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これからの意思決定者に求められる資質

2020.12.09

Updated by Ryo Shimizu on December 9, 2020, 16:30 pm JST

飯塚修平著の「ウェブ最適化で始める機械学習」を読んだ。先月出たばかりの本だが、コロナ禍でなかなか会社にいけなくて受け取るのが遅くなってしまった。

一言で言って、素晴らしい本である。
テーマはタイトルの通り「Web最適化」ではあるが、実際にはもっと重要な示唆とヒントを与えてくれる良著になっている。なによりも、体験的に「最適化」を試せるのが素晴らしいのだ。

特に最後の章の「ベイズ最適化」によって、自分の欲しい色をコンピュータに推測させるというくだりは興奮した。久しぶりにページを繰りながらコードを入力し、その考えかたの見事さに舌を巻き、感動する体験ができた。

企業においては、意思決定者の意思決定がなにより大事だ。しかし、意思決定というはしばしば、いや、大半のケースで間違うのである。間違ってることに意思決定している人自身が気づいてないというのはもっと大きな問題だが、本欄を読むような賢明な読者諸氏ならば、人の意思決定がたいていの場合、間違っていることは経験的にも理論的にもよくご存知だろう。

「ウェブ最適化」とは、人間の意思決定には意味がないか、ほとんど意味がないという前提に立ち、Webサイトの設計そのものをAI的(AI的、というのはいわゆるAIとは違うとも違わないとも言えるからだ)に作り、訪問客に対してどのように情報を掲出するのが理想的かを考えるものである。

WebのデザインごときをAIに頼らなければならないのは、それだけ人間の想像力では追いつかないことが少なくないからだ。
オバマ大統領のWebサイトでは大々的にこのWeb最適化技術が導入され、効果を発揮したと言われている。いまや世界の一流企業ではWebサイトをAI的な手法を用いて自動的に最適化するというのは当たり前の前提なのだ。

これ、あくまでも「ウェブ最適化」であって「サーチエンジン最適化(SEO)」ではないことに注意されたし。この2つは全く別のものであり、サーチエンジン最適化は、気をつけないと全くの徒労に終わることもある。

さて、「最適なWeb」を作るということは、「最適なWeb」とはなにかを決める「意思決定」をAI的なものに委ねるということである。

これの重要なことは、デザインのような極度に人間のクリエイティビティや才能に依存していたものの採否の判断を機械に委ねるている点だ。

通常、デザインを決定するというのは、その会社のクリエイティブディレクターだったり、もしくは最高経営責任者だったりする。

ところが、最高経営責任者はデザインの専門家ではない。
したがって「良いデザイン」がわかるわけではない。逆に、クリエイターは「良いデザイン」はわかるが、「売れるデザイン」が常にわかるわけではない。つまり、実際にはどちらも、「Webサイトのデザインを決定するには能力不足」なのである。

その昔、ソフトバンクの孫社長は、携帯電話業界に参入したときに、トップページの文字の色にまで気を配ったと言われているが、それはあくまでも当時の携帯電話が非常に表現力の低い端末ばかりだったからだ。

GoogleやMicrosoftのBingでA/Bテストを導入し、自動的にデザインを決めることにした。
それが唯一、正しいと思える解決策だったからである。

もちろん、理想的な文字の大きさや色合いといったものは人によっても異なる場合がある。
真に理想的なWeb最適化とは、一人ひとりの好みにあわせてコンテンツが最適化されることだろう。

いわばWebのAI化である。

本書はWebがAI化されるべき理由と、そうしていくための具体的な方法論を提示し、理論面と実装面の双方からの解説を行っている。

その意味で、21世紀の意思決定者に求められる資質とは、思い切って任せるべき判断をAIに任せる、ということではないだろうか。

意思決定者が決定するのは、「ある意思決定をAIに任せるか、任せないか」ということだけであり、任せない場合は、もっと合理的な理由を説明しなければならない。なぜならたいていの意思決定はAIの方が優れているからである。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。

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