中小企業の働き方改革、ITツールと行政支援でできること~「IoT/RPA 働き方改革で創る、地域社会の未来のためのセミナー」レポート2
2018.07.07
Updated by Takeo Inoue on July 7, 2018, 15:20 pm JST
2018.07.07
Updated by Takeo Inoue on July 7, 2018, 15:20 pm JST
先ごろ「創生する未来」の主催により、TKPガーデンシティ仙台で開催された「IoT/RPA 働き方改革で創る、地域社会の未来のためのセミナー」。スペシャルトークセッションでは、働き方改革を踏まえた中小企業政策を推進する経済産業省の津脇慈子氏と、ITベンダー側として長年にわたり基幹システムのプロモーションに携わってきたOSKの石井ふみ子氏が、ITやIoTの導入による中小企業の働き方改革を本音で語り合った。
▼「IoT/RPA 働き方改革で創る、地域社会の未来のためのセミナー」。スペシャルトークセッションの模様。
まず司会を務めた「創生する未来」の伊嶋謙二氏が、「世の中には中小企業の働き方改革を支援する多くのITツールがあります。ツールを活用した成功事例を教えてください」と、経産省の津脇氏に訊ねた。
▼「創生する未来」の代表理事 伊嶋謙二氏
「兵庫県で保育所を経営するA事業者は、保育記録や職員の業務管理をIT化することで、保育士の帳票作成の負担を月220分も軽減しました。長野県の製粉会社Bは、自社Webにプロモーション機能を追加し、売上を1.5倍に上げました。鳥取で運送業を営むC商店は、車両管理や経費・運賃請求をIT化したり、配車パターンを変更し、運転手の1日の勤務時間を1時間も減らしました」(津脇氏)。
これらの事例は、政府の施策であるIT導入補助金を活用したものだ。予約、顧客管理、会計・財務、人事管理などを中心にITツールが導入され、一人当たりの作業時間を相当短縮できることが分かったという。
▼経済産業省 中手企業庁 経営支援本部 課長補佐 津脇慈子氏
これを受けて、伊嶋氏は「ベンダーの立場から、企業がITツールを導入して成功する要因も教えてください」と、OSKの石井ふみ子氏に話を振った。
▼OSK 取締役 兼 上席執行役員 石井ふみ子氏
「関東圏のある食料品製造業を継いだ2代目が、B2BからB2Cへの転換を機に、OSK製品を使って業務改革に取り組みました。新規ビジネスへの決断力だけでなく、IT業界に明るいコンサルタントが身近にいて、よいアドバイスを受けられた点が成功の要因だと思います。いま同社は、休眠の畑をまとめた農業法人を設立するほど、順風に成長しています」(石井氏)。
津脇氏は「まさに経産省としても、そういう事例を増やしたいところです。中小企業の改革には社長の意識と、その経営を支えてくれる人が身近にいることが重要です。ツールの導入だけでなく、人による支援も進めなければいけないと考えています」と語り、石井氏に成功企業の特徴について問いかけた。
「トップ側の意識はもちろん、ボトムアップで参加意識を持つ企業が成功します。上からも下からも、自分たちがどんな改革をしたいのか、意思疎通ができないと改革は進みません。合意形成ができたうえで、私どもがサポートすることが大切です」(石井氏)。
両者の議論を傾聴していた伊嶋氏は、「ベンダーにとって、コンサルタントやIT指導員のような立場の存在は重要ですか?」と、人による支援の必要性を確認した。
石井氏は「コンサルタントに近い人の役割は重要だと思います。ベンダー側では、中小企業に業務課題の洗い出しなどを懇切丁寧に支援できません。そのため、そういった人材を国が育成してくれることは大変有り難い話だと思います」と歓迎の意向を示した。
「いま経産省では、ITベンダーの認定制度を整備し、身近な経営を支える人と連携する仕組みを構築中です。中小企業では、会社の方向性を決め、全体像を上手に描くことが重要です。モノやシステムの導入と同時に、サポート側の育成も必要です」(津脇氏)。
そこで伊嶋氏は「経営について具体的に相談できる人材を、企業側はどのように探していけばよいのでしょう?」と両氏に訊ねた。
「何が最も自社に最適解なのかも分からないという声をよく聞きます。国は各県に“よろず支援拠点”を設けていますが、商工会議所や金融機関も相談に乗ってくれます。“こんなに支援してくれるとは知らなかった!”という話もあるため、支援機関の見える化によって、理解しやすい仕組みを作らねば、と感じています。それとIT化をセットで進めることが大切になります」(津脇氏)。
「そういうスキームが増えると、多くの中小企業は助かりますね。いまは誰に、どこまで自社情報を開示すればよいのかも分かりません。私は500社ほどの企業導入を見てきましたが、外部に胸襟を開けずに、自分達が本当にやりたいことを伝えづらい気持ちも分かりました。それらを支援する方々がいると、達成したいことを、ITベンダーと一緒に協力して構築できるでしょう」(石井氏)。
次に伊嶋氏は、政府の「IT導入補助金」の活用の方法についての紹介を促した。
「これは、一社あたり上限50万円で、ソフトウェアを中心に導入の登録をしてもらい、ベンダー経由で補助金を申請して支払いができる制度です。ベンダーの販促ツールとして使っていただけますが、特に事業者に負担なくIT導入を進めてもらう考え方で進めています。昨年は100億円の予算でしたが、今年は500億円に予算がアップしましたので、ぜひご利用いただきたいです」(津脇氏)。
▼IT補助金制度の概要。一社あたり上限50万円。ハードウェアは対象外。ベンダー経由で補助金の申請をして支払いができる制度。
「ベンダーにも嬉しい制度ですが、制度を知る企業はまだ5社に1社ほどで、浸透していないようです。私たちベンダー側は、翌年に効果を報告する必要があります。担当者が配置転換し、お客様をずっと追えないこともあります。もし本腰を入れるなら、ベンダー内に補助金推進室のような組織を置き、企業をフォローする体制が必要です」(石井氏)。
