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Society 5.0を実現するモビリティとロボットが織りなす近未来イノベーション

Society 5.0を実現するモビリティとロボットが織りなす近未来イノベーション

2020.01.07

Updated by Takeo Inoue on January 7, 2020, 14:49 pm JST

新たな価値やサービスが次々と創出され、人々に豊かさをもたらす「Society(ソサエティ)5.0」を目指して、いま日本政府はあらたな国づくりを進めようとしている。実際にSociety 5.0で活躍しそうな多くのプロダクトも登場しつつある。ここでは、地方創生や働き方改革にも活用でき、近未来のイノベーションにつながりそうなモビリティとロボットについて2019年10月に開催されたCEATEC 2019の展示内容から紹介する。

高齢者の多い寒村地域でドライバーレスの自動運転バスが走る日も近い!?

地方創生という視点で未来を感じさせるのがSBドライブの自律走行バスだ。2019年6月に国内でナンバーを取得した仏Navya社製の「NAVAYA ARMA」(ナビヤ・アルマ)を利用し、すでに公道での実走行実験も行っている(写真1)。

▼【写真1】SBドライブの自律走行バス、仏Navya社製の「NAVAYA ARMA」の公道トライアル。 V2I(Vehicle to Infrastructure)により、通信機能が付いた信号機と通信し、信号に合わせて自動停止・発進する。
【写真1】SBドライブの自律走行バス、仏Navya社製の「NAVAYA ARMA」の公道トライアル。 V2I(Vehicle to Infrastructure)により、通信機能が付いた信号機と通信し、信号に合わせて自動停止・発進する。

たとえば、先般CEATECで行われた試乗会では、SBドライブの自律走行車両運行プラットフォーム「Dispatcher(ディスパッチャー)」を利用することで、遠隔地からダイヤに基づく走行を車両に指示するデモも行われた。客を乗せたバス車両が、信号と連携したり、遠隔地から指示を受けて公道で実走行したのは本邦初となった。

車両は定員15人まで乗り込めるが、今回はつり革を外し、監視用ドライバーを含めて11名まで着座できる形に変更していた。始動については、タブレットをワンタッチするだけ。あとは自動で動くため、非常に簡単だ(写真2)。

▼【写真2】タブレットをワンタッチするだけでバスが始動する。今回は安全運転のため、時速18㎞という低速で走行だった。EVなので騒音もなく、スムーズに移動していた。
【写真2】タブレットをワンタッチするだけでバスが始動する。今回は安全運転のため、時速18㎞という低速で走行だった。EVなので騒音もなく、スムーズに移動していた。

無人走行の際は、自動運転車と道路設備間を通信する「V2I」(Vehicle to Infrastructure)の機能によって、通信機能が付いた専用の信号機と通信し、信号機に合わせて自動的に停止・発進が可能だ。トライアル運転だったため、時速18㎞という低速で1.5㎞の距離をゆっくりと安全走行していた。

2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックでは、いよいよ本格的な自動運転車が登場する。2020年代は地方創生と絡めて、高齢者の多い寒村地域などで、こういった自動運転バスが走る日が現実のものになるだろう。

働き方を変える! 長時間勤務を解決する近未来のタクシー

「働き方改革タクシー」と銘打ち、 長時間勤務を是正する近未来のタクシーを提案しているのはディー・エヌ・エーだ(写真3)。いまタクシー業界では、最長21時間ほど勤務した後、1日休むという不規則な働き方をするドライバーの労働が大きな問題になっている。過酷な環境で集中力を維持しつつ、乗客を探しまわるのも大変だ。

▼【写真3】ディー・エヌ・エーでは「働き方改革タクシー」と銘打ち、「リリーフドライバー」というコンセプトで、近未来のタクシーの姿を提案。 ビッグデータとAI分析で乗車の需給を予測し、効率的な運転を実現。
【写真3】ディー・エヌ・エーでは「働き方改革タクシー」と銘打ち、「リリーフドライバー」というコンセプトで、近未来のタクシーの姿を提案。 ビッグデータとAI分析で乗車の需給を予測し、効率的な運転を実現。

