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メールの未来

2023.01.18

Updated by Ryo Shimizu on January 18, 2023, 07:03 am JST

四半世紀ほど前、電子メールに初めて触れた頃は、これほど便利なものがあるのかと感動した。
切手さえいらず、何通でも即時に送れるという仕組みは衝撃だった。

また、電話と異なり、相手の時間を拘束しないという点にも惹かれた。
1999年にiモードが登場すると、どこにいても電子メールを完全にリアルタイムで受け取ることができるようになった。
今では当たり前すぎるのだが、当時は革新的だった。

iモードによって電子メールがリアルタイムに届くようになると、メールの書き手は次第に人間ではなくコンピュータになっていった。
小さなソフトハウスで働いていた筆者は、自分にメールするシステムを次々に自作した。システムのトラブルを監視してメールが飛んできたり、毎朝のスケジュールがとんできたり、まだ未着手のバグレポが飛んできたりといった具合だ。

メールを使ったゲームがヒットして、小さなソフトハウスはもう少し規模が大きくなった。
2006年には電子メールという言葉はほぼ使われなくなり、単にメールと呼ばれた。

今、メールを書いているのは主にコンピュータだ。
メーリングリストやメールアドレスの所在確認メール、銀行の振替通知、そしてもちろん、迷惑なスパムも。
世の中に流通しているほとんどのメールはコンピュータが書いている。もちろん本文は人間が書いていると思うが、これがAIに置き換わるのは時間の問題だ。GMailなどは今だって簡単な返信なら自動生成してくれる。

メールが極端に便利なのは、アドレスさえあればなんだって送れてしまうという性質にある。
電子メールの歴史はWebよりずっと古く、にも関わらず未だほとんどまともな改良が加えられていない。
Webの進化の目まぐるしさに比べると、メールの進化はおそろしくゆっくりだ。

もちろん先駆者や開拓者たちは何人もいた。
メールを新しい概念で置き換えようとする人々だ。

TwitterやInstagramも、広い意味ではメールを代替しようとする動きである。
メールアドレスがわからなくてもTwitterのダイレクトメッセージを送ることができる。

FacebookやInstagramのメッセンジャーも、メールのように機能する。

さらに良いのは、メール以外の伝達手段、いわゆるソーシャルネットワークは、相手をブロックしたりミュートしたりすることができる。

扱いに困るのは、「知らない人からのメール」である。
最近は知らない人からのメールは一律でスパム判定される傾向が強い。
普段は快適だが、時折ひどく勿体無い取りこぼしをしていることに気がついた。

筆者のように、物書きを日常的にやっていると、ときどき、「直接は知らない人からの面白いメール」をいただくことがある。
または「よく知っているわけではないけど、実はどこかのイベントで一度会って、話が弾んだけどそのまま忘れていた人からのメール」もある。

全く知らない人だけれども、過去に書いた本の感想文をもらったり、講演の感想文をもらったりすることもある。

また、メディア関係者からの連絡や、仕事の連絡などが知らない人から来た時に、取りこぼすと現実的な損失が生まれる。そして僕は過去にけっこう、こういうメールを取りこぼしてきた。

こういうメールがスパムとして判定されてしまうと勿体無いし悲しい。
GMailのスパム判定はわりとうまくいっているように思う。正直言って、スパムメールはインターネットのシステム全体の負荷をいたずらに上げる社会悪だと思うが、それ以上に「届くべきメール」が届かないのは困る。

Facebookのメッセンジャーにも最近はスパム判定が二段階装備されていて、「知り合いかも?」という知らない人からのメッセージと、「スパム」というメッセージの両方が残る。ところが「スパム」と判定されているなかに、全然大事な連絡が来ていて数年間気づいてなかったことに昨日気づいた。それでこんな記事を書こうと考えたのだ。

「スパム」判定されたのはあきらかな詐欺や、詐欺まがいの勧誘、そして普通の会社の飛び込み営業まである。
今の筆者はしがいない一介のUberEats配達員だが、少し前まで会社の社長をやっていたので、それをあてにしてめちゃくちゃ飛び込み営業メッセージがくるのである。

こうした飛び込み営業も、99%はブロックするのだが、ほんとうにときたま、心に隙間ができたとき、1%くらいは相手にしてしまうことがある。でも向こうにしてみれば、百件声かけて一件ひっかかれば上出来だろう。ナンパですら、百人に声をかけて一人が話を聞いてくれたら上出来なのだから。ましてや、メッセージによる飛び込み営業はワンパターンで知性ゼロのテンプレートを大量に送りつけるだけの、AIですら使うのが憚られるような仕事である。100件送るなんて余裕だ。なにかのルールには抵触しそうだがRPAで自動化すらできるだろう。そもそもソーシャルネットで飛び込み営業というのがなにかのルールにバッチリ触れてるのだから、彼らがルールを守ってRPAを使わない理由がない。まあRPAを自力で設定できるようなインテリジェンスのある人が、そんな昭和の体育会系みたいな飛び込み営業をやるのかは疑問だが。