「確かにベンダーの負担は重いと思います。これから政府がデジタルガバメントを進める過程で、中小企業支援のプラットフォームも構築する予定です。そこで基本情報を1回だけ入力して申請書を出力できるワンスオンリーの仕組みを検討中です。行政手続きの簡素化も進めたいと思います」(津脇氏)。
「こういった政府のバックアップ体制と後押しによって、中小企業が活性化することに大いに期待したいです。せっかくの制度ですから有効に活用したいですね」(石井氏)。
さらに伊嶋氏は「働き方改革を推進するうえで語られるようになった“IoT”というキーワードについて、身近な事例を教えて下さい」と、石井氏に訊ねた。
「私どもOSKの基幹業務システムSMILEを活用したお客様の生産管理システムの事例があります。OSKの親会社(大塚商会)では、現場の工場長をスカウトし、IoT導入のコンサルティングをしています。原価を1円分安く抑えても効果があるケースと、効果がないケースもあります。その企業内部にコンサルタントが深く入り、適材適所での導入と適正な投資を見極めないと、なかなかIoTの効果は出しづらいという現実がありますね」(石井氏)。
▼OSKの顧客によるIoT導入事例。IoT実績収集システム。PLCや各種センサー、タッチパネルなどから情報を統合し、設備の稼働率や実績などをモニタリング。
この点について津脇氏も、「確かにその通りです。IoTでは“つなぐこと”の難しさが課題です。さらに現場とシステムの相性も企業によって異なってきます。頑張って導入しても、現場でシナジーが出ないという声を聞くことも多いのです。どこまで最適化させるかという問題は極めて難しく、コストがかかり、導入のハードルが高いことも事実です。だからこそ、必ず成果を出すために、全体像を描けることが大事でしょう」と同意する。
「私どものお客様で導入に成功した理由は、すぐに結果を求めずに、5年サイクルで3回ぐらいに分けて計画していることです。その分ける勘どころは、やはり製造現場にいた人でないと分かりません。解決したい10個の課題があったとして、一度に進めるのではなくて、最初は2つ、2回目は4つ、最後に残りを手がけるという具合に、現場を理解する人と一歩一歩ずつ、上手く進めることがポイントになると思います」(石井氏)。
別セッションでは、今回のトークで話題に上がったIT補助金制度を活用できるOSK、日本電気、コクヨ、サイボウズのツールも紹介された。
前出のセッションに登壇した石井氏のOSKでは、同社の基幹パッケージ「SMILE V」に統合されたコミュニケーション機能として、伝言板の活用や、業務予定のルーチン作業を自動実行するRPA機能などを解説。また製造業におけるIoT×生産管理システムとして、生産管理システム「Ryu-jin」によるIoT実績収集の事例も披露した。
▼OSKの基幹業務システム「SMILE V」。伝言板や業務予定等、円滑なコミュニケーションや業務の自動化を支援する機能により、業務効率向上を実現する。
https://www.kk-osk.co.jp/smile/
NEC(日本電気)は、自身が進めてきたICTを活用した働き方改革の施策について披露。スピーディな情報共有やオフィスのスリム化とサテライト化、テレワークの有効性検証、業務の見える化と定型業務の自動化(RPA、AIの活用)について説明した。また、人手不足と長時間労働の課題を解決する具体的なソリューションも紹介した。
▼日本電気の働き方改革ソリューション。働き方の見える化、テレワーク。コミュニケーション会議効率化、定型業務効率化に関わるツールをそろえている。
https://jpn.nec.com/solution/workstyle/index.html
コクヨは、業務システムと企業間取引支援クラウドサービスの連携で実現する働き方改革を紹介。特に非EDI化のタスクに焦点をあて、請求書などの帳票類を、電子化することで作業負荷とコストを低減することを提案。その際に「いつ、だれが、何を、誰に」送って、それを相手が受け取ったことを記録する重要性と強調。第三者的に証跡を記録・証明し、企業間取引を支援するクラウドサービス「@Tovas」について説明した。
▼コクヨの「@Tovas」の仕組み。請求書などを電子化し、セキュリティを担保しながら相手側に合わせて自動送信が行える。郵送の手間や紙のコストなどを削減できる。
http://www.attovas.com/
サイボウズは、「働き方改革」よりも「働き方の多様化」という観点から、100人・100通りの人事制度があってよいという考えを示した。6年間の育児休暇や副業(複業)、給与制度の改定も実施。これらにより離職率は4%に低下し、売上もアップ。ツール面ではリアルとバーチャルのオフィスを同時並行で使い、どちらに出勤しても仕事が行える環境を整備。同社の「kintone」で、タスクリスト作成や、会議の議題を事前共有したり、効率的な働き方を推進できるという。
▼サイボウズの「kintone」を利用し、タスクリスト作成してメンバー同士で情報を共有することで、タスクの属人化を排除。
https://kintone.cybozu.co.jp/jp/
OSK、NEC、コクヨ、サイボウズ各社の働き方改革への取り組みとソリューションの概要をまとめた当日の資料は、こちらからダウンロードできる。IT導入補助金も活用できる、働き方改革を後押しするツール、この機会に検討してみてはどうだろう。
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登録はこちら東京電機大学工学部卒業。産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、株式会社アスキー入社。週刊アスキー編集部、副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにIT、ネットワーク、エンタープライズ、ロボット分野を中心に、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書は「災害とロボット」(オーム社)、「キカイはどこまで人の代わりができるか?」(SBクリエイティブ)などがある。