が中心になっている。地方自治体も、起業家育成プログラム等を開発しているが、シェアオフィスやサポート業務提供レベルが多く、イノベーションを生み出す「エコシステム」からは程遠い。

今回、スポンサーの一社であるSAPは、「Business Innovators Network」というコミュニティを告知しており、NOKIAもNokia Innovation Platformという環境を提供し、参加者を募っていた。

壁を破るか? フィンランド発のスタートアップ・イベント「SLUSH」

SLUSHのような場を通して、このような企業の支援などを背景としたスタートアップを育てるエコシステムが日本にも根付くことを期待したい。

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新井 均(あらい・ひとし)

NTT武蔵野電気通信研究所にて液晶デバイス関連の研究開発業務に従事後、外資系メーカー、新規参入通信事業者のマネジメントを歴任し、2007年ネクシム・コミュニケーションズ株式会社代表取締役に就任。2014年にネクシムの株式譲渡後、海外(主にイスラエル)企業の日本市場進出を支援するコンサル業務を開始。MITスローンスクール卒業。日本イスラエル親善協会ビジネス交流委員。E-mail: hitoshi.arai@alum.mit.edu