最近のFacebookの広告の荒れっぷりには正直、苛立ちを覚える。
毎日のように、孫正義が、前澤友作が、吉田謙一郎が、三木谷浩二が、新しい仮想通貨を作ったなどと完全なる嘘のニュースが広告として流れてくる。僕のクラスタがおかしいのだろうか。そうかもしれない。しかし何度そうした広告を詐欺だと報告しても撲滅されない。Facebookは社内に立派なAI研究チームがあるのだから、XRに注力する暇があったら率先して足元のサービスを改善するべきだ。

人間が見れば、「価値のあるメール」か「そうでもないメール」かは一瞬にして判別できる。もちろん偽広告も
なぜこの程度のことができないのか考えてみるとかなり興味深い。

もちろんFacebookもその他のメールおよびメール的サービスも、AI的なものを導入してスパム判定をしているはずだ。
ところがスパム判定を正確にやるほど高度な人工知能を、全てのメールのやりとりに介在させようとするととんでもなく負荷がかかる。
天文学的な金額になるだろう。

ほとんど全てのサービスでは、メッセージのやりとりは無制限に無料で、ここにそんな高度なAIを入れるわけにはいかない。
しかもAIが自動的に判定すると、その判定を掻い潜るような手口を必ず犯罪者たちは見つけ出す。場合によっては、そこにAIを使うだろう。

原則として、AIとAIが戦うとき、より高度なAIが必ず勝つ。

この場合、「高度さ」とはコストであり、受診されるメールの数が膨大なのに対し、犯罪者の作るスパムは圧倒的に少ない。だとすれば、一軒あたりの処理コストに一千倍以上の差ができるはずだ。こうすると、その時点で犯罪者はメールを受信する側よりも圧倒的に高度なAIを使うことができる。

これを自衛するためには、受信者側が犯罪者側よりも高度なAIのコストを支払わなくてはならない。
でもほとんどの人にとって、そんなコストはかけたくないから、今までと同じようにスパムにまみれた世界で生きることになる。

つまり、対個人ということになると、GoogleやFacebookのAIが単体でどれだけ強力だろうとそれをユーザー数で割れば世界最塾に限りなく近くなる。一方犯罪者は、数百通のメールをAIが自動生成してほんの一つだけ穴を見つければいい。おそしくイージーだ。

次の問題として、そもそもこんな見え見えの手にひっかかるのかという問題もある。
普通に考えたら、ソフトバンクやソニーが独自の仮想通貨を作って売り出すというのはにわかに信じがたい。少なくとも裏取りくらいはするはずである。ただ、ソフトバンクとソニーの区別がつかないような人々というのは世の中に無数にいる。どちらもハイテク関係で、ソで始まる英語風の発音の会社、という認識くらいしか持たない人にとって、そうした広告は危険である。

身近な例でいうと、うちの両親は引っかかってしまう可能性がある。うちの親父は一時期、散歩ででかけていった家電量販店で、毎週のように必要もないモバイルルーターを買ってニコニコしながら帰ってきて解約を繰り返すというきことをやっていた。仕方ないのだ。人間はいつまでも若い頃のような明晰さを保てる人ばかりではない。

最近だと「補助金として五億あげましょう」というメールをよく読んだらジンバブエドルだったというのもある。
100兆ジンバブエドルが0.3円だから、5億ジンバブエドルはそれよりずっと少ないということになる。

普通なら、「冗談だろ」と一笑に伏せるのだが、自分以外の人がひっかかる可能性は全く否定できない。

どんなに高度な教育を受けて、どんなに聡明に見える人でも、いつだってなにかのきっかけでヤバいものに引っかかる可能性がある。
その可能性がゼロでない限り、犯罪者たちにとってスパムは獲物を釣り上げる有効な手段であり続けてしまう。

筆者のまわりを見渡してみると、驚くほど意外な人が、ほとんど詐欺みたいなメールや勧誘を間に受けて真剣に悩んでいることがある。
どんな人でも被害に遭う可能性がある。筆者は自他共に認める変人なので、基本的にたとえ面識があっても興味が湧かなければメールを無視することがある。無視しようとしなくても、「あとで読もう」と思ってそのまま何年も放置してしまったメールもある。記憶にないものを思い出すことはできないから、そんなきっとメールはやまほどあるだろう。筆者は人工生命の研究のため、自然生命の自然知能、すなわち人間の振る舞いを観察するために積極的に色々な人と話をする習慣があるので、いちいち一面識くらいのひとを覚えられない。

ただ、世の中の多くの人は、偶然の出会い、ちょっとした出会いが少ない。
だから引っかかってしまう。人間というのは、ひとつのシステムであり、システムは構造的な欠陥から逃れることはできない。
仮に相手の顔にはっきりと「詐欺師」と書いてあったとしても、引っかかってしまうような物語を構築することはできるだろう。

いわゆるGAFAMNとかビッグテックとか呼ばれる会社は、ユーザー数が多すぎる。
ほとんどの国家の人口を超えるような人々の管理を、たかが一企業がやるのは土台無理なのだ。
簡単に言えば、詐欺広告を撲滅できないプラットフォームの収入源のいくばくかは犯罪者たちであり(彼らは行儀よくプラットフォームに広告費を払う)、それが収入のどのくらいの割合を占めているのかはわからないが、僕には毎日詐欺的な広告が届くことを考えると、少なくとも1/10くらい、日によっては1/3くらいが詐欺的な広告の日がある。