そこで同社では、タクシー需要が高まったときに、不足するドライバーを補えるように、タクシーをフル稼働させる「リリーフドライバー」というコンセプトを打ち出した。ビッグデータとAI分析により、乗車の需給を予測し、必要なときに必要なだけ、時間を選んで働けるようにするというアイデアだ。

蓄積されたタクシーの乗車/降車データと天候、イベント情報を掛け合わせ、最も乗車の確率が高いルートをAIによって分析し、リアルタイムに知らせる「お客様探索ナビ」が、すでに神奈川県でも実証試験中だ。これにより新人ドライバーも無理なく乗客を探し出せるようになる。

また同社では、交通事故削減サービス「DRIVE CHART」を開発している。車内カメラ、加速度センサ、GPSデータなどを組み合わせ、ドライバーの状態やリスク要因をAIで診断し、安全運転のコーチングを行うものだ。これによりウッカリ事故を48%削減できたという。

タクシー後部に搭載されたタブレットで、接客へのストレスを解消する工夫も凝らした。タクシー配車アプリ「MOV」は、乗車時にシートベルト着用を促したり、走行中に車内広告やコンテンツを多言語対応で流せる。また料金支払い時には、キャッシュレスの支払方法も提示してくれる。

遠隔地から誰でもアバターロボットを活用する未来社会

新開発の「newme」(ニューミー)と呼ばれるアバターロボットを発表し、自らの分身を活用したアイデアを提案していたのはANAホールディングス(ANA HD)だ。

このアバターロボットは、10.1インチのタッチパネル付きディスプレイ、マイク、スピーカーを備え、離れた場所の人々とコミュニケーションをとりながら、遠隔操作で移動できる点が大きな特徴だ(写真4)。

▼【写真4】ANAホールディングスが開発したアバターロボット「newme」。離れた場所の人々とコミュニケーションが取れる。高齢者の見守りやショッピングなどへの活用を想定。
【写真4】ANAホールディングスが開発したアバターロボット「newme」。離れた場所の人々とコミュニケーションが取れる。高齢者の見守りやショッピングなどへの活用を想定。

newmeを通じて、ANAのキャビンアテンダントと会話することも可能だ。しかし筆者が注目したのは、このロボットが身体や時間や距離の制約を超えて、遠隔でどこでも活用できることだ。これにより地方創生や働き方改革の推進役になる可能性があるだろう。

たとえば、離れた場所に設置されたアバターロボットにアバターイン(ログイン)すれば、高齢者を見守りに行ったり、病気で動けない人が希望する場所に疑似的に行けるようになる。遠い場所にある店でも、自宅からショッピングすることが可能だ。日本だけでなく、海外からスポーツ観戦や観光を楽しめるなど、可能性が広がるはずだ(ANAアバター『newme(ニューミー)』ユースケース編)。

▼ANAアバター『newme(ニューミー)』ユースケース編

ANAは、産学官民と連携し、アバター技術の研究を加速し、社会実装を推進していく構えだ。実際に自治体では、東京都、大分県、沖縄県、香川県、加賀市が名乗りを上げている。三越伊勢丹や三井不動産、三菱地所、東急などのデベロッパーも参画を表明しているという。

法規制が整備され、ユニークな「空飛ぶクルマ」が交通渋滞を解消?

未来の形を示すモビリティは、地上だけではない。NECが開発中のユニークな「空飛ぶクルマ」は、近未来ビークルとして世界を変える可能性を持っている(写真5)。4プロペラの大型ドローンに車輪が付いたデザインで、サイズは幅3.7m×全長3.9m×高さ1.3mほど。3人まで乗り込める仕様だ(離陸重量は150㎏未満)。

▼【写真5】NECの空飛ぶクルマの試作機。日本は法整備が遅れているが、ドバイをはじめ世界各国で同様の大型ドローンの開発が進められている。
【写真5】NECの空飛ぶクルマの試作機。日本は法整備が遅れているが、ドバイをはじめ世界各国で同様の大型ドローンの開発が進められている。

