「第2回仙北インパクトチャレンジ」の模様。前回よりも規模が拡大し、出展社も計23社・16ブースに上った。
ドローン、IoT、AI、ICT 秋田・仙北市に可能性を見出した先進メーカー -「第2回仙北インパクトチャレンジ」より(後編)
2019.01.29
Updated by Takeo Inoue on January 29, 2019, 19:15 pm JST
「第2回仙北インパクトチャレンジ」の模様。前回よりも規模が拡大し、出展社も計23社・16ブースに上った。
2019.01.29
Updated by Takeo Inoue on January 29, 2019, 19:15 pm JST
仙北市のあきた芸術村にて開催された産官学連携の地域イベント「第2回仙北インパクトチャレンジ」が開催された。今回は、近未来技術実証特区である仙北市を起点に、秋田から全国へ波及する事業創造を目指す計23社・16ブースの出展や特別講演、各社プレゼンテーションなどが行われた。主催は仙北インパクトチャレンジ実行委員会(実行委員長伊嶋謙二)。後編では、仙北インパクトチャレンジに参加したドローン、IoT、AI、ICTの先進メーカーや官学の出展ブースやプレゼンの内容を中心に紹介しよう。
【東光鉄工】
大舘市で産業用ドローンを開発・製造している東光鉄工(UAV事業部)は、仙北市と近未来技術でパートナー連携を締結し、ドローンを中心とした技術支援を行っている。同事業部は、農林水産航空協会の認定を取得した農業用ドローンを提供。ブースで展示されていたのは、年頭に発表した大型ドローンだ。本展示では、同社のドローンの販社である田沢モータースも出展していた。
現時点で国内最大となる10リットルの農薬を積み、1.25ヘクタールに農薬を約12分で散布できる。散布時のドローン操縦を容易にするために、速度リミッタと左右に振らつかないラダーロック、さらに前進時に液剤を自動散布する機能も標準で装備。ほかにもプロポにタブレットを取り付け、自動航行のルートを簡単に設定できるオプションも用意した。
プレゼンでは、容量16リットルで2ヘクタールを10分で散布できる新型ドローンも発表した。容量も性能もアップしたうえに、価格を抑えた新型機は来年発売される予定だ。農業用ドローンの新しい活用法として注目を浴びているのが、昨年チャレンジした果実の受粉作業。リンゴやさくらんぼの開花にあわせ、ドローンで受粉液を散布することで、高確率で結実させるアイデアだ。昨年は40%の成功率だったが、今年は50%を目指し、見事に成功したという。
もう1つ注目されているのが、災害時やレスキューで活躍する多目的防災ドローンだ。従来のドローンは、災害後に調査するものだったが、本ドローンは災害や事故が起こる前に出動し、豪雨や強風のなかでも偵察活動が可能だ。たとえば秒速10m(時速60㎞)でもホバリングが行え、IPレベル5の防水性能を有する。エンジンで動くため、2時間の長時間稼働が可能だ。
【秋田ケーブルテレビ】
1997年に開設した秋田ケーブルテレビは、秋田市内を中心に約4万7000世帯の契約数を有する地元密着型のテレビ局だ。放送、インターネット、TV電話、モバイルなどを中心にサービスを行っている。昨年度、仙北市が主催した国際空撮映像コンテスト「仙北インターナショナル ドローン フィルムフェスティバル」(https://www.youtube.com/watch?v=qMgFEUriBVE)の企画・運営を任され、ドローン分野の事業も手掛けるようになった。
今夏はドローン専門ショップを秋田市内にオープン。「ドローンの聖地、仙北市」を目指し、成熟期に入ったドローンを活用し、新産業の創出を目指す。特に映像は放送事業者の強みを発揮できる分野だ。ドローンフィルムフェスティバルを継続して開催することで、秋田の魅力と仙北市のブランド力を高めていく方針だ。
次回のフェスティバルは、来年3月21日に、あきた芸術村で開催する。空撮映像コンテストを軸に、ドローンレースや、技術発表、展示なども行われるという。ドローンの第一人者であるハウステンボス取締役 CTOの富田直美氏による基調講演や、アイドルグループのユニットの参加なども予定されている。
【Kira Kira Display by Team Akita】
Kira Kira Display(以下、Kira2D)は、秋田の先端企業が集まったTeam Akitaが開発した画期的なディスプレイシステムのデモを行った。イベント会場などで、観客が持つスマートフォンをドットに見立て、全体で1つの巨大ディスプレイを作り出し、会場を包み込む動画演出や、メッセージなどの巨大文字を表示。プロジェクションマッピングやイベントとシンクロしたインタラクティブなエフェクトが可能だ。
IoTへの応用として、センサーを取り付けたスティックを演者が振ると、ステージの光がオンオフするインタフラクションも実現できる。ドローンにKira2Dを取り付ければ、空から文字を描く演出も行えるだろう。将来的には数万台のスマホを同期させ、光と音による多彩な演出を実現したいという。
さらにKira2Dは、コンサート会場での情報提供や、スポーツ選手や試合の情報、eチケットや会員システムと連動したビッグデータ管理も可能だ。観客に情報をプッシュ配信できることから、演劇などで翻訳したセリフをインバウンドに送るアイデアもあるそうだ。
【わらび座・玉川大学 小酒井研究室】
イベント会場である「あきた芸術村」は、オリジナルミュージカルの公演を年間800回も行っているが、実はデジタル技術にも強い。わらび座の一部門にデジタルアートファクトリー(DAF)があり、ここでデジタルコンテンツの制作や、通信関連技術も扱っている。また民族芸能の音声・映像をデータベース化したり、モーションキャプチャーによる3D映像の研究にも熱心だ。ブースでは、玉川大学 小酒井研究室と連携したプロジェクションマッピングのビデオなどを放映。
