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刑務所 鉄格子 窓 イメージ

イギリスのスマート刑務所の狙いは何か

UK's smart jail

2022.11.02

Updated by Mayumi Tanimoto on November 2, 2022, 07:00 am JST

イギリスでは東ヨークシャの HMP Full Sutton刑務所が、3番目のスマート刑務所として2025年に開設されます。イギリスには既にに2つのスマート刑務所がオープンしています。

スマート刑務所は、フィンランドやアメリカでも開設されていますが、イギリスの場合は刑務所の セキュリティに様々なテクノロジーを導入する点が特徴的です。

特にドローンによる物資の配送や浸入を防止したり、高性能なボディスキャナーを導入しています。なぜこんなテクノロジーを導入しなければならないかというと、実はイギリスの刑務所ではドローンによって麻薬や武器、スマートフォンなどの刑務所への「密輸」が後を絶たないのです。また、訪問者や受刑者が体内に様々な武器や物資を隠して持ち込んでしまうからです。

イギリスの刑務所は、他の政府の設備と同じく人不足で、監視が行き届いていません。そこでテクノロジーを導入して効率化を図ろうとしているのです。

非常に興味深い点は、こういった刑務所の中で、各受刑者にタブレットや ChromeBookを提供し、刑務所の中でデジタルスキルをアップしたり個別の学習を進めてもらっているという点です。また、こういったデバイスには履歴書のテンプレートも 入っていて、刑務所の中から外の仕事に応募ができるということです。

イギリスがなぜこのような先進的かつ過激なことをやるかというと、 出所後1年以内に仕事を見つけることができる受験者は20%に過ぎず、44%は1年経っても失業したままです。若年層の再犯率は40%近くになります。仕事がないために再犯率が非常に高く、更生確率が非常に低くなります。

イギリスの場合、出所した人を雇うのは、従来は造園業や一部のサービス業でしたが、そいった業種は近年は新興の移民との競争です。求められるスキルレベルが上がる一方で、サービス業でもデジタルスキルは今や必須です。

イギリスをはじめ他の先進国では、犯罪者の平均年齢が日本に比べて低く、 また知識産業のスキルがないと仕事を見つけることはかなり難しいですから、このような取り組みは過激というよりも実社会の変化を反映したものといえるでしょう。仕事がなければ再犯率が高まり、更生や収監には公費がかかり、治安も悪くなります。技能を身に付けてもらうことはむしろ税金の節約にもなり、社会の安定や繁栄に繋がります。

一方で日本の刑務所では、内職のような作業ばかりですから、実社会で仕事を探すのにはあまり役立つスキルが身に付くとはいえないでしょう。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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