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コロナ後に考える「働く」とはどういうことか

Think about work post Covit-19 era

2020.10.23

Updated by Mayumi Tanimoto on October 23, 2020, 15:24 pm JST

欧州ではコロナの感染者が急増していますが、その一方で、オフィスに通勤したい人や大学のキャンパスに通学したい学生がどんどん増えています。

イギリスの場合、企業の多くはまだまだ在宅勤務を推奨していたりしますが、徐々にオフィスへの通勤を解禁しているところも増えています。

一方で大学の場合は、ハイブリット式の授業を行っているところが多く、学生は対面の授業とオンラインをどちらも選べるようになっていたりします。

しかし、感染者は9月以降急増していますし、死者も以前より減ってはいるものの、ゼロにはなっていません。日本に比べるとはるかに状況は良くなく、今年の冬はスペイン風邪の第二波同様に死者も感染者も激増すると予測されています。

しかし、こういったリスクを理解している人が多いにもかかわらず、通勤や対面授業を望む人も増えてきています。

在宅勤務の方が、朝早く起きなくて済んだり、仕事中に自由に飲んだり食べたり、あるいは昼寝もできるにもかかわらず、オフィスに行きたいというのです。

これはつまり、我々が「仕事」というものに求めているものは一体何なのか、ということへの問いかけでしょう。

少なからぬ人がオフィスの物理的空間を懐かしみ、同僚との他愛ない雑談がないことを寂しく思い、面倒くさいと思っていた通勤も懐かしく感じている。

個人主義で合理性を重視するイギリスでさえ、仕事はお金を稼ぐためだけではなく、同僚や上司と交流したり、オフィスという物理的な空間にいることで、精神的な満足度や所属しているという承認を得ることが、予想以上に重要であったわけです。

さらに職場の魅力というのは、単に良い福利厚生や良い給料ではなく、他の人との交流であったり楽しい雑談ができる雰囲気というコミュニティであった。それが合理化の権化のような国であっても、実は価値を感じていた人が案外多かったわけですね。

これはここ最近いわれてきた「働くことの価値」とか「新しい働き方」とは、全く正反対の事実を突き付けているのではないでしょうか。

これだけテクノロジーが発達してきて分散型の仕事が可能になったのに、リモートワークをしていた人は実は少なく、あのアメリカでさえコロナ直前では11%に満たず、制度として実施していた企業も少なかったのです。

私が知っている中でも、2000年頃からリモートで働いている知人や友人たちの大半は、大学の研究者やIT業界の管理者や技術者、金融の専門家、フリーランスのライターなど、ごくごく一部の人達です。私も家人も在宅勤務ですが、多くの場合、それを初対面の人に話すと驚かれました。コロナの前は羨ましがられることはほとんどなく、むしろ「どうやって働くの?」と不思議がられていたのです。

リモートであれば働き方に柔軟性があり生活の質が上がる、とさんざんいっていたのにも関わらず、望む人も少なく、好ましいと思う会社も多くはなかった。

遠隔勤務がそれほど発達してこなかったのは、やはり技術の問題ではなく心理的な問題があったからから、という事実がコロナで明らかになったのは非常に興味深いことです。

人は意外と保守的で、さらに人との触れ合いを思った以上に求めているわけで、人と仕事の以外な事実が明らかになったのではないでしょうか。

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。