【日本電気】
日本電気は、IoTやAIを活用したDX(デジタルトランスフォーメーション)やコト創りのソリューションについて紹介。たとえば「顔認証ソリューション for オフィス」は、定評のある顔認証技術を活用し、オフィス業務をまるごと認証させるものだ。ビル入館、部屋の入退室、PCログオン、プリント出力、自動販売機の決済などを、顔で認証させ、管理と利便性を両立。顔情報はクラウドで共有し、他システムとの連携も可能だ。
また「置くだけでIoT for FC」も紹介。現場の古い設備に、タワーライト、スイッチ、温度センサ、エッジゲートウェイ、FC(ファクトリーコントローラ)を置き、情報を容易に取集できるIoTソリューションだ。センサー類が電源レスかつ配線レスで運用できることが特徴だ。スイッチを押す際に発生する起電力で電波を飛ばし、データを送信し、さらに蓄積したデータをアプリから見えるようにすることで、現場ラインの故障や進捗のボトルネックの原因などを追及できる。
【ディサークル】
ディサークルは、統合型コラボレーション「POWER EGG」を開発・発売しているベンダーだ。約1300社以上の実績があるが、特に地方の中堅企業や金融機関に強く、あきた銀行などの第一地銀64社のうち、実に20社以上が同製品を採用している。その大きな理由は、業務の生産性を向上できるからだ。POWER EGG自体はグループウェアだが、コラボレーションツールに近いかもしれない。
たとえば、業務の生産性を向上するために、電子的なワークフローで稟議を回せばペーパーレス化につながる。ルールベースでフローさせたり、承認をエスカレーションさせる仕組みを自由にカスタマイズすることも可能だ。Excel文書をゼロにすることは難しいが、ExcelシートをWebデータベース化することで、共有作業を更新し、さらにルールベースで必要な人にプッシュ配信でメッセージも飛ばせる。
【秋田県IoT推進ラボ】
県内の産官学が連携した秋田デジタルイノベーション推進コンソーシアムは、秋田県IoT推進ラボとして選定され、再スタートを切った。まだ立ち上がって間もないが、今年度より第4次産業革命への対応を重視していく方針だ。
秋田県は、少子高齢化で生産性人口が減っているが、生産性を向上させるICTの導入は進んでいない。そこでICTの普及啓発・情報提供・各種相談に応じ、セミナーや技術研究会などを開催。また先進技術の導入支援のために各種補助金も用意。これらは中小企業の設備投資、サービス業の商品開発、AIやIoTなどの先進技術、小企業向け事業に利用できる。
またコンソーシアム内に専門部会を置き、建設分野ではiConstruction、ドローンによる測量、建機の自動化などを推進。農業分野ではスマート農業の取り組みを始めている。医療・福祉分野は介護ロボットや医療情報の活用、観光・交通分野ではICTによる配車システムや自動運転の実証、キャッシュレス決済などを検討中だ。
【仙北市IoT推進ラボ】
最北端の戦略特区として認定されたのが仙北市IoT推進ラボだ。同ラボでは、仙北市の豊富な資源と近未来技術を活用し、地域課題を解決していく方針だ。そのなかで事業創造計画「SEMBOKU FLIGHT PLAN」では、2020年までに30超の新事業群を選定・支援していく。異分野の仲間が日常的に集まり、取り組めるリアルな場を目標に「FoSTAR計画」の準備も始まった。この計画は、仙北市を、情報技術と人工知能とロボットの実証フィールドとして機能させるものだ。
現時点で仙北市にない技術は、さまざまな人材や企業を誘致し、キャッチアップしたいと考えている。これまで多くの課題に対して、事業アイデアを出してきたが、それらを整理・統合し、いよいよ来年から生産年齢人口を増やすための施策も本格的に打ち出すという。
【一般社団法人 MAKOTO】
同社は、東北地方のスタートアップに投資するファンド事業、地域の起業家を育成する地方創生事業、コワーキングスペースなどの起業環境整備事業、東北大学発ベンチャーを2030年までに100社にする大学連携事業を柱に展開。これまで多くの起業家の育成や、東北各地の自治体と、東北全域を巻き込むプロジェクトなどを進めてきた。
たとえばJPモルガンと連携し、東北6県の起業家育成プログラム「Tohoku Rebuilders」を実施。また仙北市とも東北のスタートアップを対象としたアクセラレータプログラム「Tohoku Growth Accelerator」を展開中だ。国家戦略特区の仙北市が、名実ともに全国に注目されるロールモデルになるような事例を生み出していくという。
【SFPパートナーズ】
SFPパートナーズは、前出の仙北市の事業創造計画「SEMBOKU FLIGHT PLAN」の策定に関わった有志(コンテンツ計画、ノークリサーチ、ツクル)によって組成された任意団体だ。地域発の事業を支援するため、田沢湖駅前にコワーキングスペース「Tazawako Base」を設置し、各事業の企画・プロデュース、コーディネーション事業を実施している。最近では、「スタートアップSEMBOKU」などの事業創造や人材育成にも積極的に取り組んでいる。
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登録はこちら東京電機大学工学部卒業。産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、株式会社アスキー入社。週刊アスキー編集部、副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにIT、ネットワーク、エンタープライズ、ロボット分野を中心に、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書は「災害とロボット」(オーム社)、「キカイはどこまで人の代わりができるか?」(SBクリエイティブ)などがある。