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「スタートアップネーションとしてのイスラエル」との付き合い方

2018.06.29

Updated by WirelessWire News編集部 on June 29, 2018, 10:39 am JST

6月14日、幕張メッセで開催されたINTEROP Tokyo 2018のカンファレンス・プログラムには「『スタートアップネーション:イスラエル』との付き合い方」というタイトルのセッションがあった。

同日には、シリコンバレーのスタートアップとの上手な付き合い方をテーマとしたセッションもあり、オープン・イノベーションが一つのトレンドとなる中で、外部の力を上手く活用するためのヒントを経験者に学ぶことが両セッション狙いだったと言えるだろう。

イスラエルの方は、本特集の執筆者の一人でもあるグローバルブリッジ代表の新井均氏がモデレータとなり、イントロとして問題提起した後、ビジネスでイスラエルと深く関わっている次の3名がスピーカーとして登壇した。

株式会社東陽テクニカ セキュリティ&ラボカンパニー プレジデント 櫻井俊郎氏
Aniwo CEO 寺田彼日氏
株式会社インターネット総合研究所 代表取締役 藤原洋氏

「スタートアップネーションとしてのイスラエル」との付き合い方

まず、東陽テクニカの櫻井氏が登壇した。東陽テクニカでは、有望商品の発掘を目的にほぼ四半期に1度、目利きの社員をイスラエルに送っている。しかし、イスラエルでは年間1000社近いスタートアップが生まれるということで、とても自分達だけで追いかけることは不可能。そこで、現地のコンサルタントとも契約し、次々に登場するサイバーセキュリティ関連の有望な技術・商品を評価しているという。

櫻井氏によれば、イスラエルのスタートアップの製品は、個々には尖ったものが多いのは事実であるものの、日本の顧客は(中小企業に限らず、大企業も含めて)個別のツールというよりはトータルソリューションを期待する。セキュリティエンジニアの数が絶対的に不足している現状では、これは当然のニーズかもしれない。

これに対して東陽テクニカでは、独自のクラウド上に発掘してきたイスラエル発サービスを統合し、クラウドサービスのメニューとして提供している。

▼複数のサービスをクラウド上に統合した「スタートアップネーションとしてのイスラエル」との付き合い方

現在は「Indegy」という産業インフラ向けの監視・対策ツールと「IntSight」という脅威インテリジェンス・サービスを統合している。今後もメニューを増やしてゆく計画だ。

「スタートアップネーションとしてのイスラエル」との付き合い方

次に登壇したのは、Aniwoの寺田氏。寺田氏は、学生時代に「SART-UP NATION」という本から刺激を受けてイスラエルに興味を持ち、かつトルコに留学した際に日本企業のグローバルプレゼンスが低下していることを実感して、自ら起業を志すようになったという。4年前からテルアビブに拠点を移し、現地でスタートアップと投資家・事業会社とをつなぐ役割を果たそうとしている。

いくらインターネットで情報が入手できるとはいえ、中東・イスラエルはやはり遠い。現地に行って初めて分かることもたくさんある。

寺田氏(今回、INTEROPのためにテルアビブから一時帰国)は、その肌感覚を大切にするために自ら現地に住み、自分の目と耳とで確認しながら、現地スタートアップと日本の投資家や事業会社をつなぐプラットフォームを構築している。

▼イスラエルのスタートアップエコシステム「スタートアップネーションとしてのイスラエル」との付き合い方

AI、ブロックチェーン、ヘルスケアなど、様々な具体的事例を紹介する中で「イスラエルとの付き合い方」として聴衆に提示されたポイントは、

1. インナーサークルを利用する
2. リーンに実証を繰り返す
3. バリュープロポジションを明確にする

の3点である。

1点目は、やはり文化・習慣等様々な違いを乗り越えるために、現地のリソースを活用することが有効、という指摘である。その重要性を理解して、寺田氏自ら「中の人」になるべく飛び込んで行った。それが、多くのイスラエル人や企業からの信頼を得ることにつながっているという。

2点目は、スピードである。日本企業にありがちな勉強モード・調査ではなかなか価値につながらないので、「まずやってみる」という姿勢を持つことの重要性を指摘された。PoC(Proof of Concept)を進めることで見えてくることも多く、Ainwoが勧める標準的なプロセスも紹介された。

3点目は、日本企業としてスタートアップにどのような価値を提供できるのか、という点の明確化である。イスラエルには、世界中のグローバル企業が投資、協業、開発を目的に押し寄せている。そんな中で、自分達が日本企業として何を目的に、どんな価値提供ができるかを明確にしないと、Win-Winの関係は築けないという指摘である。

最後にインターネット総合研究所(IRI)の藤原氏である。藤原氏は昨年、イスラエル工科大学(テクニオン)にサイバーセキュリティの共同研究開発拠点をオープンし、まさに寺田氏が指摘する「インナーサークル」のど真ん中に入っている日本人の一人である。

イスラエルのMITといわれるほど優秀なテクニオンのメンバーと共同研究を進める、ということは、さまざまな興味深い情報が入ってくることを意味する。IRIグループ内にはベンチャーキャピタル(VC)もあり気がついたら投資先の半分以上はイスラエルになっていたという。

テクニオンはハイファというイスラエル北部の都市にあり、そこにはフィリップスをはじめ多くのグローバル企業が集まっている。藤原氏は、これらテクニオン周辺に集まっている企業によるいくつかのイノベーション事例も紹介した。

▼テクニオンの周辺に集まるハイテク企業「スタートアップネーションとしてのイスラエル」との付き合い方

藤原氏によれば、オープンイノベーションとしてイスラエルスタートアップと付き合う場合、企業は15%負担すればよいのだという。残り85%は政府が負担してくれるのだ。このようなエコシステムがあるからこそ、世界中から投資家や企業が集まるのだろう。

本セッションへの参加者はあまり多くはなかったが、具体的にイスラエルでのパートナー探しを考えている方からの「方法論」に関する質問などもあり、「インナーサークル」に居る3人のスピーカーの話は刺激的だったようだ。

※写真提供:ナノオプト・メディア

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