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日本が誇る品質はイスラエルの技術に支えられている?(前編)

OptimalPlus社 自動車事業部門バイスプレジデント Uzi Baruch氏に聞く

2020.08.19

Updated by Hitoshi Arai on August 19, 2020, 11:56 am JST

6月の記事、オーカムマイアイ開発者、ヨナタン・ウェクスラー博士に聞く、に続き、再びイスラエルの優れた企業・技術者に取材することができた。今回は、SivanS社の協力を得て、OptimalPlus社自動車事業部門バイスプレジデントUzi Baruch氏の取材が実現した。

OptimalPlus社(以降O+)は、特に半導体メーカーや自動車メーカー向けに、その製造や試験に関する大量のデータをAIを駆使して分析し、製造効率の改善、製品品質の向上に寄与する技術を提供している。2005年に創業したスタートアップだが、15年間で5ラウンドの資金調達をするなど着実に成長を遂げ、この6月、世界がCOVID-19に振り回されている中で、アメリカのナショナル・インスツルメンツ(以降NI)に$365M(約380億円)で買収された。

取材したUzi Baruch氏は、同社の自動車事業部門バイスプレジデント兼ゼネラルマネージャーであり、2016年にR&D担当のVPとして参画した。それ以前は、コンタクトセンター向けソリューションで世界的に有名なNICEでソフトウエア開発者からR&D部門のVPとなるまで12年間活躍した。大企業での多くの経験を積んで実力を付けた後に、中小企業へ移って自分の力を生かした新しい挑戦をするというのは、イスラエル人に良く見られるキャリアパスである。さらに、参加したO+がグローバル企業であるNIに買収され、その活躍の場が世界に拡がるというのは、羨まれる成功といって良いだろう。

実はこの取材まで、O+という企業についての知識は名前だけで、そのビジネスやソリューションについては知らなかった。調べてみると、彼らは半導体、自動車、エレクトロニクスという分野で、「データ解析」を元にして製造工程や製品の品質と信頼性を高めるための技術を提供している。「品質」といえば日本企業・製品の強みであり、自分の経験からもイスラエルと「品質」というキーワードは正直あまり結びつかなかったので、逆に大変興味を持った。創業の経緯から思い付くままに質問をしたが、Baruch氏は大変丁寧に答えてくれただけでなく、その言葉の中にアントレプレナーの考え方についてのヒントも見えた。以下、Q&Aの概要を記す。


Q:まずご自身のバックグラウンドについて簡単に教えていただけますか?

Baruch氏:私は今、44歳です。兵役はコンバットユニットでした。兵役後には、イスラエル最大のソフトウエア企業であるNICEに入社し、ソフトウエア開発を担当しました。働きながら大学でコンピュータ・サイエンスを学びました。NICEには12年間在籍し、開発者からR&DのVPまで多くの経験をしました。5年前にスタートアップ企業のO+へR&DのVPとして移りました。イスラエルの面白いところだと思いますが、大企業で多くを学んだ後に中小企業へ行ったのです。最初の2年半は、R&Dを担当しましたが、その後はビジネス側へ移っています。グローバルチームと共に、我々のソリューションをプロモートしており、もちろん日本の自動車会社にもコンタクトしています。

最近のトピックスとしては、丁度、1カ月半前にO+はアメリカのNIに買収されました。我々は世界的な企業であるNIの一部となったわけで、とても誇りに思っています。

Uzi Baruch氏

筆者注)
わざわざ兵役がコンバットユニットであると教えてくれたのは、自身がごく普通の若者であったことを示している。また、働きながら大学で学び学位を取る、というのもイスラエルでは普通に見られるケースだ。無論、兵役後に4年間大学に通う若者も多いが、早く世に出たい若者は働きながら学ぶ。企業もそれに協力して勤務もフレキシブルに対応するので、日本の夜学のようなイメージでは全くない。働きながら学んだ普通のエンジニアがNICEのような大企業で12年間でR&DのVPにまでなる、というのは無論本人の実力がある故だが、制度がガチガチの日本企業ではなかなか考えにくいことではないだろうか。O+創業からM&Aまでの経緯は、スタートアップネーションセントラルのO+のページを参照すると良い。

Q:O+の創業者Dan Glotter氏はインテルで働いていたとのことですが、O+のソリューションのアイデア、それに対するニーズはインテルで見つけたのでしょうか? 創業時のエピソードを教えて下さい。

