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教育から探るイスラエルの強さの秘密(4) ラビ・アキバの物語 その2

2019.02.13

Updated by Isaku Aoki on February 13, 2019, 10:32 am JST

イスラエルの学びのシンボルともいうべき紀元1世紀の人物、ラビ・アキバについての話の続きです。これまでの経緯は「教育から探るイスラエルの強さの秘密(3) ラビ・アキバの物語 その1」を参照してください。


大金持ちのカルバ・サブアの美しい娘ラケルと恋に落ち、結婚を誓ったアキバだったが、事はそう簡単には運ばなかった。自分の娘が貧しい無学な羊飼いのアキバを結婚することを知った時、激怒して怒り狂ったカルバ・サブアは、「もしお前がアキバを結婚するなら、財産も結婚持参金もやらない。お前の顔など見たくなり。出て行け!」と言って、娘を家から追い出してしまった。にもかかわらず、ラケルはアキバのもとに嫁いだのだ。彼らはとても愛し合っていた。

しかし、その生活はとても貧しかった。はじめは馬小屋の藁のうえに眠り、朝、アキバはラケルの髪についた藁屑を取り除いてあげなくてはならなかった。雇い主のカルバ・サブアの怒りをかって追い出されたアキバは羊飼いの職を失い、木こりのようなことをして薪を売って何とか暮らしていた。その日々の生活が忙しく、ラケルとの約束にもかかわらず、アキバには学ぶ時間がまったくなかった。

やがて子供が生まれた。その長男が学校に通うことになった時、アキバは自分の息子と一緒に学校に通い始め、読み書きから学びはじめることを決意した。アキバは40歳になっていた。学校の先生はアキバに学問の才能はあることをすぐに見抜き、アキバの勉強を応援した。また妻のラケルは、「犠牲無しに偉大なことはできない」と言って、「私は家族を支えて働きますから、あならは偉大なラビになるまで学問に打ち込んでください」とアキバを励まして送り出したのだった。

そしてアキバは、幾つかの学校に通った後、家を離れ当時の有名な「ラビ」の下で学ぶようになった。ある時、ラケルは夫のアキバがローソクを買うお金さえないことを知ったのだった。それはアキバが夜、暗闇の中で勉強し続けたため、彼の視力が落ちてきていることに気づいたからであった。直ぐにラケルはその美しい彼女の髪を切って市場でそれを売り、そのお金をアキバに送った。

やがて苦学の末、アキバは偉大なラビとなり、彼の名はラビ・アキバとして国中に知られるようになった。その貧しい羊飼いはイスラエルで最も愛されるラビとなったのだ。

ついにラビ・アキバが妻ラケルのもとに戻る日がきた。しかし、彼は一人ではなかった。彼は12,000人の弟子たちを率いていた、と言われる。偉大なるラビ・アキバが帰ってきたと知った時、村中の人々が彼を出迎えた。何人かの弟子がラビ・アキバの前に進み出て、ラビのために道をあけた。するとその弟子たちはその通り道にとてもみすぼらしい一人の女性が立っているのを見た。「そこの貧しい女よ。おどきなさい」と叫んだ。「この偉大なラビのために道をあけろ!」と。

その時、ラビ・アキバは言った。「これは私の妻ラケルです。彼女が私にトーラーの勉強をさせてくれたのです。彼女の助けなしに私はラビになれなかった。そして、あなたも私の弟子になることはできなかっただろう」。そう言うとアキバはラケルを抱き寄せ、そして一緒に喜びに満ち溢れた村の中をともに歩いていったのだった。

一方、ラケルの父親カルバ・サブアは不幸な思いで日々を過ごしていた。彼はお金持ちではあったが、ラケルに二度と会わないと誓ったことを深く後悔していたのだ。カルバ・サブアは偉大なラビが村に来たことを聞き、そのラビに自分の誓いをどうやって取り消したらよいか尋ねようと思った。

もちろん彼は、偉大なラビ・アキバが自分の娘と結婚したあの貧しい羊飼いだとは知らなかった。ラビ・アキバもカルバ・サブアに気づかないふりをしていた。そして彼かカルバ・サブアの言葉を静かに聞いていた。そしてアキバは言った。

「今あなたは貧しい羊飼いと結婚した娘を許して、あなたの家に迎え入れますか?」
「はい、もちろん!」カルバ・サブアは答えた。
「私は、彼らが一緒に元気に暮らしていてくれていたら、どんなに嬉しいだろうか」
アキバはこらえきれずに思わず、
「お父さん!」
と言ってしまった。
「私がアキバですよ! あなたの貧しい羊飼いです!」
ガルバ・サブアはアキバとラケルを抱きしめた。
彼らは三人一緒に幸せに暮らすようになった。

(つづく)

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青木 偉作(あおき・いさく)

エルサレム・ヘブライ大学社会学部政治学科卒。日本経済新聞社記事審査部スタッフを経て、現在、大阪大学・ユダヤ文化研究会ヘブライ語講師。主な訳書・著書に『ハマスの息子』(幻冬舎)、『ユダヤ人に学ぶ日本の品格』(PHP)、『ユダヤ人の勉強法』(中経出版)、『まずはこれだけヘブライ語』(国際語学社)等がある。