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会社経営の真実がわかる277ページ

2020.12.11

Updated by Ryo Shimizu on December 11, 2020, 09:43 am JST

会社に郵便が届くと、最近は僕の手元にくるまでにタイムラグが有る。
昨日、届いていた本を見たら、あまりのヒキの強さに一気に全部読んでしまった。

本書は筆者の友人でもある合同会社ゲンロンの東浩紀氏による、「経営奮闘記」である。
東氏は数年前に体調を崩して合同会社ゲンロンの代表を交代するが、そこに至るまでの10年間にも及ぶ紆余曲折と苦悩といったものがあまりにも赤裸々に描かれている。

筆者の知っている事件もあれば、知らなかった事件もあり、彼がどれほどの苦労をしてこれだけの会社を経営してきたのかということがわかる。

会社を10年続けるというのは非常に大変なことだ。
10年間成長を維持するというのはもっと大変である。

本書の中で、東氏はなんども同じ失敗を繰り返し、その度に学ぼうとし、苦悩し、しかし必ずそれを乗り越えていく。
同じ経営者として、同じような失敗は筆者も幾度も経験したし、社員全員にバカにされているような気分になって会社が嫌いになった、というあたりもそっくり思い当たる節がある。

創業者というのは会社そのもののようでいて、実は違う。そのことに気づくまでには長い時間がかかる。
挫折と復活を繰り返して、ついに念願の自社による映像配信プラットフォームのスタートにこぎつけたのは東氏および現代表の上田氏による執念の賜物だろう。

たまたまだが、筆者は東氏が後に「失敗」と振り返っている2つのプロジェクトと「救世主」と振り返っている一つの事業に関わっていた。
ただ、今振り返るとたとえ「失敗」だったとしても、あの頃、東氏が語ってくれた夢を筆者は今でも信じているし、それが結果として読者に受け入れられなかったというのは皮肉だし残念なことだと思う。きっといつかあの仕事が再評価される日が来るはずだと思っている。

ゲンロンという会社は日本にある企業のなかでもかなり特異な存在で、東氏個人の能力を直接拡張したような要素が散りばめられていた。これが結果的に、代表を交代し、少し会社と距離をとることで、実はうまく回るようになったというのは非常によくわかるし、身につまされる思いもある。

経営というのは思い通りに行くことはめったに無いし、規模が大きくなるほど結果が出るのはかなり先だったりする。
その中で経営者は悩み、のたうち回り、なんらかの出口を見つける。経営とは出口を見つけることである、と言ってもいいのかもしれない。

もしもあなたが起業しようとするのなら、悪いことは言わない。やめたほうがいい。
実際、筆者は起業したいという人にはほぼ100%、「やめたほうがいい」と言うことにしてる。それはほぼ100%真実だからだ。

筆者自身、経営者を20年近く続けているが、やめておけばよかったと思うことは未だにある。
先日、後輩が上場を経験して、その上で欲しい物がマンションか車、という話を聞いて愕然とした。それはサラリーマンをやっていれば、普通に手に入るものではないのか。それとも他人よりもいい家といい車が欲しいのか。なんのために?

そしてそんなものを得るための代償としては、経営というのはあまりにも苦しみの多い仕事なのである。
それでも経営者でいるべき唯一の理由があるとすれば、自分の人生の目標と会社の目標が同じ方向を向いているときだけだ。

人生の目的を達成するための手段として経営者という道を選ぶのならば、そこで直面する問題や苦悩といったものは、現世を生きる苦悩そのものであり、行きている限りそこから逃れることはできない。

東氏はだからこそ悩み、苦悩し、その中から少しでも人生の目標を達成しようと、すなわち本書で触れられているように、経営することこそがその人にとって人生の本質であり哲学の実践であるならば、やるしかないという結論に至るのである。

経営にとってお金儲けとは本質的な目的ではない。お金儲けができなければいけないことは間違いないが、お金儲けそのものを目的化すると経営の本質を見誤る。

自分がどれだけ世の中の役に立ちたいか、それはほんの小さなさざ波のようなものかもしれないが、どれだけ社会にインパクトを与えたいか、社会をどう変えていきたいか、その使命をミッションと呼び、真の意味でのミッションを達成するためには副次的にお金儲けをしなければならないのである。お金儲けを目的にすると本質を見誤るが、お金儲けをしない選択をするとやはり本質を見誤る。

「Call of Duty」というゲームがあって、世界的な人気作となっている。この言葉の意味は非常に広いが、筆者が最初にこのタイトルを聞いた時、イメージするものは「義務の呼び声」であった。

dutyとは、義務、本文、任務、関税といった意味があり、日本語にしてしまうと意味がバラけるが、意訳すれば「やりたいかどうかに関わらず、やらなければならないこと」であると言える。「on duty」は勤務時間中、という意味になる。

経営が自分のdutyだと思えるかどうか、もしもそれをdutyだと思えるのならば、必然的にお金儲けをしなければならない。それこそがdutyなのだから。

しかも自分の人生の目標に合致し、社会を変えていく駆動輪としてのお金儲けである。現在、どのような社会でもお金儲けを前提としない仕事はない。お金儲けの基本は、「買った人が得をする商品」を作ることだ。しかし、社会を変えたいという欲望が根底にある時、どんな新しい価値を提示すれば「買った人が得をする」のか、考え続けなくてはならない。

ゲンロンにとってそれは、「考える場所」だった。考えるきっかけになる洞察をいくつも提示することで、読者や聴講者の想像力を刺激し、「買った人が得」をする状態を作り上げた。出版事業もイベント事業も配信事業も根本的には「買い手に考える場を提供している」という価値を提供している。

「経営について考えるきっかけ」として、本書は非常にためになる。
本欄の読者諸氏にはご一読をお勧めしたい。

ゲンロン戦記

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。

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