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IoTを活用してローカルな場を元気にする地方版IoT推進ラボ - 徳島・広島・三重の「CEATEC 2019」注目3事例

2020.01.06

Updated by Takeo Inoue on January 6, 2020, 08:00 am JST

経済産業省とIPA(独立行政法人情報処理推進機構)は、地域におけるIoTプロジェクト創出のための取り組みを「地方版IoT推進ラボ」として全国から選定し、地方創生を支援している。現在101のラボが支援を受けているが、本稿では地方版IoT推進ラボに選定された自治体のなかから、2019年10月に開催された「CEATEC 2019」の会場で筆者の目を引いた徳島県、広島県、三重県の事例について紹介したい。

▲地方版IoT推進ラボのブース。20ほどの全国各地のユニークな取り組みがステージで発表されていた。

止まらない通信網を活用した命をつなぐ減災推進事業 - 徳島県美波町

まずは2017年に地方版IoT推進ラボに選定された徳島県美波町の取り組みから紹介しよう。美波町というと、地方創生を題材にした映画『波乗りオフィスへようこそ』(2019年公開)で知った方も多いだろう。この映画はサテライトオフィスの誘致や地方振興事業を推進する株式会社あわえの代表・吉田基晴氏をモデルにしたものだ。

美波町は人口6,756人、3,278世帯(2019年1月現在)の小さな町。過疎だけれど、にぎやかな町という「にぎやかそ」のキャッチコピーを掲げ、未来への可能性を試せる町として企業の誘致を始めた。すでに19社のベンチャーが進出している。たとえば、株式会社Skeedや株式会社鈴木商店、株式会社イーツリーズ・ジャパンなど多くのIT関連企業がサテライトオフィスを開設しており、地域の活性化に一役買っている。

そんな美波町だが、実は南海トラフで地震が起きたとき、高さ20m超の津波が10分たらずで襲う地域だという。そこで防災対策として、避難タワーなどのハード面の建設と、迅速に避難できるソフト面の対策を講ずることになった。

とりわけ自然災害により通信網が利用できなくなる恐れがあり、ソフト面の対策は急務となる。そこで、IoTを利用し緊急時にも通信網を遮断させないための対策として、「止まらない通信網を活用した命をつなぐ減災推進事業」を産官学のコンソーシアム形式で進めている。これにより、一般のキャリア網が止まったとしても独自の通信網で町民が連絡を取れる仕組みを構築したのが、美波町にサテライトオフィスを置く東京のSkeedというIT企業だ。

同社はサブギガ帯(920MHz)のLPWA(Low Power, Wide Area)を採用し、独自のプロトコルを使い、通信可能な省電力無線システムと2.4GHz帯のBluetoothを組み合わせた通信技術を開発した。また、アドホック的に複数の通信ノードにつながるネットワークを構成。もし何らかの障害で部分的に通信ノードが使えなくなっても、電柱などに設置されたIoT装置が通信の中継基地として独立機能し、通信機能の停止を回避する仕組みを実現した。

▲美波町にサテライトオフィスを置くSkeedが開発したサブギガ帯(LPWA)と2.4GHz帯(Bluetooth)を組み合わせた通信技術。

一般市民に配布する無線タグ(ビーコン)は、位置情報を収集し災害時の安否確認や警報受信に利用できるだけでなく、平常時にはBluetoothを用いた「見守りアイテム」としての活用も可能だ。この無線タグは、津波が来る場合に光る仕組みになっている。避難する市民の位置情報や分布をリアルタイムに把握できるので、役場や大学では防災データを収集し、避難計画の改善などを行うことができる。

▲手に持っているのは、実証実験のために一般市民に配布した無線タグ。10分以内に津波が来ることがわかるとタグのLEDが光る。

すでに美波町では2017年に実証実験を済ませている。通信の成功確率は5分以内に95%ほど。強靭な通信手段となることが確認できた。また住民の位置情報の取得コストも、従来の「GPS+携帯電話」では1人あたり端末費用15,000円+通信費1,000円/月がかかるが、新システムでは装置費用3,075円+通信費20円/月と格段に安くなることがわかった。

この「止まらない通信網」の拡張性を活用し、他の取り組みも進んでいる。たとえば電信は、通信網にソーラーパネルと超音波式水位センサを接続することで、河川や用水路の水位観測に役立てようとしている。水位が上がるとポールのLEDが点灯して住民に知らせるだけでなく、データを蓄積することで庁舎内でも河川の氾濫に対する事前対応が可能になるという。

IoTを使って「かき」の養殖業を安定させる – 広島県江田島市

広島県江田島市の事例もユニークで面白い。広島県は水産業が盛んで、特にかき養殖が有名だ。ただ近年は生産高が不安定になっており、安定収穫が求められていた。

そこで、ひろしまサンドボックス推進協議会主導のもと、「スマートかき養殖IoTプラットフォーム事業」が展開されている。ICTとAIを活用することで、海洋情報の収集と解析を行い、かきの採苗(かきの幼生を海中から採取すること)から育成、収穫、むき身、洗浄、出荷までの養殖プロセスを効率化。生産高を上げる実証実験を進めている。

