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イギリス政府業務のDX、日本は20年遅れている

DX of UK government administration

2020.12.18

Updated by Mayumi Tanimoto on December 18, 2020, 16:14 pm JST

イギリスは、政府業務のデジタルトランスフォーメーション(DX)という点では、私のざっくりとした感覚では日本の20年先を行っています。イギリスの2000年ぐらいが今の日本の感じでしょうか。

日本では、イギリスについては伝統と古臭さが支配するようなイメージを持っておられる方が多いようですが、実はデジタル化に関してはとても大胆で、かなり斬新なことをやっています。

例えば政府の事務に関してですが、その多くがデジタル前提で、アナログでの処理が徹底的に廃止されています。対納税者の事務作業だと、対面業務や紙がほぼ完全に近い状態で存在しません。

「対面業務がない」とはどういうことかというと、例えば市役所の「窓口」がない、対面での相談がない等です。窓口がないので、市役所に行く用事がありません。

日本だと、どこかに引っ越すと、まず住民登録で市役所の窓口に行くわけですが、イギリスだとその「住民登録」業務自体がないのです。

住民税の支払いはどうなるかというと、その住宅の所有者が支払う義務を負い、賃貸に出している場合は賃借人が払うので、住民登録という作業が必要ないのです。不動産を取得すると、納付書が自動的に送られてきて支払って終わりです。住民税で問題がある場合は市役所に行く場合もありますが、これは特定の場合だけです。

次に国民年金ですが、これも業務が国に統一されているので市役所に行く必要はありません。国のウェブサイトですべての申請や変更を完了させられます。国民健康保険も国に統一で、これは番号が年金と同じなので、国のウェブサイトで処理完了です。確定申告も国が一括でやるのでこれまたウェブサイトで処理完了です。

国民健康保険は、保険証がありません。国立病院の登録番号しかないので、保険証申請や発行事務もデジタルで完了。家に紙の保険証が送られてきて終わりです。

対面での手続きが必要なのは、出生届けと死亡届けだけです。

疑問がある場合の相談はどうするのかというと、電話、メール、チャットでの受付のみで、窓口での相談はほぼ一切ありません。電話に出る人は地元の市役所の人ではなく、スコットランドやウェールズ、インドのコールセンターの外注業者です。

また罰金、使用料金、税金等の支払が発生する場合は、支払いはクレジットカード、デビットカード、銀行振り込みしか受け付けません。銀行振り込みもデジタル前提で、大手銀行の各口座からの支払いの画面には行政サービスの支払メニューがあって、振込先を選択できるようになっています。納税者はリファレンスナンバーを入れるだけです。

デジタル化するに当たって、「既存の業務のどの部分のデジタル化をするか」ではなく「最初から対面業務が存在しないのを前提」でサービスのプロセス設計をしているのです。

デジタルに対応できない納税者は切り捨てる状態になっているのですが、完全に見捨てているわけでもありません。民間の非営利団体にお年寄りやネットがない人を支援する団体があり、サービスの足りない部分を補完する仕組みになっています。そういう団体の運営資金の一部は行政から出ていますが、企業や個人からの寄付もあります。

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。