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ベネズエラがAIを支えているのはなぜか?

Venezuela supports AI

2023.01.26

Updated by Mayumi Tanimoto on January 26, 2023, 12:00 pm JST

AIや自動運転の発展が目覚ましい一方で、システムの開発には意外な地域が活躍しています。

HTW Dresdenのデザイン教授であるFlorian A. Schmidt教授の論文によれば、Mighty AI、Playment、Hive、Scaleといった自動運転システムを開発する企業の多くが、ベネズエラの人々に様々な作業を依頼しており、2018年には75%の作業者がベネズエラに在住していたというデータもあるほどです。

なぜベネズエラなのかというと、国家経済が崩壊しインフレが急激に進んだためにかつての中流階級が失業したり生活困難に陥ったため、なんとか食べて行く手段として、海外の企業からクラウドソーシングで仕事を請けているからなのです。

スペイン語が通じ、英語を理解する人も多い上に、教育レベルが高く、通信インフラも存在し、コンピューターの所有率も高いため、理想的なアウトソーシング先です。

Schmidt教授の調査によれば、 ブラジルやイタリアといった国では、あくまで副業としてクラウドソーシングで海外から仕事を請けている人が多かったのですが、ベネズエラでは何とか食べて行く手段として仕事を請けている人が多かったというのです。

そしてその少なからずは、友人や家族経由の口コミで仕事を請けています。血縁のつながりが強いので、熱心に働く人が、別の親族を連れてきてくれるわけです。

自動運転システムの開発にあたっては、動画から画像、テキストといったデータにラベルを付けたり振り分ける、精査する等の膨大な作業が発生します。また、重要なのが検索結果の調整といった作業で、精度を上げるために人間による手作業が必要になってきます。

とにかく作業の量が多いため、自動運転のシステム開発企業にだけではなく、AI企業もその多くを自社だけではなく外注企業なども使って処理しているわけです。

先進国だけで作業していると膨大なコストが発生してしまうので、ベネズエラのような経済的に困難な状況にある国や、ブルガリア、ケニア、フィリピン、中国、マケドニアなどといった世界各国の国々に外注しているわけです。

このような外注は、海外にある子会社や、第三者企業経由の場合もありますし、クラウドソーシングの会社経由の場合もあります。海外に作業を委託する場合は、先進国の労働法が適用されない上に賃金も安く上がります。

さらにクラウドソーシングの場合は、働く人は「個人事業主」となるために、従業員を雇用したことにならず、福利厚生費用や年金を払う必要がありません。

とはいえこれが、第三国の労働者の「搾取」であるとして批判にさらされています。自動運転やAIの案外泥臭い実態です。

一方、こういう外注が可能なのは、英語やスペイン語なら言語バリアが少ないから、という条件もあります。作業効率が高いので、より多くのデータを処理することが可能で、システムがより早く成熟します。こういった膨大な作業を処理する環境は日本語環境にはないので、日本はかなり不利な立場にあるわけです。

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谷本 真由美(たにもと・まゆみ)

NTTデータ経営研究所にてコンサルティング業務に従事後、イタリアに渡る。ローマの国連食糧農業機関(FAO)にて情報通信官として勤務後、英国にて情報通信コンサルティングに従事。現在ロンドン在住。

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