名古屋を主拠点に自動車関連を中心としたIT技術を提供するAZAPA株式会社が、イスラエルから11社のスタートアップを招き、東京で「イスラエル モビリティースタートアップセミナー」を開催した。新たなモビリティー・サービス創出のためのプラットフォームを目指す「一般社団法人オートモーティブ・ブロックチェーン・コンソーシアム」の8月1日に設立に合わせたイベントであった。
当日登壇したイスラエルのスタートアップ11社は、それぞれ独自性のあるサービス・商品を開発している。その概要を以下に紹介する。
MaaS(Mobility as a Sevice)として、自動車利用の需要と供給のギャップを埋めるプラットフォーム。ある調査によれば、UberやLyftのような配車サービスを使う人は年々増えてきているが、その30%の需要は満たされていない。一方で、車の供給側には大きなプレーヤーとしてレンタカー業界があるが、在庫車の20%は利用されていないという。
Autofleetは、その利用されていない車と配車サービスなどの大きなニーズをマッチングし、VaaS(Vehicle as a Service)プラットフォームを提供するサービスである。2018年3月に200万ドルを調達、2018年中に米国と欧州でサービスを提供する予定だという。
消費者(利用者)は、Uberなどの既存の配車サービスを利用してオーダーする。Autofleetは利用されていない車と利用者のオーダーをマッチングする。
将来、自動運転車が普及してきたときには、従来の車を置き換えてサービスをすることを考えている。また、機械学習により、天候等の条件も含めて将来需要を予測する。ドライバー向けのアプリケーションでは、最適ルートの表示や自動車の情報を取得できるようにしている。
自動運転に向けた多くの技術革新は、現在のところ主に自動車側で実現されており、インフラ側での革新が遅れている。NoTraficは、そのインフラ向けのソリューションを提供する。交差点にCPUを搭載したセンサーを設置し、AIアルゴリズムとリアルタイムのデータ活用で交差点の交通を最適化する。渋滞の40%以上の緩和と事故の減少を狙っている。システムはプラグ&プレイで機能し、交差点への設置は1時間あれば可能だという。
クラウドベースのコントロール・センターが各交差点をつなぐことも可能で、各交差点が連携して渋滞を緩和することが可能になる。都市インフラが交通課題をリアルタイムで検知・解決する、というスマートシティの実現を目指している。
イスラエルでは既に実装済でもある。米国でもオハイオやアリゾナなど、複数の場所で有償のパイロット・プロジェクトが立ち上がっている。
スマートモビリティでは、屋内外での正確な位置情報を取得する技術が求められるが、既存のGPSは速度が遅く、都会の高層ビルの谷間(アーバンキャニオン)ではカバレッジが限られることもある。また、屋内では使えないという問題もある。
DEEYOOKは、既存のワイヤレスインフラ(LTE基地局やWi-Fiベースステーション)を利用して位置情報を取得する新しいソリューションを提供する。具体的には、インターフェロメトリーという物理法則を活用し、基地局のアンテナから発射される電波の発射角度をセンサーで測定することで、10センチの精度で位置情報を取得する。2017年に米国で2件の特許を取得している。
携帯、スマートホンに搭載できるAIエンジンを開発。このエンジンは、様々なセンサーを利用して、携帯端末の持ち主が「今どこで何をしているのか」を把握することができ、次に何をするかの予測もできる。
運転しているのか、乗客なのか、どこへ向かっているのか、といった様々な情報が取得できるため、ドライバーの行動パターンに応じたサービスを提供するためのツールとなる。例えば保険やいつ自動車を販売すべきかといったディーラーへのアドバイスなど、様々な応用が考えられる。現在は、自動車メーカー、保険会社、小売業、銀行の4分野でサービスを提供している。
収集したデータは端末内に保存される。クラウドには転送されないため、プライバシーや電源の管理面からもメリットがある。
ANAGOGは2010年に設立され、ダイムラー、シュコダなど多くの企業からの投資を得ている。20の特許を持ち、2500万台の携帯端末に既に搭載されている。
深層学習に最適化したニューラルネット・プロセッサを開発している。現在、深層学習を行うにはそれなりのプロセッサパワーが必要であり、全てデータセンターの中で実行されている。
しかし、あらゆる分野・産業がインテリジェンスを必要としており、今後はエッジデバイスで深層学習をするニーズが出てくるはずである。既存の汎用プロセッサは深層学習向けには設計されていないため、HAILOは深層学習に特化したプロセッサを開発した。
開発したHailo-8は、全く新しいニューラルネットワークに特化したアーキテクチャにより、NVIDIA TitanX比で4倍の性能を実現した。消費電力も少ない。様々な業界のトップパートナーにαバージョンを評価してもらっており、2019年の第1四半期にはサンプル出荷できる予定だという。
自動運転の時代が来ることは間違いないが、そのときには乗客のデータを正確にセンシングすることが必須となる。例えば、ドライバーの疲労度を測ることが、2020年のユーロNCAPで求められる。また、自動走行車の場合、乗客に万が一異変が起こったときに、誰がそれを察知して助けるのか、という注意義務問題もある。
