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AI接客による焼肉店営業 その可能性

2021.06.15

Updated by Ryo Shimizu on June 15, 2021, 08:15 am JST

筆者が経営するギリア株式会社で開発した会話AI「GheliaM」を用いた、AI接客による焼肉店営業を昨日開始した。
とは言っても、実験営業の段階なので完全予約制で知人を中心に呼ぶことにした。

記念すべき初日は、株主でもあるコンサルティングファーム、株式会社シグマクシスの方々が四名いらした。

本来はAIについて広範な知識を語る「GheliaM」を焼肉店向けにデチューンし、注文を取ることができるようにした。
注文を取るだけではなく、料理の説明を聞いたり、GPT-3を利用した「それ以外の雑談」にも対応する。

実験の現場として選んだのは、六本木の格之進R+という焼肉店。

格之進では、インスタグラマーのJerremy氏とコラボした「ジェレミーコース」が人気とのことで、ジェレミーコースを中心に飲み物の注文などを受け付けるようになっている。

緊急事態宣言下なので酒類の提供がなく、シナリオを作りやすかったのも良かった。
普段は大勢のお客さんがいる人気店でこういう実験は無理だが、人手が少ないのを逆手にとってこういう実験の機会を賜われた。

注文が入ると、このようにGoogle Spreadsheetに注文が追記され、スピーカーで大音量で注文が入ったことを知らせる。

GheliaMはブラウザ上で動くので、こんな感じでWebアプリとも簡単に連携できるようになっている。

都内で14店舗を展開する格之進では、コロナ禍で深刻な人手不足に悩んでいた。
お客さんが来てもフロアスタッフが足りず、それが理由で閉店を検討していたという。

また、格之進の場合、全ての店舗で微妙に業態が異なるため、料理の説明が非常に複雑になり、アルバイトの店員ではきちんと説明できないケースも少なくなかった。

読者の中には「なぜ大衆居酒屋チェーンのようなタブレット端末を使わないのか」と疑問に思う方もおられるだろう。
実は、格之進のような業態では、タブレット端末に合わせたコンテンツを作るのはかなり難しい。インスタグラマーとのコラボでメニューが増えたり、緊急事態宣言や蔓延防止措置でメニューが増えたり減ったり、そもそも焼肉店は、仕入れの都合でメニューが増えたり減ったりということが数多く行われる。非常に頻繁にメニューの入れ替えがあるのでその都度タブレットのコンテンツを作り直すのは難しく、そのための専用のスタッフを雇う余裕はない。

仕込みで忙しい厨房でコンピュータを操作してメニューの整合性を取ったり、リッチなタブレットに合わせて料理の写真を撮影するなどのコストを毎日かけることはできないため、言葉だけでやりとりできるロボットが適切と判断した。

また、新メニューの追加など、スクリプトの変更は店員が口頭でAIに指示することで行うことができるため、コンピュータリテラシーが低い地方のアルバイト店員でもAIのスクリプトを変更することができる。

そもそも料理や材料の質やストーリーにこだわる格之進としては、ただ料理を提供するのではなく、料理の背景にあるストーリーを知ることによってより深い味わいを得て欲しいという願いがあり、客と会話によって接客するAI接客のアイデアを話すと格之進を展開する株式会社門崎の千葉社長は非常に前のめりで協力してくれることになった。

GheliaMの造形は周囲の環境に溶け込むことを意図して、背景や光源となる部分は格之進の実際の席で360度写真によって撮影した環境マップを元にしたグローバルイルミネーションで、話しかける際にはPoseNetで挙手を検出することもできるが、今回の営業では非接触USBスイッチに手をかざしている間だけ話しかけるような仕様にした。

GPT-3を利用した雑談にも対応しているため、開発者が意図してない話題も拾うことができる反面、おかしなことを口走らないようにヒューリスティックなNGワード検出器を別途作り、トラブルを防いでいる。

会話ログは全てSlackに記録され、不自然な会話に対して開発者がスクリプトを修正していく。
一度修正すれば、この修正ノウハウは接客業である限り何度も使いまわすことができる。

これを繰り返すことで一種の「秘伝のタレ」のような接客会話スクリプトを開発することがこの実験の大きな目的の一つだ。

音声認識と音声合成には現在のところ、Google Speech APIを利用しているが、ここはモジュラー式になっていていつでも他のものに交換することができる。Google Speech APIは概ね快適なのだが、ローカルの音声認識に比べると反応速度に課題が残る。

格之進の千葉社長は、こうしたAI接客に、単なる「注文とりロボット」以上の価値を見出しているようだ。
千葉社長は「何気ない会話をお客様とAIが行うことで、これまで取りこぼしていたお客様の隠れたニーズや料理への定量的なフィードバックを収集することができる。それを元に新メニューの開発や既存メニューの改善といったことに繋げていきたい」という。

緊急事態宣言が明けた後は、酒類の提供にも対応し、ワインとのマッチングや提案もできるように拡張することを考えている。

実際、ワインのマッチングについては、すでに多言語対応のセンチメント分析でワインの特定の表現に対応するテイスティングメモを検索する実験には成功しており、複数のソムリエから「推薦されるワインに妥当性がある」との評価も得ている。最終的にはAI店員に対して「こんなワインが飲みたい」と言うと「ではこちらのワインはいかがですか」と案内できるようになるはずだ。

ソムリエの仕事は、単にワインを推薦するだけでなく、ワインを吟味し、AIが理解しやすい表現を考えるというよりクリエイティブなものに変わっていくだろう。これは新しい時代に出現する、表現労働である。

記念すべき初日の営業では、4名に対してフリードリンク2杯つきのコースを提供し、4万3120円を売り上げた。
AIが自ら稼いだ売り上げとしてはまずまずではないだろうか。

今月の実験は今週木曜日までだが、来月以降も実験を繰り返し、実用化に向けての可能性を検討していきたい。

ちなみにギリア株式会社は現在PMと営業マンを募集している。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。

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