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8年ぶりのSXSWで教育ベンチャーの空気を浴びて来た

2019.03.08

Updated by Ryo Shimizu on March 8, 2019, 19:28 pm UTC

半年前に来たばかりだが、再びテキサスを訪れた理由は、SXSW(サウスバイサウスウエスト)の教育関連イベント、「SXSW Edu」に参加するためだ。

前回、SXSWに参加したのは今からちょうど8年前、2011年3月11日のことだった。

オースチンの中心部にある6番街でも最も見晴らしの良い、少し高級なTex Mex料理店であるIron Cactusでほろ酔い加減になった僕は、千鳥足でマリオットに戻り、エレベーターの中に閉じ込められた。

しかも助けを呼ぶためのトランシーバーも壊れていて雑音しか聞こえない。
携帯電話の電波も遮られて外界と連絡もとれない。

壊れた鋼鉄の箱に宙ぶらりんにぶら下がりながら、いつ落下するのかという恐怖が頭をよぎり、脂汗が滲んだ。

ひまだから遺書でも書くか、と考えてケータイに遺書めいたメモを残そうとしていると、不意にエレベーターがガタンと音を立てて動き、扉が中途半端に開いた。

僕は青ざめた。エレベーターからフロアの断面が見える位置で扉が開いたからだ。
いつまたこの鋼鉄の箱が動き出し、ギロチンのように体が真っ二つになってしまうかわからない。

そんな状態でも勇気を出して飛び出した。

いやはや酷い目にあった、と頭を抱えながら自室にもどってテレビをつけると、どこかの街で大災害が起きている。ほう、大変だなあと思って見ていたら、それは愛する故郷、日本の惨状だった。

それ以来、トラウマになった、というわけではないけどなんとなくSXSWから足が遠のいてしまった。
現地ではお祭り騒ぎをしているのだが、とてもそんな気分にはなれない。結局、現地にいる日本人の有志で集まり、大規模な募金活動を開始した。

そんな震災をきっかけに、僕は被災地の人々になにを貢献できるか考えた末、被災地の子供達にプログラミングを教えるという一つの方法にたどり着いた。

その頃の僕にとって「被災地」とは、震災による経済的・精神的・風評的ダメージを受けた日本全体だった。単に津波で喪失した東日本の太平洋側の子供達や産業だけでなく、日本全体が地盤沈下してしまうのではないかという恐怖だった。

そんな状態だから、プログラミング教育といえば僕にとって日本の子供と大人を教育することだった。
ところが皮肉にも、SXSWは震災の翌年から教育イベントを始めた。

SXSWはもともと音楽のイベントであり、次に映画のイベントが始まり、さらにインタラクティブに発展して、最後に教育がやってきた、という構成になっている。

今年のSXSW Eduでは、日本人の参加者が米国籍に次いで第二位であるという。それくらい、日本では教育への意識の高まりがあり、テクノロジーと教育の交差点とでもいうべきこのイベントで何かを掴みたいと考える人が多かったのだろう。

8年ぶりに訪れたIron Cactusは、あいも変わらず盛況だった。
到着した日には異常気象で凍えるような寒さだったオースチンの天気も、四日目にはだいぶ好転した。

8年ぶりのファヒータとワイン。あの頃の絶望感は遠い昔のことのようだった。

未踏Jr.がブースを出していたのには驚いた。未踏Jr.をたばねる鵜飼さんによると、今年はSXSW Eduのピッチトークに未踏Jr.の高校生が通ったらしい。

GrooveXのLOVOTも展示されていた。LOVOTは、EduだけでなくInteractiveにも展示されるらしい。

今年のSXSWはInteractiveに日本人が大挙して押し寄せるようだ。落合陽一さんが参加する日本館もあれば、ソニー執行役員でギリアの創業者でもある北野宏明さんが登壇するSONYブースの準備風景も目立った。

SXSW Interactiveといえば、TwitterやFoursquareがデビューした伝説的なイベントである。ここのピッチイベントを皮切りにTwitterがあっという間に全米を席巻していったのだ。それだけに、Twitterへ続けとばかりに元気なベンチャーが毎年参加していたが、ここ最近は全くここから流行ったサービスについての噂を聞かない。

その意味では、まだ歴史の浅いEduは前座の前座であり、心なしかギスギスした雰囲気もなくのんびりとしたゆるい雰囲気だった。

展示で一番目を引いたのは、トラックでそのまま乗り付けて来たような「教室におけるバーチャルリアリティ」

ヘッドトラックされる偏光メガネをかけてディスプレイを見ると、ディスプレイのなかの映像が浮き上がって見える。
ペン型のデバイスで画面の中のものを持ち上げたり、画面の中から外に引っ張り出したりできる。

「これはすごい」

と思ったのだが、システムが3500ドルとお高く、しかもミニマム10台だというので腰が引けてしまった。
確かに良いのだがそれならOculus Goで良くないか。

ラズパイを格納できる素敵なケース

・・・でも299ドルは高い気がする。

ドローンを組み立てて、飛ばして、壊して、修理することにより学べる教材。
これは199ドルでも比較的安いと感じる。不思議なものだ。

これは少し驚いた。
Scratchのようなブロックの中に、リアルタイムで画像認識して、それにしたがってロボットを動かす。

なかなかのワザものである。

こういうブロックが作れるとは知らなかった。

まさにAIとSTEAM教育の融合である。
この路線はもっと極めていったほうがいいのではないか。

スタートアップのピッチコンテストがあるというので見にいって見た。
ものすごくユルい。

ただ、世界の教育ベンチャーが問題意識をどのように持っているかがわかって興味深かった。

たとえば幼少期の英語の発音練習を支援するソリューションが3つくらいあった。
日本には日本語の発声練習という概念がないので、とても奇妙な感じがしたのだが、移民が多いアメリカでは重要な問題らしい。

優勝したのは、アメリカの大学に通う学費を節約するソリューションを開発するベンチャーだった。日本では国公立大学があるので、勉強さえすればいい大学に入れることがある程度保証されているが、アメリカでは名門大学の多くは私立であり、特に昨今は奨学金の給付形態も複雑で、これはアメリカ社会にとってかなり切実な問題なのだと思った。

日本のピッチイベントだと、ピリピリした緊張感の中で立て板に水のような勢いで話すのが普通に感じるが、SXSW Eduはかなりおっとり、のんびりしたピッチに聞こえた。

久しぶりに参加したSXSWはいい意味でも悪い意味でも昔と変わりなかった。
いい意味で言えば、現地に集まる人と誰とでも仲良くなれること。特に日本人は少数派なので、自然と絆が生まれる。
日本で知り合いでも、こっちで会うとまた違った感じでのコミュニケーションになる。

悪い意味でいえば、明確な目的なしにやってきても、なにひとつ持って帰ることができない場所である。
緊張感がないというのは、リラックスできる反面、遊びに来てるのと同じになってしまいがちだ。

いわゆるトップカンファレンスや見本市のように、なにか凄いものがあると期待して来ると肩透かしを食らう。
まったく逆に、この空気を浴びて、そこから浮かび上がるなにかを感じ取れるか、取れないか。

それは本来はトップカンファレンスにも見本市にも共通する部分でもあるのだが、ついつい見落としてしまいがちな事柄でもある。
意味があるのかないのかは置いておいて、空気を感じ取れるようになるには、とにかく場数をこなさないとならない。

そういう意味ではSXSW、また通い始めるべきか

ブースもそんなに凝ったものはいらないし、その意味ではSXSWは良い意味で緩いので、日本のベンチャーや学生はどんどん参加するといいと思う。もちろん大企業も。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。

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