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【深セン探訪】GAFAフリーな中国スマホ事情。WeChat Payは人権

2019.08.16

Updated by Ryo Shimizu on August 16, 2019, 07:43 am UTC

マカオで開催されている国際統合人工知能学会(IJCAI;International Joint Conference of Artificial Intelligence)を訪れたついでに、スイッチサイエンスの高須さんが滞在しているという深センを訪問してきた。

マカオと深センは香港を挟んでいるが、フェリーで直通しているため、昨今の香港をめぐる混乱に巻き込まれることもなく、スムーズに深センに到着することができた。

"違和感"は蛇口港でタクシーを拾い、ホテルに到着したときに訪れた。

「現金?お釣りがないんだけど、WeChatやってないの?」

運転手さんにWeChatの画面を開いてみせると、「駄目だこりゃ、お釣りをWePayで返そうと思ったのに」と肩を落として、お釣りをくれた。

「あるんじゃん!」という驚きの前に、「なぜWePayも持たずに中国に来たのか?」と非難するような目線が気になった。

数年ぶりに来た深センの街並みは、以前と大きく変わっていた。
高層ビルが何棟も立ち、街を電気自動車が埋め尽くしていた。

行き先別で赤と緑に色分けされていたタクシーは今はもうなく、青い電気自動車のタクシーをどこからでも拾うことができる。

モバイルルータの電源をOnにしてiPadをWiFi接続し、GoogleMapを開こうとするが、待てど暮らせど開かない。

「あ、Googleは遮断されているんだった」

当たり前のことに今気づく。すると自分がどれだけGoogleに依存していたかを思い知らされた。当然ながら、この国ではGmailもGoogleMapもYouTubeも、もちろんGoogleも使えないのだ。

国際ローミング中のスマホは例外なので、スマホからだとGoogleも辛うじてアクセスできる。しかし遅い。
やむなく検索エンジンをbing.comに変更。これはちゃんと動く。

しかし困ったのは地図だ。GoogleMapは使えないし、iPhoneにもとから入っているマップは使えるが、英語表記なので漢字だらけの街の中で正しい場所を探すのは難しい。

仕方がないので百度地図をダウンロード。今度はすべて中国語だが、日本人なのでむしろ漢字のほうが読みやすい。

地下鉄で華強路まで行くと、高須さんと待ち合わせできた。

深センの日本人コミュニティではすっかり有名人になった高須さんは、ニコニコ技術部(通称ニコ技)の深センコミュニティを主宰している。会社員としてはスイッチサイエンスに所属しながら、深センでのコミュニティを広げることに大きく貢献している人である。

高須さんは深セン市の中心部のシェアオフィスで、日本企業と現地企業の橋渡しを行ったり、現地の有望スタートアップのコミュニティ活動を盛り上げたりといった活動を精力的に行っている。

ニコ技深センコミュニティには誰でも参加可能。すでに2500人以上の参加者が居る。

この日は高須さんに深センのあちこちの場所を案内していただいた。
特に印象的だったのはM5Stack社だったが、それはもったいないので稿を改めるとしよう。

高須さんと合流すると、とにかく移動が早い。
DiDiという中国版Uberを使うのだが、これがめっぽう使いやすそうだ。
支払いは全てWePay。

さらにDiDiはWeChatと連携するミニアプリを搭載していて、タクシーを呼び出すと、WeChatの相手と位置情報や渋滞情報、到着予想時間などを共有できる。

交通渋滞が常態化している深センでは、東京のように30分単位のアポンイントメントは原則有り得ず、「午前中」「午後」「夕方」「夜」くらいのゆるいレンジで約束し、行く前にはWeChatで「今から向かいます。DiDi情報はこれです」とミニアプリを共有するのが普通らしい。

僕はと言うと、Facebookで仕事の話をしていたのだが、WiFiルーターではどうにもならず、スマホのローミングを使うも、なぜかスマホだと電波が悪い。これも何らかの規制なのかなと勘ぐってしまう。

Gmail送ってくださいと言われても、スマホしかないのでMacからスマホにティザリングして送るしかないのだが、スマホの電波がWiFiルータに比べると極めて不安定なのでネットを快適に使えない。

