IoTを強力に推進する地域活性化ゲーム「リージョナルゲート」!~地方版 IoT推進ラボ in 加賀・白山より~
2018.04.27
Updated by 創生する未来 on April 27, 2018, 22:17 pm JST
2018.04.27
Updated by 創生する未来 on April 27, 2018, 22:17 pm JST
先ごろ石川県で開催された「地方版 IoT推進ラボ テーマ別(人材育成)担当者会議 in 加賀・白山」。この会議は、経済産業省が推進する地方版IoT推進ラボの取組みを加速することを目的に、先進事例や現場の実態を把握し、担当者の全国ネットワークを広げるようというものだ。今回は、本会議で行われた人材育成のためのゲーム型ワークショップについて紹介しよう。主催は独立行政法人情報処理推進機構。
今回のゲーム型ワークショップで使われた教材は、以前このサイトで紹介した「リージョナルゲート」をベースにしたものだ。リージョナルゲートは、地域の活性化を目指すリーダーを育成していくゲームだ。
今回のバージョンは、IoT施策を推進する地域リーダー育成のために、アイデアのみならず、社会実装までを視野にいれたアプローチを学べるものに仕上がっている。
講師は前回同様、ホライズンワークス 代表取締役 兼 ブルーウォール 主任研究員の林真人氏と、ツクルの三宅創太氏が担当し、創生する未来の伊嶋謙二氏がオブザーバーとして加わった。
▼リージョナルデートIoT版の発案者、ホライズンワークス 代表取締役 兼 ブルーウォール 主任研究員の林真人氏(写真左)と、ツクルの三宅創太氏(写真右)
前回版(地域活性版)と、今回版(IoT版)の共通点は、相手(必ずしも賛同者とは限らない)に向かって、自身の事業計画のプレゼンを行い、そのアイデアを評価してもらうという基本ルール。もちろんゲームなので、失敗しても実害がないことはメリットだ。一方、大きな違いは、今回版ではアイデアだけでなく、実際にブロックを使って自ら手を動かしながら構想を具現化することだ。
三宅氏は「IoT推進の狙いは、各分野別の投資効果を事業者に説明できること、社会実装する際の事業構造を理解させること、そのための座組(チーム)を作れること。このゲームでは、IoT推進を目指すリーダーと、それに反発する意見の関係から、多くの想定問答のストックが得られます」と説明する。
このゲームは1チーム5人でプレイする。各テーブルに座っている人は、各チームから集まった混成プレイヤーだ。
▼5つのテーブルに分かれたプレイヤー。各プレイヤーは異なるチームのメンバーで混成。ホームベースは別にあり、ここで同じチームメンバーが集まって、ブロックを組み立てる。
ここで自身のアイデアをプレゼンすることになるのだが、その前に各チームごとに割り当てたホームベースへ移り、チームメンバーとIoT事業の役割を決め、アイデアをブロックで具現化していく。
▼ホームベースで作業するチームメンバー。IoT事業を推進するにあたり、どんな領域を担当するのか、それぞれの分担を決め、個人のアイデアをブロックで形にしていく。
一見すると同じテーブルのプレイヤーが同一チームとして、ブロックづくりに参加しても良さそうに思うかもしれない。しかし、そうしないのには明確な理由がある。IoTの事業アイデアを練って、それを評価するプレイヤーを組み替えることで、多くのアイデアを短時間に共有できるからだ。
今回は、5人の各メンバーが、それぞれ自分の事業を説明するためにブロックを組み上げ、成果物をテーブルに持ち寄って、アイデアを他チームのプレイヤーに披露した。これを2回セットほど繰り返すことで、自身のアイデアも含めて、1チームで5×5×2セット=50通りのアイデアをストックできるわけだ。
2巡目のプレゼンでは、経営者(林氏が担当)から、少し意地悪な質問が入るため、それにも応えられるようにしなければならない。いずれにしても、こうやって各人が緊張と集中のなかで絞り出したアイデアから、自治体の課題解決につながるようなアイデアを発見できるはずだ。
