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教育から探るイスラエルの強さの秘密(1)

教育から探るイスラエルの強さの秘密(1)ユダヤ教育のシンボル・ヘブライ大学 その1

2018.05.17

Updated by Isaku Aoki on May 17, 2018, 12:10 pm JST

今年は、イスラエルの「エルサレム・ヘブライ大学」の定礎式からちょうど100年目を迎える。また今年は、イスラエルの建国から70年でもある。つまり、イスラエルの国ができる30年前に、既にユダヤ人は大学を建てていたのである。国家の樹立どころか、パレスチナの荒野でしかなかった現在のエルサレムの展望山に、学び舎が建てられたのである。

多くのユダヤ人が未だ自国の再建という考えを持つ以前に、「まず民族の未来に生きるユダヤの若者を教育するための大学を創設」と創始者の一人であるヘルマン・ツヴィ・シャピラ教授は考えていたのである。

シャピラ教授は、大学設立の案を1897年にのスイスのバーゼルで開催された「第1回 シオニスト会議」で発表した。その呼びかけに呼応して、後の初代イスラエル大統領であるハイム・ヴァイツマン博士がイスラエルの地における高等教育の可能性についての調査機関をジュネーブに設置したのが1901年のことである。そして、第一次世界大戦が直前に迫った1914年、エルサレムの展望山の頂に大学建設のための土地を購入したのである。

ヴァイツマン博士やアルベルト・アインシュタイン博士は、大学建設のための資金集めに奔走した。その甲斐あって、今から100年前に定礎式が行われ、1925年にヘブライ大学がエルサレムの展望山に開校したのである。

教育から探るイスラエルの強さの秘密(1)

旧約聖書の原文であり、1900年前にイスラエルが滅亡する前に話されていたユダヤ民族の言語ヘブライ語(Hebrew)で、教え、学ぶ大学ということから「The Hebrew University of Jerusalem」と名づけられた。

19世紀、国を追われてロシアなど東欧諸国に生きる場所を求めていたユダヤ人たちは、家を焼かれ、財産を奪われ、すべてを剥ぎ取られて虐殺された。この「ポグロム」の嵐が吹き荒れる中、よそ者は大学での学びの機会すら与えられていなかった。

しかし、聖書を読み続け、安息日を守り続けたユダヤ人たちには、元々家庭の中に学びの場があり、それは誰も奪うことのできないものであった。そして「イスラエル国家の再建」という、聖書の預言者たちの励ましの言葉は、散らされた民族の中に留まり続けていたのである。やがてそれは国家の再建前に、ユダヤの若者たちのために学びの道を拓いた。

100年前の大学創建当時、約2000年前の古代に滅亡した国の再建など、ユダヤ人ですら想像することもできなかった幻は、「教育によって与えられる知識こそが、最大の財産である」という民族の精神によって実現されたと言っても過言ではないのである。

当初、ヘブライ大学は「聖書と知恵と実学のためのユダヤ立法学院」として、聖書神学と人文学そして自然科学を教えるべきであるとの考えに基づいて建てられ、実際、人文学部と自然科学部をもって開校された。現在、特に医学や人文科学、自然科学においては国際的な主要研究機関と位置付けられており、世界的にその学術研究が応用されている。例えば、農業分野では砂漠の緑地化などに長年取り組んでおり、農業大国イスラエルとしての基盤をつくったと言える。

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青木 偉作(あおき・いさく)

エルサレム・ヘブライ大学社会学部政治学科卒。日本経済新聞社記事審査部スタッフを経て、現在、大阪大学・ユダヤ文化研究会ヘブライ語講師。主な訳書・著書に『ハマスの息子』(幻冬舎)、『ユダヤ人に学ぶ日本の品格』(PHP)、『ユダヤ人の勉強法』(中経出版)、『まずはこれだけヘブライ語』(国際語学社)等がある。