Baruch氏:Danは15年前にO+を創業しました。彼はインテルの工場をイスラエルに作るためのチームの一員でした。アントレプレナーというのは、常に疑問を持ちながら物事に対応しています。彼は、半導体製造後工程(注1)のテストオペレーション担当で、当時の半導体のテスト方法にはいろいろと改善の余地があることに気付いていたのです。テストというのは、その測定結果の良否を判断するためのものだけではなく、とても良いフィードバック・メカニズムなので、テスト結果を集めて統計的に解析し、ウエハー間、ロット間の比較をすれば、より良い製造プロセスを構築することができるのです。

また、KLAのようなプロセス制御の企業から前工程のデータをもらい、我々の後工程のデータと組み合わせてトータルで解析することで、プロセス全体の解析・改善もできるようになりました。

我々は、最初は半導体のテスト工程にフォーカスしました。会社の規模も小さいので半導体という一分野に集中し、データを測定し、統計的に解析する手法、最適化の手法、品質を改善するだけではなくオペレーションの効率も改善するアプリケーションも開発しました。

そして5年前、半導体のために開発したこれらのアプリケーションの多くは、自動車の製造工程でのデータ解析にも使えることが分かったのです。

注1)
後工程とはウエハー上にLSIを製造した後の、ウエハーのソーティング、ファイナルテスト、アセンブリ、パッケージングなど。

Q:半導体と自動車、二つの異なる業界で、メソドロジーを共有できるということを見付けたのですか?

Baruch氏:そうです。半導体では、既にシリコン上に回路ユニットができ上がっているので、後工程では機能の解析もできるし、他のユニットの動作との比較もできます。自動車も、最近は電子化が進んで、ADAS(Advanced Driver Assistance Systems:先進運転支援システム)などの様々な電子部品が搭載され、大量のデータを生成し、部品同士が相互に通信している回路のようなものです。だから、考え方は同じなのです。さらに、自動車という従来の機械にこれらの半導体・電子部品が多く使われるようになったので、システムとしても複雑になっただけではなく、半導体産業と自動車産業はサプライチェーンでもつながるようになりました。

Q:日本は「優れた品質」の製品を作ることで知られており、それが我々の強みだとも思っています。トヨタで生まれた「カイゼン」という日本語はそのまま世界に「KAIZEN」で通用します。一方で、O+は優れた品質を獲得するためには、データを集め、AIを用いて解析し、フィードバックすることが必要だといっています。システムの複雑さ、あるいは何らかの指標で、このレベルまでは現場の技術者が工夫する日本のカイゼン方式で品質を担保できるが、それ以上になると、O+のようなアプローチが必要になる、というような閾値のようなものがあるのでしょうか?

Baruch氏:特にそのような指標があるわけではありませんが、製造業では誰もが高い歩留まりを追求します。自動車も、従来のエンジンからハイブリッドや電気などの電動化(エレクトリカル・モビリティ)が進み、インフォテインメントシステム(注2)も必須となり、自動運転化も進んでいます。このような傾向は、個別要素・部品の信頼性が求められるだけではなく、製造工程・システムの複雑さを一段と増加させています。このような世界では、仮に既存の考え方で高い歩留まりや信頼性を確保したとしても、その後にリコールに直面することがあります。既存の考え方で示された信頼性が本当に正しいのか、何かチェックすべき点を見逃しているのか、を理解せねばなりません。

O+のソリューションは、既存のやり方では見付からない可能性がある問題を見付けることを手助けするのです。我々は、製造工程のあらゆるポイントからデータを取得し、それらをつないで考えます。特定のポイント、特定のステップを見て、99.999%の信頼性である、と評価するのではなく(無論それもやりますが)、多くの異なる要素から取得するデータのコンビネーションから、複雑なシステムの問題を見付け出すのです。ブレーキのような機構部品もコンピュータに接続され、ソフトウエアで制御されるシステムになっています。個別部品の信頼性ではなく、全体のコンビネーションが挑戦すべき課題を生み出しています。誰にとっても、この傾向を無視することはできません。

注2)
インフォテインメントシステムとは、カーナビやオーディオと一体化して、車のあらゆる情報を総合的に管理するシステム)

※後編へつづく。

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新井 均(あらい・ひとし)

NTT武蔵野電気通信研究所にて液晶デバイス関連の研究開発業務に従事後、外資系メーカー、新規参入通信事業者のマネジメントを歴任し、2007年ネクシム・コミュニケーションズ株式会社代表取締役に就任。2014年にネクシムの株式譲渡後、海外(主にイスラエル)企業の日本市場進出を支援するコンサル業務を開始。MITスローンスクール卒業。日本イスラエル親善協会ビジネス交流委員。E-mail: hitoshi.arai@alum.mit.edu