ここから、再びゲームの流れを追っていこう。各プレイヤーは、まずホームベースに移り、IoT推進計画の構想を10分間で練る。各人に配布されたゲームシートには、チームごとに自分が推進したい事業領域(一次産業/二次産業/三次産業)と場所(屋内/屋外)、地域活性化計画・実績、プレゼン判定表などが記載されている。
▼各プレイヤーに配布されるゲームシート。自分が推進したいIoTの事業領域と場所を決め、地域活性化計画・実績に具体的な構想を書き込む。プレゼン判定表も後で利用する。
チームに一枚ずつ配布された都市マップを見ながら、具体的に自身が何をしたいのか、重複しないように分担を決めていく。マップには工場、ビル、学校、農場、港、住宅など、各種施設やインフラが描かれているので、担当領域を話し合いで決める。たとえばIoTでスマートアグリを進めたいならば、一次産業の屋内か屋外になるだろう。
▼各チームに配布されるマップ。ゲームシートに描かれたものと同様だが、最終的に自分がつくったIoT事業のブロックと、アイデアに賛同した住民トークンを置く場所になる。
次に10分間で具体的なプランを考える。分担した業界の問題点や課題を整理し、IoTを活用した場合の解決策や効果、想定費用(開発費や人件費)などを加味した事業計画をゲームシートに書き込んでいく。
▼地域活性化計画・実績を具体的に練る。業界と場所、問題、IoTの適用、効果、費用などについて、自分のアイデアを書き込んでいく。ゲームは第1Qと第2Qで2セットぶんを行う。
さらにホームベースに用意された複数のブロックを利用し、自身のIoT事業アイデアを形にする。ブロックは限りがあるので、担当ごとに何を使うのかという点も含めて相談し、ベースやセンサーなど、サイズや色の異なるブロックを自由に組み合わせながら、事業イメージを膨らませていく。
▼地域活性化計画にあわせて、アイデアをブロックで表現し、具体的なイメージを膨らませる。まだ構想が曖昧なモヤモヤ感もあるが、楽しみながら形にしていくことが大事だ。
そして出来上がったブロックを持ち帰り、各テーブルで異なるチームのプレイヤーに向けてプレゼンを行う。2分間という短い時間で、自分がどんな構想を練ったのか、製作したブロックを使ってアピールする。
▼ホームベースから離れ、異なるチームのプレイヤーで構成されるテーブルに着座し、自身のアイデアを披露。2分間で構想をアピールする難しさを実感する方も多いようだった。
実際にプレイヤーが考えたプランの一例は次のとおりだ。「淡路の水産加工業の自動化」(移動ロボットで魚の色や温度を管理。加工作業を自動化して無駄を排除)、「スキー場の人手不足をIoTで解消」(スマホアプリでゲート入場をチェックし、スキー板のレンタルやリフト利用などを事前に把握してリソースを最適化)、「スマート農業デバイスで効率化」(土壌の状態を計測して水分を供給したり、カメラで生育状態を遠隔監視し、ロボットハンドで摘み取りまで行う)といったアイデアなどが飛び出した。
▼実際にプレイヤーが考えたプランの一例。「淡路の水産加工業の自動化」(写真右)、「スキー場の人手不足をIoTで解消」(写真中)、「スマート農業用デバイスで効率化」(写真左)をブロックで表現。
また、このほかにも「宅配弁当を利用した独居老人の見守りシステム」(配達員が弁当回収時に食事量をチェック。さらに非接触式体温計でバイタルデータを収集し、付加価値の高いサービスを提供)、「観光時の自転車シェリングサービスの効率化」(自転車の位置トラッキングにより、自転車返却の効率化)などのアイデアも披露された。
これらのプレゼンを聞いた他チームのプレイヤーは、それぞれゲームシートに記載された5項目(ワクワク度、スマート度、現実的、費用効果、心が動く)をチェックし、5段階の評点と講評を行っていく。
