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『まなざしの革命 世界の見方は変えられる』

デジタル化がもたらす管理される社会

2022.02.14

Updated by Chikahiro Hanamura on February 14, 2022, 13:41 pm JST

昨今、オンラインによる買い物、会議、セミナーなど日常生活のデジタル化が加速している。デジタル化した社会の暮らしは便利になる一方で、そこで集約されたパーソナルデータを含むビッグデータはどのように取り扱われていくのだろうか。そこで本稿は、2022年1月25日に上梓された拙著『まなざしの革命 世界の見方は変えられる』第三章「平和」より、加速するデジタル化のもうひとつの側面について論じられている章の一部を抜粋してお届けする。


現代の戦争は、かつての殺傷兵器の撃ち合いから離れ、ますます目に見えないものになっている。これまでのABC兵器、つまりアトミック・ウェポン(核兵器)、バイオロジカル・ウェポン(生物兵器)、ケミカル・ウェポン(化学兵器)も「透明な兵器」であった。だが、そうした戦時に使用される兵器以上に、サイバー戦や情報操作を中心とした平時では、兵器はより自然な形で透明化する。撃ち合いというわかりやすい戦争として展開されることはなく、私たちの日常生活に便利な形で入り込んでくるのだ。すでに、私たちが日常で使用するものや身に付けるものの中に、ひっそりと戦争の道具が潜んでいる可能性がある。そこに堂々とあっても、それが兵器であると気づかない。それがまさにハイブリッド戦争の狙いである。

スマホのようなデバイス、SNSサービス、顔認証アプリなどを通じて、私たちの個人情報は見えない形で追跡され、管理されている。土地や企業の買収、民営化されるインフラなどは、合法的な形で他国が入り込む入り口となる。映像やゲーム、芸能や文化などのコンテンツの形を借りた一見安全そうに見える方法でも、私たちのまなざしは特定の価値観へ導かれている。 

そして次に向かう先は私たちの身体の内部である。よりダイレクトには、食品や医薬品の形で私たちの身体へ入り込む。食品に混入、あるいは添加されているさまざまな化学物質の危険性はもう随分と前から問題になっているが、現代はそれだけではない。医療産業はサイバー産業と組み合わせられ、私たちの身体情報を数値化しビッグデータとして蓄積しており、それらも戦争の道具になりうる。すでにヘルスケア・アプリのような形で、私たちの健康の管理権は徐々に移行されつつある。それをより進めるならば、皮膚の下から私たちをモニタリングし、何か問題があれば外部から直接管理するという流れになるだろう。

ペットには、マイクロチップを体内に埋め込むことが義務化されている。次に認知症対策や治療のためと称して、合法的に高齢者の身体に入ってくるだろう。そして迷子や虐待防止と称して子供に入ってくる流れが予想される。さらに、疾病予防対策や病状の改善策として成人の体に導入される。健康な成人には能力向上や利便性を装って入ってくる可能性もある。全てがインターネットにつながるIoTの社会では、私たちの身体もオンラインでつながれダイレクトに管理の対象になる。

ナノテクノロジーと人工知能、通信技術と化学物質などを組み合わせることで、私たちを内部からコントロールするための技術的条件は十分に整っている。後は、社会的条件が粛々と整えられるのを待つばかりである。そこでパンデミックのような世界的な危機は恰好の条件となることは言うまでもない。狙われているのは私たちの皮膚の下であり、大義や建前を理由に正当化され、気づかない間にさまざまなものが身体の中に忍び込む条件が整う。戦争の担い手は、兵器産業から情報産業へ移り、すでに医療産業へと手を伸ばしつつある。

それらが軍事的に利用されることになると、インターネットでの情報を通じたプロパガンダや、フェイクニュースによる洗脳という生ぬるいことはもはや必要ない。私たちの体内にアクセスし、体調や精神状態まで外から直接コントロールできるならば、もはや戦争という概念すらなくなるのかもしれない。戦わずして勝つことが最高の戦略なのであれば、これ以上の方法はないだろう。戦争の目的は、相手を破壊すること以上に相手を支配することなのだ。

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ハナムラチカヒロ

1976年生まれ。博士(緑地環境計画)。大阪府立大学経済学研究科准教授。ランドスケープデザインをベースに、風景へのまなざしを変える「トランスケープ / TranScape」という独自の理論や領域横断的な研究に基づいた表現活動を行う。大規模病院の入院患者に向けた霧とシャボン玉のインスタレーション、バングラデシュの貧困コミュニティのための彫刻堤防などの制作、モエレ沼公園での花火のプロデュースなど、領域横断的な表現を行うだけでなく、時々自身も俳優として映画や舞台に立つ。「霧はれて光きたる春」で第1回日本空間デザイン大賞・日本経済新聞社賞受賞。著書『まなざしのデザイン:〈世界の見方〉を変える方法』(2017年、NTT出版)で平成30年度日本造園学会賞受賞。