既存技術では、カメラの利用はプライバシーに抵触するし、レーダーは正確性に課題がある。LiDAR(レーザー検出と測距)は正確だが湿気に弱く常にクリーニングする必要がある、などどれも不十分であるため、Neteeraはレーダーとレーザーの中間的なソリューションを開発した。
プライバシーを保護し、振動のある環境でも正確にデータを読み取れるなど信頼性と安全性を実現した。2019年半ばには車に搭載可能な状態にすべく開発中である。
車両衝突が発生したときに、リアルタイムで車内の人の負傷状況や車の様々な情報を取得し救急医療を支援する、クラウドベースのソフトウエアを開発した。
開発の背景には、交通事故による死亡の大半は、事故そのものよりも、その後誤った医療施設に搬送されることで治療が遅れたり、適切な治療を受けられなかったことによる、というデータがある。
具体的には、既存のセンサーや通信技術を利用し、事故の際に負傷者にかかる「力」を測定し、生体力学的な観点からのレポートを作成する。現在このサービスを利用している登録車は25万台あり、事故発生から7.5秒以内にレポート・データを救急車や医療機関等に送付している。
コネクテッド・カーから常にデータを取得しているので、事故の際に車両に何が起こったか、人に何が起こったかを即座に把握することが可能であり、AIのエンジンを使ってリアルタイムにデータ処理を行う。
車と医療をつなぎ、緊急時・非緊急時にかかわらず、新たな価値を創造することを目指している。
短波長赤外線を利用したイメージセンサーを開発している。車の自動走行を実現するための課題の一つは、あらゆる天候条件や明るさの条件で視認性を確保することである。レーダーやレーザー、あるいはカメラを使う既存の技術はどれも十分ではなく、有名なテスラの事故も太陽光が強すぎたためと言われている。
Trieyeは、SWIR(短波長赤外線)を利用した新しいセンサーを開発した。この技術は既に存在するものであるが、高コストであるため主に宇宙や軍需などのコストを度外視できる領域で利用されてきた。Trieyeは、特許取得したCMOS技術でこのコストを1/1000にまで低減することを目指している。
これにより、コスト要求条件の厳しい車でも、夜間、粉じんの多い環境等で視認性を確保することができるようになり、安全な自動走行の実現を後押しする。2019年にデモ機器を製造する予定だという。
イスラエルのeyesightは、カメラと画像認識で1メートルから5メートル先の「動きを検出する」技術を開発した。
2005年に会社を設立し、社員は55名、21の特許を取得している。様々な企業と協力することで、多様な応用を実現している。当初は、韓国のLGや東芝のタブレットにインストールされ、例えばレシピを見ながら料理をする場合に、タブレットに手を触れずにページを送るようなアプリからスタートした。
車への応用例では、車内のドライバーをモニターすることで、操作パネルのジェスチャーによるコントロールを実現した。また、ドライバーの視線やまぶたをモニターすることで居眠りなどを警告するような応用も検討されている。
同様に、TVやセットトップ・ボックスにカメラを付けて視聴者数を測定するなどにも利用された。人数だけではなく、性別や年齢層なども認識し、CMになったら誰が離れたかというようなデータも測定することができる。スマートホームへの応用も検討されている。
MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)ミラー技術を用いた高性能なソリッドステートLiDARを開発した。会社の設立は2年半前だが、既に170人の従業員がいる。
既にInnovizOneという製品のBMWへの採用が決まっており、2021年から搭載される予定だ。R&D用に開発したInnovizProと比較して、視野で2倍、解像度は10倍を実現している。InnovizProはイスラエルのハイファで生産しているが、InnovizOneは中国に生産拠点を作った。
他のLiDARシステムとのクロストークも考慮することで、将来に渡る市場性に配慮している。コンピュータビジョンとの組み合わせ、状況認識(シーンマッピング)による障害物などの対象検知も実現した。サムソンなど4社のTier1企業とのパートナーシップも決まっている。
車の内部で様々な機器・部品がネットワーク(CANBUS)でつながっているが、送信元が正しい相手かどうかという「認証」技術は実現されていない。CipherSipは、車載ネットワークの通信容量を拡張し、ウオーターマーク(透かし)の特許技術で送信者識別を実現した。
オリジナルのメッセージ(プロトコル、データサイズ、タイミングなど)に影響を与えることなく、認証技術を組み込むことでデータを保護し、コネクテッドカーの時代になっても車がハッキングされるリスクを低減することができる。
これにより、OTA(Over The Air)によるソフトウエア・アップデート、キー・マネジメントなどがセキュリティを担保した形で実現できるようになる。クラウドベースのWEBダッシュボードも製品化した。
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登録はこちらNTT武蔵野電気通信研究所にて液晶デバイス関連の研究開発業務に従事後、外資系メーカー、新規参入通信事業者のマネジメントを歴任し、2007年ネクシム・コミュニケーションズ株式会社代表取締役に就任。2014年にネクシムの株式譲渡後、海外(主にイスラエル)企業の日本市場進出を支援するコンサル業務を開始。MITスローンスクール卒業。日本イスラエル親善協会ビジネス交流委員。E-mail: hitoshi.arai@alum.mit.edu