▲ひろしまサンドボックス推進協議会が進める「スマートかき養殖IoTプラットフォーム事業」。かき養殖とIoTの組み合わせがユニーク。

プロジェクトメンバーである江田島市の内能美漁業協同組合(平田水産)が実験フィールドを提供し、かきの幼生検出技術を中国電力株式会社と株式会社セシルリサーチが開発。また上空からのデータ収集・分析のためにルーチェサーチ株式会社がドローンを設計し、センサ・通信関係では東京大学、シャープ株式会社、株式会社NTTドコモがICT海洋センサによるプラットフォームを提供中だ。

まず、かきの産卵を知るためにドローンを飛ばして上空から海面を観察。かきの産卵時には海が白く濁るので、AIを駆使してドローンの撮影画像から産卵の白濁を自動的に識別する。またLPWAを利用したICT海洋センサで海の状態(水温、塩分濃度など)を把握し、スマートフォンアプリで漁業者に通知する。

▲ICT海洋センサで海の状態や、かき幼生の情報などを把握し、プライべ-トLTEネットワークからスマホのアプリで漁民に通知。

そして、かきの幼生が生まれて、どのくらいの大きさに生育しているかもAIで容易に検出できる。

これらの技術によって、かきの産卵タイミングと潮流から採苗場所を予測し、採苗の効率化を図っている。海に設置したICTブイや監視センサで水質などをリアルタイムに分析すれば、食害生物を識別して通知して殻付きかきの生残率を向上させることもできる。見回りのための人件費や船のガソリン代の削減も可能になる。

▲AIを活用した「かき幼生検出システム」。かき幼生の画像を教師データとして収集し、学習させ、かきの幼生のサイズを分類。

このスマートかき養殖IoTプラットフォーム事業は、2019年度中にセンサから、データ収集・分析システム、データ配信基盤までを整備する予定だ。さらに来年度には、総合実証実験とサービス運用の課題解決に向けた取り組みも進めていく方針だ。こういった先進的な技術が地場産業の活性化につながるという意味で、非常に特異な事例になるだろう。

徳島県美波町も広島県江田島市の事例も、IoT化を進める際のポイントになっているのがデータ通信技術になる。特にLPWAは、消費電力を抑えて遠距離通信が可能なため、IoTの要素技術の1つとして重要だろう。

このLPWAを紹介している半導体商社の1つが菱洋エレクトロ株式会社。同社では、キャリアに依存せず、プライベートでネットワークを組めるLoRa通信によるソリューションを販売しているという。「LoRa」とはLPWAの特徴を満たす通信ネットワークの一つ。

▲菱洋エレクトロのブースで紹介されていたLPWA(LoRa)ソリューション。IoTを構成する通信技術としてポイントになる。

まだ国内においては、LPWAはPoC(概念実証)レベルでの導入が多いようだが、2020年までに50億台のデバイスにLPWAが採用されるという予測もある。LPWAがIoT普及の1つのカギになりそうだ。

中小企業のIoT化に最適! 後付けでIoTを実現できる技術 – 三重県

三重県は、工業地帯として大企業が多いため、大企業の周辺に数多くの中小企業がある。中小企業は、単一製品の技術に特化した強みを発揮しているものの、なかなか他の技術まで手を広げていく余裕がないのが実情だ。

そこで三重県のIoT推進ラボでは、中小企業を中心にIoTやAI関連の技術を導入する際の支援を実施している。これにより、たとえば地場で活躍するミイシステム株式会社は、工場現場の設備から簡単に制御信号を抽出できる技術「ATMICL(アトミクラ)」を開発したという。

▲クランプ型のセンサを機械の配線に取り付けるだけでIoT化が容易に可能な、ミイシステムの「ATMICL」のデモ。

ATMICLは、クランプ型のセンサを機械の配線に取り付けるだけの、後付けでIoT化が容易に行える点がウリだ。電磁誘導で発生した微小信号のON/OFFと電流を検出し、Modbus経由でPLC(シーケンサ)に信号を入力して生産設備を制御したり、それらのデータをWi–Fiモジュール経由でクラウドにアップして、分析・表示することが可能だ。

ATMICLは、「IoT化に挑戦したいが、コスト的に見合わないと諦めていた地方の中小企業」にとって、まず最初のステップとなるソリューションになるだろう。

今回紹介できたのは3事例だが、今後も全国各地のIoT推進ラボから地域を元気にするような取り組みが続々と登場することを期待したい。

*この原稿は、「CEATEC2019」において紹介された展示内容をベースにしています。

(執筆&写真:フリーライター 井上猛雄 編集:杉田研人 企画・制作:SAGOJO)

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井上 猛雄 (いのうえ・たけお)

東京電機大学工学部卒業。産業用ロボットメーカーの研究所にて、サーボモーターやセンサーなどの研究開発に4年ほど携わる。その後、株式会社アスキー入社。週刊アスキー編集部、副編集長などを経て、2002年にフリーランスライターとして独立。おもにIT、ネットワーク、エンタープライズ、ロボット分野を中心に、Webや雑誌で記事を執筆。主な著書は「災害とロボット」(オーム社)、「キカイはどこまで人の代わりができるか?」(SBクリエイティブ)などがある。