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Brexitの影響を認識していないEU市民

UK citizens do not recognize the impact of Brexit

2019.09.21

Updated by Mayumi Tanimoto on September 21, 2019, 09:08 am JST

イギリスはBrexitで相変わらず混乱していますが、議会のやっていることがあまりにも馬鹿げているので嫌になっている人が多いです。

ハロウィン時期に合意なき離脱が実現するかどうか、今だに分かりませんが、ここにきてイギリスに住む「EU市民」が揺れています。

今までは、EU国籍があればイギリスでの就労許可や永住権がなくても自由に住んだり働いたりできました。しかし驚くべきことに、合意なき離脱で居住の自由が廃止された場合の対策を全く考えていない人が多く、今になって大騒ぎになっているのです。

例えば先々週のタイムズの日曜版では、父親がパキスタン人で母親がベルギー人でイギリスに住んで40年という女性がコラムを書いていましたが、そんなに長くイギリスに住んでいるのに、彼女はイギリス国籍も永住権もないのです。

離脱後に滞在許可が必要になることを自覚したのがつい最近で、焦って弁護士に相談をして書類を揃えたそうです。

こういう例は実は少なくありません。EUの人々で特に2000年後にイギリスに来た人達はビザが必要なかったので、そもそもイギリスに住むのにビザや永住権というものが必要だということを理解してない人がかなりいます。永住権が何なのかを知らない人もいます。

イギリスでその数が83万人を超えているポーランド生まれの人々は、インド人と並んで最大の外国人グループの一つですが、イギリスの就労可能なビザや永住権、イギリス国籍を取得している人がなんとたった27%です。Brexitで滞在許可が必要になることを認識していない人が相当数いるということです。

リスク管理意識の高い人であれば、離脱投票が決まった時点でイギリスの永住権や国籍を取得すると思われたのですが、これまで自由に行ったり来たりできた上に、自国と同じ様に住めて、全く外国であるということを認識していなかった人がどれだけ多いのかを象徴しています。 

EUの人々にとって、ここ20年ほどは、イギリスに来ることだけではなく、EUの他の加盟国に往き来したりするということが隣の県に引っ越すような実に気軽で手軽なことだったということです。

この感覚は、日本にいる人にはなかなか感じにくいかもしれません。特にこの感覚が薄いのはイギリスに住んでいるフランス人でしょう。パリから電車に乗るだけで2時間ほどでロンドンに着いてしまいますから、東京から名古屋に行くような感覚です。

一応は入国審査があるわけですが、EUの国籍があればビザ審査が全くないわけですから、これもまた国内を移動するような感覚です。

この居住と就労の自由は、EUの人々の他の加盟国に対する意識にかなりの影響があったと私は考えています。 

もともとヨーロッパというのは、国境線がコロコロ変わる土地でありました。また戦前は、今よりも他国への移動や居住が自由でした。交通手段が発達していなかった上にコストも高いので、それほど移動する人がいなかったためです。

ところが移動手段が発達しはじめると、各国は入国や外国人の居住を制限するようになりましたから、これだけ国境を越えることが自由になったということは驚くべきことでした。

EU全体での統一感といったものは醸成されなかったかもしれませんが、他の国の人と接触したり一緒に住むということに抵抗がなくなった人はかなり多いと思われます。

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。