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最速の仕事術は人工知能が知っている

2021.09.22

Updated by Ryo Shimizu on September 22, 2021, 14:27 pm JST

本を書いていると、時たま「これは会心の一作ができた」と思うことがある。
その手柄の多くは、編集者のものだ。

最速の仕事術はプログラマーが知っている」はそんな本の一つで、これはもう編集を担当した長谷川さんが企画書を持ってきたときにほとんど目次が完成していて、「なんてすごい編集者なんだろう」と舌を巻いた記憶がある。

何がすごいって、目次の時点で「これは売れる」と思うような内容だったのだ。

そして、他の誰でもなく僕にこの本を書いて欲しいと持ってきてくれたことが、僕はとても嬉しかった。
はっきり言って目次の時点で完成しているので、プログラマーと名乗る人であれば、誰だって書けたはずだ。
しかしそこを敢えて僕に企画を持ってきてくれた。これはもう、目次以上の内容をうんと詰め込んでやる、と気合が入ったのをよく覚えている。

昨日久しぶりに、この本の編集者とビデオチャットで話をした。
彼は今は別の出版社で活躍していたのだが、この本をきっかけに、彼の大学時代の友人が文系からプログラマーへ転職し、今は某有名ゲーム会社でプログラマーとして働いているらしい。すごい。そこまでしなくてもいいのに。

とはいえ七年も前の本なので、今読み返すとちょっと古い。
今ならもっといい道具があるし、そもそも稟議書とか紙で出す時代じゃない。

同じ企画でもう一度仕事術を見つめ直すと、どんな本ができるだろうかと考えると、やはり表題のような本になるだろう。
つまり、「最速の仕事術は人工知能が知っている」のである。まさに今の時代はきっとそうなる。

たとえば周囲の女性は、テレワークになったことで化粧をする回数が格段に減ったという話をよく聞く。
移動すらしなくていいので、服も靴も買い換えなくなった。

僕も、自分のブログなどに使う写真を探すのが毎回困っていたが、今は自ら開発したAIサービス「Gakyo」で、欲しいテーマの絵をAIに描かせている。

日々の論文探しもまた、自ら開発したAI論文閲覧サービス「arxiv-viz」で、各論文の図版を視覚的にサーベイしている。

論文読みを視覚化したことによって、むしろサーベイできる論文数が上がり、もともとはコーネル大学論文アーカイブのAIカテゴリだけをサーベイしていたのだが、最近はロボティクスなど他の分野も同時にサーベイできるようになった。論文を読むときはまず迷わずGoogle翻訳やDeepLを使う。この方が早く論文の論旨を掴める。

英作文にはGrammarlyを使うことで海外の友人とのやりとりも齟齬が少なくなったし、最近は言葉から無料の写真素材を探すサーチエンジンも作った(一般公開はしてない)。これもまた便利である。

最近はWebサイトを作るAIというのも作っている。Webサイトのようなのは、どう考えてもAIが作るべきなのだ。

そもそもプログラミング自体にもTabnineというAIによるコーディング支援ソフトを使うのが当たり前になっている。

また、筆者の会社では高度なAIはAI自身に設計させるようになっている。AIによって設計されたAIは、人間が設計するよりも100倍から1000倍高性能だ。その上、1/100から1/1000という小さいパラメータ数になるので、これまで人間による設計では不可能と思われていたことが簡単にできてしまう。AIによる設計を行わないAI開発会社は、全てAIによる設計を行うAIによって駆逐されてしまうだろう。実際のところ、AIの設計など、人間がやるべき仕事ではないのである。

つまり、まさに僕の生活は今、AIによって支えられているのだ。
仕事の大半がAIを研究することとそれを活用することなので、これは理にかなっている。

最近は大学の講義や会社のプレゼンもAIにやらせることができないかと考えている。
下手をすると、僕が講義をするよりAIが講義をした方がずっといいのではないだろうか。

質問にはきめ細かく答えてくれるし、「ああその話をもういちどするのは面倒だ」という僕の気持ちもわかってくれる。
理想の相棒・・・というか理想のTAである。

実際、春に東京ビッグサイトで開催した「AI・人工知能EXPO」では、AI説明員というのを置いた。
このAI説明員が便利なのは、僕が同じ説明を二度しなくて済むところである。

今のところAIによって完全に代替できないのは、意外なことに、秘書や営業の仕事だ。
秘書は予想以上に万能であり、AIがそう簡単にはできないことを軽々とやってのける。営業も然りだ。

もちろんAIにできることで秘書ができないことも少なくないが、秘書にできることでAIにできないことは無数にある。
たとえば郵便物の受け取りやお礼状の手配、僕が会議に遅れないように見張ることや、周囲への気配り、慶長金の手配や面倒な交渉ごと、営業ならば、クライアントの悩みを聞き、一緒になって悩みごとを解決するために相手の立場になって寄り添う。一緒に苦しみ、一緒に笑う。そう。人間にしかできない仕事というのは、知能よりも気配りや思いやり、真心が要求されるような仕事なのだ。

それ以外のこと、たとえば具体的な設計とか、分析とか、計画立案とかは全部AIにやらせた方がいい。
それは、表計算が普及して、みんな手で計算をしなくなったのと同じように、検索エンジンが生まれたことで、誰もインターネットを当てどなく彷徨うことをしなくなったように、自動車が発明されて、旅かごや人力車が使われなくなったように、自動化による恩恵を得るというのは時代の流れそのものなのだ。

そして自動化されていない仕事をするのに、人間はもっとじっくりとゆったりと時間を使うべきなのである。
何をなすべきか考えることにたっぷりと時間を使い、精いっぱい、相手を思いやることにも時間を使う。
それが結局のところ、相手の喜びも自分の喜びも大きくする近道なのだ。

したがって、もはや最速の仕事術を知るのは人間ではない。AIしか知り得ないのである。

あ、本一冊書けるかと思ったけど結論出ちゃった。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪した末、 '17年にソニーCSLとWiL LLC.とともにギリア株式会社を設立し、「ヒトとAIの共生環境」の構築に情熱を捧げる。 '17年より東京大学先端科学技術研究センター客員研究員を兼務。著書として「教養としてのプログラミング入門(中央公論社)」「よくわかる人工知能 (KADOKAWA)」「プログラミングバカ一代(晶文社)」など。

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