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日本型ミッションクリティカルDX

2022.04.14

Updated by Toshimasa TANABE on April 14, 2022, 12:00 pm JST

既に忘却の彼方になった感もある「ドコモ口座」やみずほ銀行のシステム障害の話などを見るにつけ、日本のDX、特にミッションクリティカルな分野でのDXというものに落胆せざるを得ないのだが、実は、20年以上にわたって大きなトラブルもなく順調に稼働していて、ユーザーにとってはなくてはならない存在となっているサービスがある。JRA(日本中央競馬会)のネット投票システムである。

PCで利用できるサービスの開始当初は、MS-DOSで動作するフロッピーディスクがベースのシステムだった。電話回線につないだPCにフロッピーを挿したまま、フロッピーを読み書きしながらアプリケーションが動作する、というものだった。

ある時、投票ボタンを押した瞬間、フロッピーディスクから異音がしてクラッシュ、投票できないままの状態で「珍しく予想通りの順番で馬がゴールを駆け抜ける」のを呆然と見ていた、ということがあった。当時のIT業界では、「ミッションクリティカルな業務にPCを使ってはいけない」などといわれていたものだが、まさにそれを実感させられたのだった。

実は、テレビを持たなくなって久しい。週末の競馬は、出馬表もレース結果もすべてJRAのWebサイトで確認している。レース実況は、radikoで聞いて、数分後にJRAのサイトに公開されるレース映像をPCやスマホで見る。こと競馬に関しては、テレビや競馬新聞などは既に過去のものである(朝からグリーンチャンネルを点けっぱなしにして、ビールでも飲んでダラダラしていたい、という気もしなくはないが)。

勝馬投票券(馬券)の購入も、ほぼすべてネットである。コロナ禍で競馬場はもちろん、場外馬券売り場(典型的な密空間である)へも行く気にはならないし、実際、無観客開催や場外馬券売り場の閉鎖などで行けなくなっていた。それでも、競馬はずっと続いているし、馬券の売上が激減したりしないのは、20年以上にわたってオンライン化を進めてきたからでもあるだろう。

たまに競馬場に行っても、現金で馬券を買うよりはスマホからネットで買う方が多いくらいである。勝つにせよ負けるにせよ、ちょっと飲んでから帰るためには、財布には多少の現金を残しておかなければならない、という事情もある。

JRAの投票システムを使うようになって20年以上になるが、目立った障害やシステムトラブルなどは記憶にない。これは、特筆すべきことだと思う。開催が通常は土日だけなので、平日をバッチ処理やシステムメンテナンスに充てられる、ネット投票の会員数は限られているので投票数が想定を大幅に超えるほど爆発的に増えるということは考えにくい、などが安定稼働の要因として挙げられるだろうが、FX(外国為替証拠金取引)のシステムダウンで、すべての建て玉が消えてしまい元に戻らなかった、などを経験した身(あるいは20代にはSEだった身)としては、素晴らしいと感じている。

また、端末やPC環境の対応範囲も幅広いのも素晴らしい点の一つだろう。PC対応以前の電話投票もいまだに可能だし、かなり古いブラウザでも投票できる。いわゆるガラケーからの情報収集や投票にも困らない。必ずしもITを得意としてはいないであろうユーザー層を考慮すると、また、そのユーザーになるべくたくさんのお金を賭けてもらうというサービスの目的をからすれば、当然のことなのかもしれないが、少し前に書いたような最新機種、最新バージョンへのアップデートを促し、あるタイミングで古いものを切り捨てていく、という今時のサービスとは、かなり趣が異なっている。

JRAが自ら運用するミッションクリティカルな投票システムというだけではなく、馬の育成シミュレーション・ゲーム、過去のデータを投入しての予想システム(過去のデータがこれだけ充実しているギャンブルは競馬以外にはなかなかない)など、他にも「デジタルな競馬」にはいろいろな側面がある。それだけに、デジタルやデータとその様々な利用局面、高信頼のシステムの維持など、競馬に学べる点は多いのではなかろうか。

Modern Times」に掲載された「DXとスポーツ デジタルの市場はアマチュアにある」を土曜の昼下がりに読みつつ翌日のビッグレースを検討していたときに、こんなことが頭の中に浮かんできた。

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田邊 俊雅(たなべ・としまさ)

北海道札幌市出身。システムエンジニア、IT分野の専門雑誌編集、Webメディア編集・運営、読者コミュニティの運営などを経験後、2006年にWebを主な事業ドメインとする「有限会社ハイブリッドメディア・ラボ」を設立。2014年、新規事業として富士山麓で「cafe TRAIL」を開店。2019年の閉店後も、師と仰ぐインド人シェフのアドバイスを受けながら、日本の食材を生かしたインドカレーを研究している。