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日本の安全保障のためデジタルノマド・ビザの発給を

Digital Nomad Visa for national security

2022.09.29

Updated by Mayumi Tanimoto on September 29, 2022, 06:00 am JST

日本では数年前に「デジタルノマド」というコンセプトが若干流行りました。これは、働く場所を気にせずに世界中の様々なところでデジタルツールを活用して働く、というライフスタイルです。

コロナ禍でこれが一般の人にも知られるようになりましたが、日本の場合、在宅勤務の精度や環境を整えた会社は多いものの、最近ではオフィス勤務に戻ってしまう会社もかなり多く、結局、デジタルノマドというコンセプトはあくまで海外のものという感覚のままで、日本で本当に実践している人はほとんどいないという状況に見えます。

しかし、北米や欧州の場合はコロナ前から在宅勤務を前提として運営している会社も多いですし、特にアメリカ、カナダ、イギリスは自営業になりやすいということもあり、手に職があるならフリーランスになって世界中の様々な場所を転々として生活するという人が増えています。

特に最近インフレのアメリカは、アメリカの仕事を維持したままポルトガルやスペインに移住して、現地の郊外や田舎の激安の不動産を買って、アメリカの仕事で得ている収入やアメリカに持っている物件の賃貸料などで、移住先で余裕のある暮らしをする人が出てきています。

イギリスの場合は、たまにしか出勤しない人や自営業の方、資産運用で生活している方が、コロナの前から 欧州の温暖な地域や北アフリカに住んで、現地の安い不動産や物価の恩恵を受けている、という例がかなりあります。

実は、こういう暮らし方が可能な背景には、受け入れ国の方で非常に柔軟なビザを発行しているという事実があります。ある程度の学歴水準や収入の証明、資産、といったものがあれば、長期滞在のビザを発行する国がコロナの後も増えてきているのです。

通常の就労許可は、現地の企業などに雇用される必要がある場合がほとんどですが、デジタルノマド・ビザの場合は、フリーランス、自営業者、リモートワーカーなどで国外から収入を得る人でも中長期の滞在用ビザが発行されます。大多数のデジタルノマドは、高収入を得る人々で教育レベルが高いですから、受け入れ国にとっては消費者として歓迎すべき層です。子供や家族がいる場合は、教育や住宅などの需要も生まれます。

例えば、最近話題になったのがタイですが、その他にもマルタ、 クロアチア、ギリシャ、エストニア、ラトビア、ルーマニア、ハンガリー、アイスランドなどの欧州の国でも、こういったビザを発行しているところがあります。

特にAIなどの分野は世界的に人材の奪い合いなので、 こういったビザで優遇することは、世界の優秀な人材に来てもらうことにつながり、国内のIT業界の刺激にもなります。対面で交流したり人間関係を作ることが、起業や新たなアイディアに結実することも多いので、産業の発展には非常に重要なのです。

先に挙げた国のリストを観てハッと気がついた方はいらっしゃるでしょうか。

これらの国の多くが、実はロシアの脅威にさらされている国です。そしてこれらの国には、日本のように米軍基地があるわけではないので、有事の際に頼れるのは自分の国と同盟国だけです。その際に 軍事力や経済力が強い国と草の根でネットワークを持っておくことは、非常に重要になるわけです。

また、デジタルノマド・ビザで滞在している人々は、何らかの形で海外にその国の情報を発信することになります。高収入で教育レベルも高いですから、出身国に対しては何らかのインフルエンサーであることも少なくありません。国内のことを海外で影響力がある人に知らせてもらうことは、安全保障の上でも非常に重要です。

90年代に提唱された「予防外交」が、高度人材を呼び寄せることで可能になります。

我が国の地理的条件は、実はこれらの国よりもはるかに厳しい状況で、安全保障の点では実は恐ろしく脆弱です。日本政府は、安全保障の観点からもデジタルノマド・ビザのような施策を実施する時期に来ていると考えます。

 

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。