▼プレゼンの評点例。自分以外のプレゼン内容を5つの視点(ワクワク度、スマート度、現実的、費用効果、心が動く)によって、5段階で評価。現実的なアイデアが多かった。
なお、各プレイヤーには、ヒト型をした赤色の住民トークン×1個、緑色の住民トークン×9個が与えられる。最もスマートなアイデアだったプレイヤーには赤色トークンを与え、かなり良いと感じたプレイヤーには緑色トークンを配る。トークンを多く獲得できれば、地域住人の賛同を得られ、IoT推進リーダーの資質が証明されるわけだ。
▼評価が一巡したら、ベストと思われるプレゼン内容のプレイヤーに赤色の住民トークンを、ベターだったプレイヤーに緑色の住民トークンを与える。トークン数=賛同者数になる。
これを第二クォータ分プレイし、各人が製作したブロックと、取得した住民トークンを都市マップ上に配置。最終的に多くの住民トークンを集めたプレイヤーとチームが総合優勝する。このゲームで重要な点は勝敗だけでなく、IoT事業のアイデアが盛り込んまれたスマートシティがマップ上で展開され、各人がアイデアを共有できることだろう。
▼最終的にマップ上には、各プレイヤーによるIoT事業のアイデアが盛り込まれ、スマートシティが完成する。2時間足らずの研修だが、各人が多くの事業アイデアを共有できる。
リージョナルゲートIoT版は、実際に参加すると、かなり難度が高いゲームに感じるかもしれない。というのも普段からIoT事業について、何かしら課題を意識していないと、すぐにアイデアが出てこないからだ。
しかも、それを数分間という短時間で集中的に考え、ゲームシートに内容を記述し、そのイメージをブロックで形にしていく必要がある。プレゼンにしても、初対面の者同士で披露しあうため、人によってはプレッシャーも相当かかるだろう。しかし、そういったことも織り込み済みなのだ。
▼リージョナルゲートIoT版は、最初はかなりプレイヤーに負荷がかかる。従来のぬるま湯状態から緊張感のある場所に引き連れることで、短時間で多くの良いアイデアが生まれる。
「このゲームをプレイすると、普段は自分が居心地のよい馴れ合いのコンフォートゾーンにいることを自覚するでしょう。しかしIoTを推進する際には、従来のぬるま湯状態から脱却し、多少のストレスを感じるラーニングゾーンで学んでもらう必要があります。ただし、ストレスがかかりすぎると生産性が下がるパニックゾーンに陥るため、無理しないことも大切です。ゲームをプレイするうちに互いに親近感が生まれ、よい意味でのコンフォートゾーンに戻り、生産性も高まるでしょう」(林氏)。
リージョナルゲートIoT版は、取っ掛かりで自分の考えがうまくまとまらず、モヤモヤした感情が生まれる。しかしゲームが進むにつれ、問題点や足りない点も次第に理解できるようになるはずだ。また、他チームのプレイヤーと対峙することで、彼らの意見から多くのヒントやアイデアが得られるだろう。
一通りゲームが終わったら、振り返りの時間を設定する。「至るところにIoTが広がるために必要なことは?」といったテーマで、各チームによる議論も行われた。あるチームでは「やはりIoTが普及していくためには、人と資金が大切。人の信頼関係を結ぶことで、まず世の中を便利にしたいという合意形成が生まれる。そのうえで、アイデアを具現化する資金力が求められる」という意見もあった。
リージョナルゲートIoT版は、良い意味でのプレッシャーがかかる。しかし、それゆえに誰もがアイデアを真剣に考え、短時間のうちに具現化する力になっていく。そのプロセスのなかで、互いの意見を謙虚な気持ちで評価しながら、有益な情報も共有できる。ゲームによってコミュニケーションを図り、他者の意見を傾聴しあうことで、自身のリーダーとしての資質を再発見し、能力を高められる優れた教材といえるだろう。
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