普通に考えたら、テレビCMに明らかな詐欺は流れない。それはテレビ局や広告代理店が非常に厳しい審査をしているからだ。なのにソーシャルネットワーク各社は、顔も見ないで広告を引き受ける。それが便利な点でももちろんあるのだが、せめて個人IDを確認するくらいの、UberEats配達員登録くらいの手間はかけてもいいのではないか。

本当に自衛したければ、やはり個人でAIを持つしかない。自分の身を自分で守るためのコストだが、たとえばウィルスバスター的なものにこういうAIを組み込んだ方がいいのではないか。少なくともちょっとしたGPUが動いて「これは詐欺ですな」と判定するサービスくらいはあってもいいのではないか。ウィルスバスター的なものにお金を払うという流れは既にできているので、この延長線上で詐欺メール判定と詐欺広告ブロッカーがあってもいいと思う。プラットフォーマーが守ってくれないから自衛するのだ。

メールの未来、というタイトルで書き始めたわりには、非常につまらない結論になってしまって我ながら衝撃を受けている。
少なくとも明るい未来ではなさそうだ。

これで原稿料をいただくのは申し訳ないから、少し前向きな話も書いておくことにしよう。

メールはとても便利なツールであり、未だに昔ながらの電子メールの地位は揺るぎない。
ソーシャルネットのアカウントを持っていない人はいても、メールアドレスをひとつも持ってない人を探すのは今は難しい。
それくらい、メールは便利である。

メールの欠点は、便利すぎることだ。
だから今やメールアドレスはパスワード並に慎重に管理しなければならないものになった。スパムが来るからだ。

SlackやDiscordはメールの欠点を直接克服しようとして作られた。しかし未だにメールほど便利にはなっていない。
それにはいくつかの理由がある。

電子メールは分散型システムだ。非中央集権である。世界のどこにも中心がない。
ほら、みんなが欲しい欲しいといってる非中央分散自律組織は、とっくにあるよ、電子メールである。

電子メールの欠点が唯一あるとすれば、遅いことだ。
これはネットが今よりずっと遅かった、信じられないほど遅かった時代の流れを汲んでいるからある程度は仕方ない。
メールはDiscordより遅い。

SlackとDiscordは新たなソーシャルネットに過ぎないので、広告なんかが入るようになるとディストピアが待っている。
今そうなってないのは、広告が入れられないようにされているからだ。これはひとつの賢い手段であると思う。

Slackでは「知らない人からの嬉しいメール」はこない。
Discordでは、来る可能性がある。しかし、Discordが飛び込み営業のツールになる日が来たら、それはもう完全に悪夢である。そしてDiscordは今のところ飛び込み営業を排除できない仕組みだ。

電子メールの最大の欠点は何か。
ユーザーインターフェースである。

筆者はむかし、iPhone黎明期に一度だけ「新しいかたちの電子メール」を試みたことがある。

QuickPigeonというアプリで、友達にちょっとしたアンケートをとる。たとえば「今からランチにいかない?」などだ。
このメッセージは電子メールで送られる。

当時、iPhoneはまだ珍しい方だったから、送られてきた電子メールには直接ボタンが表示されている。
そのボタンは「YES」か「NO」だ。ランチに行ける人はYESを、そうでない人は無視するかNOを押せばいい。

当時実装されたばかりのPush Notificationで、返事が集計される。
これのポイントは、YESが帰ってきたかNOが帰ってきたかで、着信音が変わることだ。つまり画面をみなくても今きた返事がYESか
NOかわかるようになっている。

このアプリはAppStoreのトップバナーを飾った。新しい機能であるPush Notificationをいち早く取り入れた点がきっと評価されたのだろう。このアプリが儲かったかどうかは全然覚えていない。作っておいてナンだが、iPhoneにはもっと可能性があるのではないかと思っていて、別のアプリに集中してしまったからだ。

ただ、例えばメーラーにまったく手を加えなくても、電子メールのUIを変えることはできた。
文字だけでなく音でもメールの内容がわかるなんていうアイデアは我ながら気に入っている。

スティーブ・ジョブズはiPhoneを発表したとき、SMS(ショート・メッセージング・サービス)のUIをチャットの形式に変えた。これは発明だった。SMSが断然、やりやすくなったのである。

メールも同じようなイノベーションが起こせる可能性は全然ある。
メルマガも、カビの生えたような文字だらけのものじゃなくてHTMLメールで来たっていいはずだ。

だいたい、返信メールに前のメールを含めるという慣習は20世紀の遺物である。
GMailは多少マシになるが決定的にマシにはなってない。

そろそろまた、メールの未来についてもっと真面目に考えてもいい時期ではないかと思うのだ。

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清水 亮(しみず・りょう)

新潟県長岡市生まれ。1990年代よりプログラマーとしてゲーム業界、モバイル業界などで数社の立ち上げに関わる。現在も現役のプログラマーとして日夜AI開発に情熱を捧げている。

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