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イギリスのコロナワクチン接種はDXの成功例

UK's Covit vaccination is DX success

2021.03.17

Updated by Mayumi Tanimoto on March 17, 2021, 07:00 am JST

3月の初めに私は、アストラゼネカの新型コロナウイルス・ワクチンを接種しましたが、イギリス政府のワクチン接種の仕組みは、ほぼ完全にデジタル化されていることが分かりました。

イギリスでの医療というのは、まず国民健康保険を払って家庭医に登録します。最初に家庭医で診断されてから国立病院などの専門医に紹介されます。

家庭医にも専門医にも、全国統一の患者データベースがあって、そこに診療の記録や症状投薬等の全てが記録されています。患者の個人データも細かく記録され家族の病歴等も入っていますから、政府は普段から様々なデータを把握しています。

イギリスはEUは離脱しましたが、EUのGDPRに沿った個人情報保護法がありますから、これらのデータは強力に保護されています。しかしイギリス政府は、公衆衛生や医療行政にこのデータを活用しています。新型コロナのワクチン接種でも、このデータが大活躍です。

オックスフォード大学が開発した「QCovid」というシステムにデータを入力し、重症化しやすい患者、入院確率の高い患者を割り出します。

国立病院が持っている患者のデータを含む七つのデータベースから抽出したデータが入力され、そこに患者の居住地域の人口動態や健康診断のデータなども加えてリスクをはじき出します。ワクチン接種では年齢の他に、リスクが高い患者が優先されます。

接種の通知は、家庭医からの手紙、メールで届くようになっていて、ITが得意な人もスマホがない人もすべてカバーされるようになっています。一部の患者には手紙が来ますが、ほとんどの人への通知は完全にデジタル化されていて紙は介在しません。

通知を受け取ったら、国立病院のサイトにアクセスして、接種する日時や場所を選んで予約します。二度目の接種も同時に可能です。予約確認は、メールか携帯電話のSMSで来ます。サイトを使えない人は電話で予約です。

当日は、接種会場で予約番号、氏名、生年月日、住所を口頭で確認して終了です。身分証明書も予約した国立病院の情報も必要ありません。

接種後の副反応の有無も、国立病院のコロナアプリから報告です。特に細かい症状を報告したい人は、イエローカードというワクチンや薬剤の副反応を報告する国のサイトから報告が可能です。

少数派の人種や国立病院が興味を持った患者の場合は、その後、追加の質問が送られてきたりコロナ検査も受けるようにという通知が来ます。

これらもほとんどデジタル化されていて、自動で行われます。さらに重要な点は、このプロセスがすべて全国統一で、国で中央集権的に行われていることです。自治体毎ではないので無駄がありません。

これまではイギリスの国立病院では、診療予約や予防接種の予約は紙の手紙経由が殆どで、アプリやメールが活用されていませんでした。高齢者やITにアクセスできない人は使いこなせないので、全員一律に手紙にしておこうという方針だったようなのですが、コロナで一気にDX化が進みました。

これを去年の12月に開始し、既に軌道に乗っているというスピードが凄まじい。普段はのんびりしているイギリスもやる気を出すと違います。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。