外国に来たような、いや、外国なんだけど、急に全地球どこでも仕事ができると思っていたコスモポリタンから、単なる西側諸国の人間としてなにか目に見えないバリアーを張られたような気分だった。

Appleも、使えそうで使えない。AppleのiCloudはローミングなら使えなくもなさそうだが極端に遅い。
Amazonにもアクセスできない。

もっとも、ここに住んでいる高須さんによれば、深センの生活は他の外国よりは遥かにラクでシンプルらしい。

外国人であっても、デポジットを払えばすぐに入居できる。部屋はスマートロックされており、WeChat Payで決済するとすぐにスマートロック開鍵用のアプリに取り込まれ、その瞬間から入居可能。仮に家賃を払わなかった場合、容赦なくスマートロックから締め出され、デポジットとして払ったお金を使って強制的に荷物をどこかへ送ってしまう。

日本と違い、敷金礼金と言った制度はなく、デポジットのみ。デポジットなので、引っ越すときには必ず100%戻ってくる。
地価が持続的に上がっているので、敷金からクリーニング代(原状回復代)を貰うよりもとっととリフォームしてより高い値段をつけて貸したほうがいい、という寸法である。

引っ越しそのものもスマホアプリで引っ越し屋さんを予約でき、2日もあれば物件の選定から契約、引っ越しそのものまで終わってしまうらしい。すごい。これぞスマートシティ!!

街中もハイテク化していて、公園には自動お掃除ロボットが待機している。

注目すべきはナンバープレートで、通常なら地域を意味する漢字記号が入るところに、人工知能(中国語では人工智能)を意味すると思われる「智」ナンバーになってるところ。カッコ良すぎる!!

さらに、なぜか背面にはどこかでみたようなコントローラが鎮座している。ドンキーカーのような仕組みなのかな?
これだけのハイテク乱世シティであるため、高須さんのオフィスがあるビルには部品売り場がある。

古き良き深センといった感じだが、売っているものはSMT(サーフェス・マウント・プロセス)用の部品たち。つまり、チップ抵抗などのICや部品類である。

メーカーから直接買うと、2000個からとかのロットのもので、実は1000個しかいらない、という場合はここに売りに来るわけだ。それぞれの小さい店舗は工場とつながっていて、大量の注文も捌くことができる。いわば、日本で言う展示即売会を毎日行っているのが深センのデパートなのである。

「商標や著作権を大事にしよう」みたいな垂れ幕が下がっているが・・・

以前ほどではないと言え、まだまだ商標権や著作権、意匠権に関する意識は成熟の余地がありそうだ。

Roombaのような自動掃除機も大量に模倣品が発売されており、最近の注目株はガラス拭き専用自動掃除機。
これはちょっと欲しいと思ってしまった。

3Dプリントした仏像に金箔を施したもの。
これもなかなかの出来栄えだ。

久しぶりに深センに来たが、成熟した空気とまだまだこれからどんどん盛り上げていくぞというポジティブな熱気が同居する不思議な街になっていた。また、以前よりも男性を見かけた。以前は深センは住民の70%が女性と言われていたのだが、今は男性人口も増えたようだ。

さて、実は一番困ったのは、実は帰りである。
一人で蛇口港に向かい、タクシーを降りたまではよかったが、フェリーの切符を買おうとするとこんな具合だった。

WeChat Payか、AliPayか、Union Payじゃないと払えない!
まさかのQRコード地獄。

「え、お前なんで持ってないの?」というタクシーの運転手さんの怪訝な顔がフラッシュバックする。

小腹を満たそうと、ファーストフードに行っても・・・

これか!これが人権ってやつか!

とにかくWeChat Payがないというのは、日本においてSuicaがないよりも深刻な状態らしい。
Suicaでしか会計できないファーストフードとか見たことないし。

もちろんレジに行けば現金も使えたのだが、やはり「は?なんで持ってないの?」という顔を露骨にされる。

嫌な顔というよりも、「え、持ってない人っているんだ?」というポカンとした顔。
僕が同じモンゴリアンだからかもしれないが、「その顔でWeChat Pay持ってないなんて」という哀れみと言うかなんというか・・・

次回は現在世界で大ブレイク中のCPUユニット、「M5Stack」本社について紹介したい。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。

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