WirelessWire News Philosophy of Safety and Security

by Category

サーバー 人々 イメージ

在宅勤務で威力を発揮する「みんなのスパコン 」ABCI

2020.04.06

Updated by Ryo Shimizu on April 6, 2020, 15:52 pm JST

AI橋渡しクラウド基盤という計算資源があることは、未だに一般によく知られていないのは非常にもったいないことであると僕は思う。

AI橋渡しクラウド基盤は、名前が長いので、略してABCIと呼ばれている。
スパコン(スーパーコンピュータ)としての性能だけに注目すると、運用が開始された2018年時点で世界5位と、そこまで凄い性能を持っているわけではない。

ところがこれはおそらく本邦初の、「誰でも使える深層学習スパコン」であることに意味がある。
もちろん、これまでにも、京スーパーコンピュータや、東工大のTSUBAMEなど、外部から利用できるスパコン的なものはあるにはあった。

あるにはあったのだが、基本的にそういうものは「文部科学省」の管轄なので、商用利用しようとすると大きな制約がかかってしまう。したがって、なんでもいいから使ってみよう、というわけにはいかなかったのである。

ところが、ABCIは、経済産業省の管轄なので、基本的にはこのスパコン(ABCIはほんとうはスパコンではないのだが、便宜上スパコンと呼ぶことにする。ハード的にもソフト的にもほとんど同じものなので)は、中小企業を含めて、とにかく国内に住んでいる人であれば誰でも利用することができ、ここで開発した成果を使ってお金を儲けてもいい、という稀有な公共スパコン なのである。

そしてこれは最初はすごくとっつきににくいのだが、最近マニュアルが整備されてきてだいぶ使いやすくなったので、在宅勤務で自宅で2000Wの深層学習マシンをブンブン回すわけにもいかない僕みたいな人間にとっては、ものすごくありがたいのである。

また、ABCIは利用料金がべらぼうに安い。
民業圧迫と言われても仕方ないくらいのチート値で、だいたい海外のクラウド会社の製品の1/4くらいの価格で利用できる。しかもプレペイド式なので、「わーんいつのまにかクラウド利用料が3桁万円いってたよー!助けてドラえもん!」みたいなことにならない。しかも20万円から使える。

20万円ていったら、深層学習マシンを買うよりも安い。20万円でポイントを発行してもらって、そのポイントを使って学習を走らせるのだ。

しかも学習自体も、まる三日までなら予約は不要だし、最大30日連続でぶん回すことができる。
計算ノード数は1000以上あり、1ノードあたりGPUが4枚ずつ載っているので、これを活用しないのは全く人類の損失としか言いようがない。

https://abci.ai/ja/

普段は社長業の合間に paperswithcodeを眺めては面白そうな論文の実装を追試したりしているのだが、最近は重たいタスクがやたらと増えてきた。

しかも、追試をしてみないと本当にそれがちゃんと宣伝文句の通りに機能しているのか確かめる方法がない。

たとえば先日面白いなーと思ったのは、一本の動画を見せると、一枚の画像から同じような動画を作ってくれるというものだ。

これは、左の動画を入力し、上段の静止画を見せるだけで、下段のような動画が生成されるというデモだ。
しかも、人間の姿だけじゃなくて、顔とか、アニメとか、いろいろできる。

これはすごい。こんなことやってみたい。
とりあえず外人のファッションショーみたいになってるから、たとえば佐々木希とかを入力しても同じように再生されるのか、体型がだいぶ違う篠崎愛ならどうか、アニメのキャラクターならどうか、などなど試したいことが山ほどでてきたので、とりあえず配布されていた事前訓練済みモデルを使って、推論させてみた。

結果はこれである。


動画

KONOZAMA!
いや、確かに、なんかそれっぽいものがそれっぽい模様でそれっぽく動いてはいるが、コレジャナイ感が半端ない。
どうなってるんだ。サンプルの動画はフェイクなのか?それとも事前訓練済みモデルのいいやつは配布できないのか?

だから世の中のオープンソースというのは最初からかなり眉に唾をつけてやらなければならないのである。

最初は自宅に置いてあるマシンで試したが、ぜんぜん学習が進まないので、次に長岡に置いてあるプロ用の強力なマシンを使ってみたがこれも遅い。

仕方がないからもうこれはABCIを使うしかない、と思って久しぶりにマニュアルを引っ張り出してABCIに投げ込んで、あとは待つだけなのである(イマココ)。

しかしABCIを使ったとしても、もとのソースコードがマルチノードに対応していないので、せいぜいGPU4枚で試すくらいしかできない。もしもマルチノード学習に対応していれば、一気に複数台で同じコードを走らせて分散学習することもできる。実際、ソニーのチームはABCIを使ってNNablaでImageNet学習の世界最速記録を作った

もう一つの選択肢として、TITAN RTXを8枚挿した4Uサーバーを発注しようかと思ったが、そもそも2000万円くらいかかる上に中国の工場がやってないので生産できない。2000万円払って何ヶ月も待つくらいなら、ABCIに今すぐ20万円払うほうがはるかに経済的なのである。

ただしABCIは、いわゆる商用サービスではないため、利用開始の手続きに少し時間がかかる。そして現在のところ、法人でないと申し込めないなどの制約がある。

Web上でクレジットカードを登録してさあ使おう、というわけにはいかないところだけが悩みどころだが、サポートの人たちも親切だし、懇切丁寧に教えてくれるから、根気よくやればあとはスパコン天国があなたを待っている。

とにかくこんなときだからこそ、まあ在宅勤務で通勤時間がなくなったぶん、多少は時間と心の余裕もあるだろうし、日本に住む人全て(つまり外国人も含む)の人が利用可能な計算機としてABCIが解放されているんだから、これを使わない手はない。

また、当たり前だがABCIはビットコインの採掘など、ブロックチェーン関連のものには使うことができない。

ABCIの利用の流れ

WirelessWire Weekly

おすすめ記事と編集部のお知らせをお送りします。(毎週月曜日配信)

登録はこちら

清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。

RELATED TAG