もともと同社は、準天頂衛星システム「みちびき」や小惑星探査機「はやぶさ2」などに活用された航空宇宙関連の制御技術を有している。そのため、こういった空飛ぶクルマの開発も本腰を入れれば、十分に実現できるだろう。実際に今回の試作機は、すでに同社の我孫子事業所で浮上実験に成功。ただ国内で自由に空を飛ぶには、法規制の整備が課題だ。

同様のモビリティとしては、国内でA.L.I. Technologiesが、公道走行を想定したホバーバイク「Speeder」を公開(SpeederSeries公開試験)。さらに海外の事例では、カリフォルニアのスタートアップ Hoversurfが開発した電動ホバーバイク「S3 2019 Hoverbike」をドバイ警察が採用し、2020年を目途に本格運用する予定だ。

▼SpeederSeries公開試験

いまは法規制が緩い海外のほうがイノベーションが進展しやすい状況だ。日本も海外に後れをとらないように、関係省庁に早急な環境整備をして欲しい。空飛ぶ車が実現すれば、現在の交通渋滞もかなり緩和されるだろうし、過疎地域や離島においても「空飛ぶ宅急便」のような新しい流通業が始まるかもしれない。

日本のスタートアップが開発したローバーが月面に! 中小企業も宇宙分野へ

最後に、かなり夢のある話として、日本のスタートアップが開発した月面探査用ローバーについて紹介したい。2021年に打ち上げられる新型ロケットに乗って月に向かい、月面を走行するかもしれないという話だ。

NASAが月輸送ミッションを民間に公募し、2019年に米Astrobotic社がNASAから月面着陸の委託を受けた。そして、この米Astrobotic社と、日本のスタートアップであるダイモンが月面探査の契約を結んだのだ。

ローバーを開発したダイモンは東京都大田区に拠点を置く企業だ。同社の中島紳一郎社長は、もと大手自動車メーカーの機械エンジニア。以前はispace社のHAKUTOにも関わっていた経歴を持つ。同氏は、ほとんど自力で2輪式ローバー「YAOKI」を開発した。

YAOKI(写真6)は、重量が約600g、W150×L150×H100mmという手のひらサイズを実現しており、小型軽量であることはコスト面でも有利に働く。打ち上げコストは従来の1/10に抑えられる。

▼【写真6】スタートアップが開発した、約600gという手のひらサイズの月面探査用ローバー「YAOKI」。この名称は、七転八起に由来している。本体前面にカメラを搭載し、転倒してもそのまま走行できる上下対称の構造。
【写真6】スタートアップが開発した、約600gという手のひらサイズの月面探査用ローバー「YAOKI」。この名称は、七転八起に由来している。本体前面にカメラを搭載し、転倒してもそのまま走行できる上下対称の構造。

ローバー本体の前面にはカメラを搭載し、転倒してもそのまま走行できる上下対称の構造を採用。洞窟探査などで本体を投げ込んで使用できるという。バッテリー駆動で約6時間の走行が可能で、Wi-Fiで月面上のランダーと通信し、ランダー経由で地球から遠隔操作することを想定している。ちなみにYAOKIは、Astroboticの着陸船と一緒に乗る予定の英Spacebit社のローバー「朝蜘蛛」と、月面でセルフィ―を撮り合うという国際ミッションを行うことが先ごろ発表されたばかりだ(写真7)。

▼【写真7】Spacebit社のローバー「朝蜘蛛」(写真左)とダイモンの「YAOKI」(写真左)。月面上での国際的な協力が期待される。
【写真7】Spacebit社のローバー「朝蜘蛛」(写真左)とダイモンの「YAOKI」(写真左)。月面上での国際的な協力が期待される。

日本のスタートアップが開発した製品が地球を飛び越え、月面で国際的な連携が実現できることになれば、地方の中小企業にも大きた勇気を与えてくれるだろう。日本は大企業より中小企業のほうが圧倒的に多い。彼らが元気になることが、日本を元気にする原動力になるはずだ。

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井上 猛雄 (いのうえ・たけお)

東京電機大学工学部卒業。産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、株式会社アスキー入社。週刊アスキー編集部、副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにIT、ネットワーク、エンタープライズ、ロボット分野を中心に、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書は「災害とロボット」(オーム社)、「キカイはどこまで人の代わりができるか?」(SBクリエイティブ)などがある。